第2話 試してみた

 レイビン王国騎士団近衛親衛隊隊長にして、剣の名家グレリオン家の現当主ガイゼル・グレリオン。


 この人が昨日、私が宣戦布告をした私の父だ。

 その剣の強さは周辺国にも知れ渡るほどの強さで、一騎当千という言葉は父の為にある言葉なんじゃないかと思う。


 ともあれ、その父上に昨日あれだけの事を言ってしまったのだ。


 二日後には今まで私が受けてきた屈辱を少しでも晴らさせてもらう。


 昨日の夜、更にこの『万物念動』には何が出来るのか、色々試してみた。

 アイシャにも協力してもらって、このスキルの使い方が段々と分かってきた。


 まず私が見える範囲の物しか動かせないということ。

 ペンを浮かせて部屋から廊下に出してみたら、扉を出て視界から見えなくなった途端、床に落ちた。


 あと廊下で、どのくらい遠くまで動かせるかやってみたら、二十メートルほど先でポトリと落ちた。


 見える範囲というのは何度か試したが、これはどうにもならないみたいだ。


 ただ動かせる距離というのは、感覚的にまだ伸ばせる気がする。


 現に昨日は何度も試してるうちに数メートルほど伸びた気がする。


 あとは同時に動かせる数だ。

 訓練場では最大11本の木剣を動かせたが、部屋に戻ってからもどのくらい動かせるのか試してみた。


 アイシャにペンやら、コップやらを持ってきてもらって、とりあえず何個浮かせて回せるかを試した。


 最初は訓練場の時と同じ11個のペンやコップを動かせた。

 でもやっているうちに、またその個数を増やす事ができ、寝る前には18個浮かせて回す事が出来た。


 またちょっと頭が痛くなったけど…。


 あと動かせる物の制限もさらに分かってきた。

 とりあえず分かったのは人間と、人間に触れている物は動かせない。

 これは昨日の朝食前にアイシャに試してみて、何となく見当はついていた。


 実は朝食の時にもお父様のナイフを取り上げて回そうとしたのだが、何度念じても駄目だったので、仕方なく自分の目の前のナイフであのようにパフォーマンスしたのだ。


 部屋に戻ってからも自分で手に持った物や着ている服を動かそうとしたが、やっぱり駄目だった。

 アイシャの持ち物や服も同様だった。


 これが出来れば着替えとか楽だし、戦いの時も相手の武器を取り上げたりできて、相当有利になると思ったけど、無理なものは仕方ない。


 着替えぐらい自分でしなさい、人の物は盗っちゃ駄目って事か?


 まあ、それが出来てしまうと本当のダメ人間になってしまいそうなので、それはそれで良かったのかもしれないな。


 そうして朝から昼食を挟んで、ずっと部屋に籠って『万物念動』の練習をしていたら、夕方になってしまった。


 すると不意に私の部屋の扉を誰かがノックした。


「誰?」


「グミールです。入っていいですか?お姉さん?」


「いいよ。どうぞー」


「失礼します…、うわっ!何ですか、これ?全部お姉さんが浮かせてるんですか?」


 弟のグミールは部屋に入るなり、部屋の中で無数に浮かんでいるペンとかコップを見て驚いていた。


「そうだよ。あっ、グミール!見て見て!お姉ちゃんこんな事も出来るようになったんだよ」


 そう言って私は浮いているペンやコップをグミールの周りでぐるぐると旋回させた。


 その数は合計26個!

 頭痛も全然しない!


「グミール、当たると危ないから、触っちゃ駄目だよ」


「ラフィーネお嬢様、本当に危ないですから止めてください!」


 アイシャが慌てて止めにきた。


「ごめんごめん。もう止めとくね」


 そう言って私はまた、浮いている物たちを空中に静止させた。


「お姉さん、こんなに浮かせてて疲れたりしないんですか?」


「浮かせてるだけなら全然大丈夫。これ以上数が多かったり、速く動かしたりするとちょっと疲れるかな?」


「数が多かったりって、もう充分多いと思うけど…」


「そうかな?でもまだまだ増やせそうな気がするんだよねー」


「そうなんですか?スゴい!」


 グミールはキラキラした目で私を見てくる。

 昔からこの子はそうなんだ。


 いつもお父様やお兄様から剣でポンコツ扱いされている私をお母様と同じぐらい、励ましてくれる優しい子なんだ。


 そしていつもこんな私を本気で誉めてくれて、この尊敬の眼差しを向けてくれる。


 たぶんこの子が居なかったら、私はこの家でもうとっくに心が折れてしまってたと思う。


 そのグミールが宙に浮かんでいる物を見ながら、顔をキラキラさせて私に話し掛けてきた。


「お姉さんの『万物念動』ってスキルをね、気になったから今日、学校で調べたんだよ」


「えっ?そうなの?何なに?何か分かったの?」


「それがね、もう三百年以上も確認されていない、レジェンドにランクされているスキルなんだって」



 …レジェンド…。マジで?


「えー!ホントに!?じゃあ、これってとんでもないスキルって事?」


「そうだよ!伝説級だよ!三百年以上誰も授かった人がいないって事なんだよ!」


 隣で聞いているアイシャの驚いた顔が目に入った。

 アイシャの口があんぐり開いている。


「じゃあ、私これで強くなれるかな?」


「そうだよ。こんな凄いスキル使える人なんていないんだから、お姉さんはやっぱりスゴいんだよ」


「ありがとう!グミール!なんか自信出てきたよ!」


「うん!僕は表立ってお姉さんの応援は出来ないけど、信じてるから!」


 そうだ。お父様が私の相手なんだからグミールは私の応援なんて出来る訳ないよな。


 でも、こうやってグミールに言われて本当に自信が出てきた。


「よしっ!アイシャ!もっと練習したいから訓練場に行こっか!」


 私はアイシャを引き連れて訓練場に行き、この日も夜遅くまで練習をした。

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