第16話 妹弟
教会では、二つの用事を済ませないといけない。まず、紹介状を渡さないといけない。次に、妹弟たちを引き取る話。
「こんにちは。シスター、神父様、いらっしゃいますか?」
「ああ…っ、ルナちゃん、いらっしゃい。みんな、まだ教会の畑にいるわ。会いに来たんでしょう。」
「はい。でも、その前に神父さんに用事があるんですが…、いらっしゃいます?」
「神父様、昨日帰って来たばかりよ。少し落ち込んでいらっしゃいますが…、呼んできますね。」
「やあ、ルナちゃんいらっしゃい。どうしたの?」
なんかいつもよりなれなれしい…気がする。
「あのぉ、神父様にお願いがあって…、実はですね。ここに、紹介状があるのですが、薬の素材をお渡しするので、ポーションの作り方を教えてくださいませんか?」
「ルナちゃん、薬の作り方くらい全然教えて構わないんですが…。実はですね。ククククッ…。」
あれ…?神父様が泣いて?いる???どうして?
「教えてあげたいのはやまやまですが…、もうすぐこの教会を追い出されてしまうので…す…。いや…、その前に教えてあげましょう。荷物の整理なんてやらなくても薬の作り方教えますよ。最後ですから…。この教会でこの町の方達の為にできることは何もないので…。子どもたちとも今日で…。せめて、望まれるならお役に立ちましょう。」
「神父様、どういうことですか?神父様がこの教会から追い出されるなんて…、何かの間違いではないでしょうか。」
「私もそう思いたいです。何かの間違いだと…。でも、先々週、王都の教会本部から呼び出しがありまして…。身に覚えがないことを何やかや言われて、罷免と破門を言い渡されたのです。1週間で、身の回りを整理して出ていくようにと…。そして、この教会を出て行かないといけないのが明日の正午。それまでに部屋を空にしておかないと衛兵に突き出すとまで。」
「どうして、明日の正午って何故ですか?」
「正午過ぎに新しい神父が赴任するそうです。引継ぎなどすることはないから顔を見せるなだそうです。」
「神父様が追い出されてしまったら、シスターたちはどうなるのですか?」
「さあ…、今後のことについては、私が追い出されること以外は知らされてないのです。」
「では、この孤児院のことは?」
「実はですね。この孤児院、今は、あなたの妹弟さんたち以外いないのです。いつの間にか転院させられたり、新しい養父母さんたちが見つかったりで…、こんなこと今までなかったのですが…。」
「よかった…。」
「えっ?どうしてですか?私がそんなに嫌だったのですか…。なんか、悲しくなってきました。」
「すみません。誤解されるようなこと言ってしまって。」
「ルナ、ちゃんと分かるように説明してくれ。神父さんにも分からないだろうが、横で聞いている私にもさっぱりわからない。何か変なことがあるのか?」
クロエも何のことかわからないようだ。そりゃそうだよね。私も知りたいことだけ聞いていたから。
「神父様。これは、私たちの両親が陥れられた何かの企みと同じです。そして、多分、その企みは、私たち兄弟を狙っていると思います。これから先のことは…シスターの中で信用できる方たちとも一緒に話したいのですが…、どこか部屋の部屋に集まってもらえますか?信用できる方は、1名以上いらっしゃいますか?」
「信用できるといえば…、シスターケイトとシスターアンジュは私がこの教会に赴任して10年間一緒です。シスターブランシュは、つい最近ですね。この教会に来て1カ月にもなりません。ちょうどあなたの妹弟さんたちがこの孤児院に来た頃赴任してきましたから。」
「怪しいですね。シスターブランシュ…。やっぱりシスターたちには、後でお話ししましょう。クロエ、神父様、工房でお話ししましょうか。」
私たちは、神父様と一緒に工房に移動した。
「今から私が話すことは、真実とは限りません。証拠はありません。状況から考えて怪しいというくらいです。そのことを前提に話を聞いて下さいますか?」
「それが前提なのだな。怪しいと言うだけなんだ。」
「はい。そうです。では、何が怪しいのか順を追ってお話しします。まず、私の両親の処刑です。急だったのです。両親の仕事ぶりは以前と何も変わらず、生活も変わりありませんでした。人の出入りも多くなったこともなく、どちらかと言うとなかったのです。急になくなったのではなく、いつも通りです。それなのにある日突然反逆罪で逮捕されたのです。私が、成人になる1週間前。だったから私は、連座でとらえられることはなかった。タイミングがおかしくないですか?そして、私は、債務奴隷に落とされてしまった。成人になったから債務の責が発生したのです。このタイミングです。」
「まあ、そのタイミングは、不幸中の幸いであり、不幸なタイミングでしたね。」
「そして、職業も公にされていない私を金貨100枚もの大金で競り落とした貴族がいて、その帰属は、私を闇奴隷に売り払おうとたくらんだ。隷属の魔術で縛ってです。この不幸な企みも偶然でしょうか?そこで、偶然、クロエと出会って、二人とも奴隷の境遇にされていたんです。これも、重なる偶然の不幸でしょうか?」
「そうだな。偶然の不幸がオンパレードだな。それをすべて潜り抜けてきたルナちゃんたちの強運もすごいがな。」
「そうですね。今日、教会に来たのは本当に幸運でした。もしかしたら明日になって手遅れになっていたかもしれない。」
「何がだ。私がこの教会を追い出されることがなんて言ったら本当に泣いてしまうかもしれないぞ。何が幸運だったのと言うのだ?」
「おそらく、明日、教会に赴任する神父様は、私の両親や神父様を陥れた手の者です。」
「神父様が何度も出て来てややこしいな…。神父様のお名前は何なのですか?」
「わたしか?私の名前は、ミゲル・シンプソン。ミゲルで良い。」
「では、ミゲル神父、次来る神父は多分、ミゲル神父を陥れた手の者ということだな。ルナ。」
「やり口が同じ、強引な方法でありもしない罪を覆いかぶせてくる。そして、狙いは、妹弟たちを囲い込んでしまうことだと思います。不法な手段でもなんでも使えるようにすることが狙いなのだと思います。」
「私を追い出して、不法なことでもできるようにするなら、シスターたちはどうなる。不法の片棒を担がせるのか?」
「もしかしたら不法の罪を着せられるのかもしれませんよ。だから、シスターたちも一緒にとお伝えしたのですが、シスター・ブランシュは、怪しいと思うのです。ですから、私たちが、妹たちを引き取った後、こっそり話してもらえますか?」
「引き取った?後とは?」
「今日は、妹たちを引き取ろうと思って来たのです。ついでに、後日、神父様たちも引き取ろうと思うのですが…、ダメですか?」
「私たちを引き取るって…、どこにだ?」
「それは、後のお楽しみということで…。妹たちは、今日、引き取りますが、神父様たちは、明日の朝引き取りに来ます。シスター・ブランシュが寝ている時間に。その時に教会の工房の道具も持って行きたいのですが…、大丈夫ですよね。泥棒になりませんよね?」
「工房の道具は、ほとんど私の私物だから泥棒にはならないが、どうやって持って行くんだ?かなり大量だぞ。」
「それと、今日、血液を譲ってもらえませんか?お金は払いますので…。お願いします。」
「血液か…。良いぞ。一袋、銀貨1枚だぞ。定価だ。」
「じゃあ、金貨1枚分お願いします。」
「そんなにか…。残っていたかな…。まあ、あるだけ持ってくる。」
神父様は、8袋の血液を持ってきてくれた。金貨1枚支払って銀貨2枚のお釣りをもらった。
「では、妹たちは、引き取っていきますね。何か書類とかありますか?」
「書類はあるが、ルナちゃんは、成人しているし、実の姉だからサインだけで大丈夫だ。ただ、保証金として一年間金貨1枚を教会に預けておかないといけない。一年後、引き取った子どもたちと一緒に教会に来てくれればその金貨はお返しする。」
「大丈夫か?金貨1枚もかかるのだが、まあ、さっきも金貨1枚ポンと出していたから大丈夫か。」
私は、引き取りの書類にサインをし、金貨1枚の保証金を預けると妹たちと教会を出た。シスター・ブランシュが教会の入り口の陰から私たちを見ていたが、気付かないふりをして、町の方に歩いて行った。
時刻は、4時を過ぎている。町の中に家があるもの以外、宿を取りそこに帰る時間だ。私たちは、シスター・ブランシュの目がないことを確認して町の門の外に出た。妹たちは、少し不安そうだ。でも、今から砦に戻らないといけない。私たちの身を守るために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます