第12話 管理・守護契約

 今、何時くらいなのだろう。夕食の時間になればバトラムが声をかけてくれるはずなのだけど…。クロエも私も今日は、一日本を読んでいた。クロエは、そろそろ限界が近いようで体をもぞもぞさせている。


 私は、午後からは、読書と言うよりは、手当たり次第に本のコピーを行ったって感じだ。バトラムが来たら聞きたいことがあったのだけど、午後になって顔を出してくれていない。


 そろそろライブラリーを出ようかと考えているとバトラムが来てくれた。


 「夕食の準備ができました。食堂までおいでになって下さい。」


 食堂に行くと、朝食よりも少し豪華なメニューが準備されていた。野菜と穀物だけで作ったとは思えないような料理だった。暖かいスープ。フカフカで柔らかい白いパン。少し甘い味がする野菜の煮込み。果物もあった。少し甘めのワイン。さわやかな酸味が聞いたジュース。どれもこれも美味しかった。


 「ねえ、バトラム。ライブラリーの中のダイアリーにも他のどんな本にもレイ様がこの国を出て言った理由が描いてないのだけど、あなたは知っているの?」


 「ここに残る者には、知らされていません。マスターたちの行先もここを出た理由もです。ここに残るためには邪魔になるはずだと言われたことは憶えています。だから伝えないのだと。」


 「なるほどね。知らなければ、知りたい者から攻撃されることはないからね。」


 「それでは、私から聞いていいか?」


 「はい。何でしょうか、クロエ様」


 「ライブラリーの中の資料で見たマウンテンバイクって今もこの砦の中にあるのか?アンディー導師が乗っていたと言われる乗り物だよな?」


 「はい。ございますよ。防衛隊用のバイクも含めると50台以上あると思います。アンディー様とロジャー様は、マウンテンパイクを乗りこなしておいででしたからね。クロエ様も乗ってみたいのでしょう。」


 「そう、乗ってみたい。そして、作ってみたい。そのマウンテンバイクを一台お借りすることはできないだろうか。今は材料がなく、クリエート魔術で作ることはできないが、材料を集め作ってみたいのだ。」


 「そうおっしゃると思って、整備させております。それから、アンディー様が初期の冒険で使っておいでだったアイテムバッグもきれいにしておりますから後で、魔石に魔力登録と魔力の充填をお願いします。」


 「いいなあ。私は、身体強化が使えないからマウンテンバイクは無理だと思うわ。ダイアリーに書いてあったゴーレムバイクはないの?」


 図々しいとは思ったけど、マウンテンバイクを貸してもらえそうなクロエが羨ましかった。私も、乗り物欲しい。


 「ルナ様には、レイ様がお乗りになっていたゴーレムバイクを準備しておりますよ。二人乗り用としても使うことができますからご安心ください。後で作るために必要な素材もお教えしますね。早く作ることができるようになってくださいね。」


 「ありがとう。本当に使って良いの?」


 「もちろんですとも。存分にお役立てください。」


 「本当のことを教えてくれ。ただ訪れただけの私たちにどうして、ここまで親切にしてくれるのだ。勿論、私たちは、この砦に害をなそうとしてきたわけではない。しかし、この砦に何かをもたらそうと思ってきたわけでもないのだ。それなのにどうしてこんなに親切にしてくれるのだ?」


 クロエはド直球で聞いた。私も知りたいとは思ったけど、もう少し遠回しに情報を編めようとしていたんだよ。


 「理由はいくつかあります。一番大きな理由は、あなたたちお二人が私たちが待っている方の魔力パターンにそっくりだったこと。私たちは、長い間待ち焦がれていたのです。そして、あなた方は礼儀正しく敵意なく振舞っておられたこと。マスターたちがここを去った後、この砦を訪れた者は全て、敵意をあからさまにして、この砦の破壊を目論んでいました。あなた方は違った。私と会話し、この砦の状況を理解しようとなさって下さいました。この位で宜しいですか?これが、私共があなた様方に親切な理由です。」


 「ありがとう。礼儀正しくしていてよかったわ。」


 「この砦にとって一番大きな理由は、マスターからの言いつけです。マスターは、こうおっしゃいました。「この砦を守り、お前たちを守ってくれる者が現れたら共に戦え」とルナ様とクロエ様は、ともにこの砦を守って下さるのでしょう?」


 「そこまで、信用してもらったのなら裏切るわけにはいかないわね。ねえ、クロエ。あなたもでしょう?」


 「そうだな。私もだ。しかし、何と戦って、何から守ればよいのだ?今一つ敵が誰だかわからないのだが…。」


 「んん…?それは、この砦を攻撃するものから…よ。」


 「では、今のところ、明らかな敵はいないと考えて良いのだな?今は、この砦は攻撃されていないのだろう?」


 「はい。この砦を攻撃している敵はいません。ですが、約束していただきたいことがあります。」


 「なんですか?私たちができることでしたら約束しても良いですよ。」


 「では、決して、私たちとこの砦を捨てていくことはないとお約束をお願いします。」


 私は、クロエと目を見合わせた。ゴーレムたちに感情があるとは思わなかったが、過去の深い悲しみと、今日の大きな喜びと期待が伝わって来た。大きな波のように押し寄せてくる感情の波は、暖かく喜びに満ちたものだった。


 「「分かった。約束する。」」


 私たちは、声をそろえてゴーレムたちの感情のうねりに答えた。


 バトラムは、立派な箱に入れられている誓約書と契約書を持ってきた。誓約書は、王家が発行した物で、永久にこの砦を所持し、管理する権利を認めると言う物。契約書は、この砦のマスターとしてここを所持し、管理し、守護するとという契約書。


 「誰が準備した契約書なの?」


 「私たちの主でございます。」


 バトラムは、事も無げに答えた。当然であるというように。


 「では、サインをお願いいたします。」


 「え?私?クロエお願い。」


 「何言ってるの。ルナがマスターでしょう。」


 「あの…、お二人の連名で結構でございます。」


 私たち二人が連名でサインしてこの砦のマスターになってしまった。どちらが先にサインするかでもめてじゃんけんで負けた私が先にサインしたのは御愛嬌だ。

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