第11話 バトラム
「「えっ?」」
ゴーレムは、私たちが聞き取れなかったのだと思ったようだ。
「お帰りなさいませ。マスター、アンディー様」
「ごめんなさい。ええっと、あなた、名前は?」
「私の名前をお忘れなのですか、最後にお会いしたのが280年前とはいえ、あんまりでございます。私は、マスターの執事、バトラㇺでございます。」
「ごめんなさい。バトラㇺ。私たちは、あなたのマスターとアンディー様ではないです。」
「そのようなご冗談を…、この魔力波長は…。あっ…。お二人とも少しだけ違っております。あまりに似た波長だったので…、つい嬉しくなって…、しっかりと確かめもせず話しかけてしまいました。申し訳ございません。」
ゴーレムでも嬉しかったり、間違えたりするのか…。まあ、間違いはするかもしれないけど、嬉しがるって…。
「改めて、自己紹介をさせて頂けないでしょうか?」
私たちは、バトラㇺに向かって申し出た。
「よろしくお願いいたします。その前に私の方から、ここ開拓者の砦の保守、管理の任を賜っております。バトラㇺと申します。」
「改めまして、初めまして。わたくし、フォレストメロウの町で初級冒険者になりました、ルナと申します。」
「同じく、クロエと申します。」
「ルナ様とクロエ様ですね。ルナ様の魔力がマスターとそっくりで、クロエ様の魔力がアンディー様とそっくりなのです。お二人そろっていらっしゃったものですから、てっきり、マスターたちが戻ってきて下さったと勘違いしてしまいました。」
「先ほど、最後に会ったのが280年前って言っていたでしょう。人間ってそんなに長く生きられるはずないじゃない。それなのにどうしてそんな勘違いするの?」
「ええっ?そうなのですか?あの当時、魔道科学の発展はすさまじく、人間の寿命の意味なんてなくなってしまいそうだったのです。それで、久しぶりにお二人がお戻りになられたと思ったのですが…、この砦の外は、いったいどうなっているのでしょう。」
「私たちが知っている物語が本当なら、昔よりも衰退してしまったかもしれないわ。」
「その物語とはどのような物でしょうか?」
「大賢者レイがたくさんの魔道具やポーションや薬を作って、人々の生活が豊かなになった話です。魔の森さえ越えて、国外へ行き来していたって言う話も伝わっています。夢物語って言われてますけどね。」
「レイ様たちパーティーの初期の話ですね。私はまだ生まれていませんでしたが、記録のコピーは残っています。ライブラリーに保管してありますよ。」
「ライブラリーって何でしょうか?」
「ええっ?ライブラリーも外の世界にはないのでしょうか?魔道図書館みたいなものです。今は、紙の素材になるパルプが切れているので、本にしてお見せすることはできませんが、魔道タブレットを使用すれば、閲覧することはできますよ。」
「ごめんなさい。パルプもタブレットも何のことかわからないわ。」
クロエもコクコクと頷いて同意してくれた。
「ご覧になりますか?」
「「見たいです。」」
「おっと、その前にお二人は、お食事はお済みになりましたか?」
「「いえ。まだです。」」
私たちの声が重なっていた。
「何か食べさせてくれるのですか?」
「はい。肉はないですが、美味しい野菜がたくさんありますよ。」
私たちは、食堂に案内され、席に着いた。メイド型のゴーレムが現れて、食事の準備をしてくれた。あっと言う間に美味しそうな食事が並べられ、お腹いっぱい食べた。
バトラㇺが言うようにお肉はなかったけど、パンは、ふかふかで、全ての料理はそんなこと気にならないくらい美味しかった。
「では、ライブラリーに参りましょう。」
私たちは、長机と座り心地がよさそうな椅子が並んでいる部屋に案内された。柔らかい光で照らされ、長時間いても疲れなさそうだ。
「ここがライブラリーでございます。ルナ様は、レイ様と同じような魔力波長をお持ちですから、アイテムボックスのスキルをお持ちなのでしょう?」
「はい。持っているわ。」
「では、このタブレットは、クロエ様だけで宜しいですね。クロエ様、このタブレットの使い方を説明させていただきます。まず、ここがホームボタン。これで…」
クロエへのタブレットの説明は直ぐに終わった。説明を聞いたクロエはさっそく本のタイトルを見て、本を読み始めた。
「では、ルナ様。アイテムボックスへのデータのコピーの仕方を説明いたします。この魔石に手を当てると、データ化された本を検索することができます。興味がある本や読みたい本を見つけたらコピーと念じるだけでデータは、アイテムボックスにコピーされます。コピーされた本は、ライブラリー内でなくても読むことも検索することもできます。では、どれか、本をコピーしてみて下さい。」
私が一番初めにコピーしたのは、賢者のダイアリーだった。レイ様のことが描いてあるものはそれしかなかったのだ。ダイアリーには、不思議なことがたくさん書いてあった。科学という知識が進んでいるこの世界とは違う世界の知識や道具について。
知らない言葉や考え方、道具が出てくると魔石に手を当て、検索してその言葉や考え方、道具ついて関係ある本を見つけてコピーした。コピーすれば直ぐに調べたり、読んだりすることができた。
ワクワクする楽しい時間はあっという間に過ぎて言った。沢山の本を読みたくさんの知識を身に着けた。
「そろそろお昼になりますが、喉はお渇きになりませんか?」
バトラㇺが私たちに聞いてくれた。アイテムボックスにコピーした本は、目をつぶっていても読むことができる。だから、瞬きも忘れてどころか瞬きする必要もなく本を読みつつけていた私は、少し休憩することにした。
クロエは、タブレットと言う魔道具を使っていたから私の数杯目が疲れていたようだ。一度ライブラリーを出てフカフカの椅子が置いてある部屋に行った。
フカフカの椅子座って焼き菓子とお茶をいただいた。両親がいた時のようだ。お勉強の合間に両親と一緒にお菓子とお茶をいただいていた。妹弟たちも一緒に過ごしたゆったりとした時間。ふと、その時のことが脳裏に浮かび、涙が出そうになった。
「ルナ、どうした?」
目を伏せているとクロエが聞いてきた。
「何でもないわ。ちょっと、両親がいた頃を思い出しただけ。」
少し休憩した後、またライブラリーで本を読んだ。知りたいことがたくさんある。クロエも同じのようだ。
私たちが本を読んでいる間、バトラㇺは砦内の施設のチェックをしてくれていたようだ。最近では、種を取るためだけにしか栽培していなかった野菜や穀物ももっと
量を増やすように手配してくれたらしい。
私たち二人がこの砦を使用するのは当然なのだと言うように。まあ、まだ不法侵入に近いことは自覚しているけど…。
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