第8話 職業
冒険者ギルドを出るとすぐ私は、周りの様子を伺った。
行きかう人は皆、忙しそうにあちらこちらに向かっていて、私たちの周りに人はまばらだ。
「クロエ、私、まだ、あなたに私の職業、言ってないでしょう。スキルは見せたけど。」
「そうだわね。私も教えていないし、お相子よ。同じパーティーでもお互いの職業知らないことなんて普通よ。」
クロエは、何事もないような口ぶりで応えた。
「そうなんだ。普通なのね。でも、これからの行動に関わることだし、クロエには知っていてもらわないといけないと思うの。」
「あなたの職業って、私にとってそんなに重要なことなの?」
クロエは、今一ピンと来ていないようだ。まあ、それはそうだ。普通は、他人の職業など知ることの方が少ないのだから。
「私の職業は、精錬魔術師。森の賢者と同じ職業よ。」
「ルナ、私をからかわないの。まあ、冗談でしょうけど、そんな物語の職業なんてそうざらにあるわけないでしょう。そうね。じゃあ、私の職業を教えるわ。私の職業は、魔術工兵。導師アンディーと同じよ。属性も同じ、土と火よ。冗談だと思うでしょう。私も思っているから大丈夫。」
「「本当なの?」」
「「本当よ。」」
二人の声が揃った。そして、笑い声も。
「私たちが、出会ったのは、必然だったのかもしれないわね。」
私が言うと
「だとしたら、もう少し幸せな出会い方をしたかったわ。」
寂し気にクロエが答えた。
「それで、これからしたいことって何?」
「じゃあ、これを見て。」
「初級ポーションね。少し濁った緑色。あまり美味しくないのよね。傷にかけたり、飲んだりするものよ。」
「そう。そして、これを、アイムボックス。収納しました。」
「ルナのアイテムボックスってどのくらいの容量あるの?」
「分からない。一杯にしたことないから。魔術を収納したくらいで、物を収納したのって、野盗の拠点にお酒や料理を運んだ時くらいだもの。」
「でね。アルケミー・ポーション」
「アルケミー・ポーションボトル」
ポーションを瓶ごと、精錬してみた。材料がないから、精錬しても本数は増えない。
「アイテムボックス・オープン」
ポーションを取り出して、見てみる。ポーションの濁りはなくなり、エメラルドグリーンの液体になっていた。
「ねっ。これがやってみたかったこと。今から、調剤ギルドに行きましょう。」
口をあんぐり開けたままのクロエ。
「クロエのポーションも精錬するね。私に貸してくれないかな?」
コクコクと頷き、持っていたポーション2本を渡してくれた。
「アイテムボックス」
2本のポーションを収納。
「アルケミー・ポーション、アルケミー」
「アルケミー・ポーションボトル、アルケミー」
2本のポーションをクロエに手渡すと、調剤ギルドに向かった。
調剤ギルドに到着すると、受付に並んだ。調剤ギルドは、人はまばらで直ぐに私たちの番になった。
「あの…、珍しいポーションを手に入れたのですが、鑑定、購入お願いできますか?」
私が、ポーションを1本出すと
「初級ポーションですね。冒険者ギルドでも販売しているものですから珍しくはないと思いますが…。」
「いいえ。ポーション瓶の形は初級ポーションなんですが…、鑑定していただければ、何が珍しいか分かると思います。」
私と受付のお姉さんの会話を微笑みながらクロエは見ている。天使だ。天使のように優しいほほえみだ。でも、何かが起こることを期待して微笑んでいるのなら腹黒天使だけど…。
「鑑定ですか?あの、場合によっては、鑑定料をいただくこともあるのですが、宜しいですか?」
「宜しいですよ。鑑定料、おいくらになるのか存じませんが…。金貨1枚までなら出すことができます。」
「毒の鑑定でないのですから、そんなにかかることはございません。では、この預かり証にサインをお願いします。」
「はい。分かりました。鑑定よろしくお願いいたします。」
「鑑定を依頼してまいります。少々お待ちください。」
お姉さんは、奥に引っ込んでいって私たちは、放置された。
長い。長すぎる。お姉さんが引っ込んでいって1時間近く経とうとしている。私たちは、受付から離れ、ギルドの待合室になっている場所で座り込んでいた。
「ルナさん。いらっしゃいますか?ルナさん、受付までお願いいたします。」
「は~い。」
私が受付に行くと、受付のお姉さんが小声で伝えてきた。
「ギルドマスターの執務室までおいで下さい。」
「あの…、連れも一緒で良いでしょうか?」
「あっ…、確認してまいります。」
直ぐにお姉さんは、戻って来た。
「大丈夫です。御一緒にいらっしゃって下さい。」
クロエと二人、執務室に案内された。
「この度は、鑑定依頼有難うございました。今回鑑定させていただいたポーションは、瓶のデザインは初級ポーションの物でしたが、ポーションは上級ポーションでポーション瓶の性能も上級の物です。もしも、販売していただきますのなら、金貨10枚で購入させていただきます。」
「あの…、上級ポーションの瓶があるようでしたら購入したいのですが…。ありますか?」
「あります。ございますよ。もしかして、他にも上級ポーションがあるのでしょうか?」
ギルドマスターがかぶせ気味に聞いてきた。
「はい。ここには、後2本。もしも、上級ポーション瓶があるのでしたら、瓶を入れ替えて納品できるのですが…。勿論もう一度、鑑定していただいても結構ですよ。」
「では、瓶は、2本、用意いたしましょうね。その瓶に入れて頂けるのですから、お代は、頂きません。直ぐに準備させますからお待ちください。」
あっと言う間に上級ポーション瓶が2本、執務室に運ばれてきた。
瓶を待っている間にクロエからこっそりとポーションを受け取って、アイテムボックスに収納しておいた。
ポーション瓶を受け取ると、
「アイテムボックス」
収納して、
(アルケミー・上級ポーション瓶)
これで、上級ポーション瓶を精錬できるようになった。次に、アテムボックスの中にあるクロエのポーションの瓶を上級ポーション瓶のデザインにする。
(アルケミー・初級ポーション瓶、アルケミー)
声に出さなくても精錬された。
「上級ポーション瓶に移してみました。鑑定お願いします。」
「はい。では、鑑定士を呼んでまいります。」
「よろしくお願いいたします。」
直ぐに、鑑定士が来て、鑑定をしてくれた。クロエのポーションも1本金貨10枚。2本で金貨1枚が金貨20枚。金貨19枚の収入だ。利益率が高い。
私も、金貨が10枚増えた。これで、防具や武器を購入することができる。
「あの…、今後のことですが、上級ポーションを一度に何本くらいまでなら買い取っていただけますか?」
「何本でも、何本でも大丈夫です。ギルドの手持ち金が足りなかったら借金してでも購入させていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。」
ギルドマスターは、低姿勢、ポーション大量購入熱烈歓迎の様子だ。考慮します。
私とクロエは、もう一度冒険者ギルドに行って、初級ポーションを10本ずつ、購入した。それを精錬。ポーション瓶のデザインも上級ポーション用に作り替えた。
「もう一度、調剤ギルドで薬を販売しましょう。そのお金で武器と防具を買って冒険に出かけることにしましょう。」
わたしとクロエは、これからのことを確認して調剤ギルドにむかった。あまり目立つとお金目当てに命を狙われかねない。大騒ぎにならないようにしてもらわないといけない。
さっきの受付のお姉さんの所に並ぶ。
「すみません。追加のポーションが手に入ったと、ギルマスに伝言お願いできますか?」
小声だ。誰も気にしている人なんかいないのに…。
「はい…。」
お姉さんも小声だった。
ギルマスの執務室に着くと、20本の上級ポーションポーションを机の上に出した。ギルマスは直ぐに鑑定を呼んで鑑定させ、ポーション箱を準備させた。
私の懐には、金貨6枚と銀貨4枚しかなかった。クロエは、すでに金貨63枚と銀貨9枚を持っている。武器と防具や便利な魔道具をそろえるとしても、クロエはこれ以上現金を持ち歩かない方が安全だろう。私もクロエと同じくらいの金額にしておいて後は、カードに入金してもらおう。
「鑑定が終わりました。確かに上級ポーションです。1本につき、金貨11枚で購入いたします。お支払いは、どのようにしたら宜しいですか?今回は全部で金貨220枚と大金になっておりますが、全額現金でお渡ししますか?」
「あの…、私たちパーティーで調剤ギルドのカードを持つことができますか?」クロエが聞いてきた。
「はい。調剤ギルドは基本的には個人カードですが、複数人で共有されている方もございます。パーティーでおつくりすることも可能ですよ。」
「では、アンデフィーデッド・モーニングスターズの名前でお願いしたい。そうすれば、入金引き出しは、どちらでもできるようになるのだろう?」
「はい。その通りでございます。では、カードをお作り致します。カードは1枚だけになりますが、大丈夫でしょうか。」
「え?」「はい。」
クロエは即答した。私は、え?だ。
「大丈夫だ。そしてカードはルナが持っていてくれ。アイテムボックスに収納できるからな。」
「ルナ、お前は、手持ちが少なくなっているだろう。いくらか現金で持っていた方が良いだろうから、幾らを現金にするか決めてくれ。」
「わ…分かった。じゃあ、金貨50枚を現金で残り金貨170枚は、カードにお願いします。」
「では、準備いたしますので少々お待ちください。」
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