第7話 アンデフィーデッド・モーニングスターズ

 朝から冒険者ギルドに来ている。クロエとパーティーを組んで初級冒険者のクエストを受けようと思ったからだ。


 まずは、パーティー登録。メンバーは、今のところ私とクロエだけ。受付に並んでパーティー登録をしようとしたらお金が必要だと言われた。二人ともお金がなかった。


 「バーティー登録料、後払いはできませんか~。」


 昨日の冒険者登録にもお金が必要だったのだけど、ギルマスが立て替えてくれていた。今日の冒険者登録の費用も銀貨1枚。パーティー登録は、2人パーティーだと割高になる。


 「パーティー登録をしないと、ギルドからクエスト受けることができないんですよね。だったら、クエスト達成したら必ず支払いますから~、お願いします。」


 「あのですね。冒険者パーティーのクエストは、失敗することもあるでしょう。初級冒険者でも失敗することあるんですよ。その時の違反金の担保として登録料は必要なことになっています。冒険者見習の仕事を一月位すれば、登録料は貯めることができますよ。見習いの仕事からやってみてはどうですか?」


「でも…、クロエはすでに初級冒険者なんですよ。」


 お金がないのに登録したいとごねていると、受付のお姉さんがギルマスが呼んでいると私たちを招いてくれた。


 「よお!なんか、受付でごねている奴がいると聞いてな。皆さんの迷惑になるから執務室に呼んでやったぞ。」


 「すみません。御迷惑をおかけしました。はい、分かりましたよ。初級冒険者の仕事からコツコツ、コツコツやっておばあさんになる頃、初級冒険者になりますよ。昨日、命がけの任務をこなしたのに、戻ってきたら取り調べみたいな質問されてさ…、そりゃあ、私たちは、一文無し…。あれ?クロエ金貨50枚もらえるんじゃなかった?もう、貰った?」


 「いや、まだもらっていない。そういえば昨日、衛兵隊長がそんなこと言っていたな。」


 「いや、ここにあるぞ。ほれ、昨日の報奨金、金貨50枚だ。」


 ギルマスは、そう言うと、袋に入った金貨50枚をクロエに渡した。


 「衛兵隊から今朝預かったものだ。それから、ルナとクロエ両方に、冒険者ギルドから、討伐参加報酬それぞれ、金貨5枚ずつだ。ルナには、金貨4枚と銀貨9枚な。昨日立て替えていた冒険者登録料を支払ってもらうからな。」


 「良かった…。これで、元パーティーメンバーの家族の所に行ける。」


 クロエがぼそりと言った。なくなった元パーティーメンバーの家族にお金を届けるつもりなのだ。


 「カイやリー、ジョルジュの所に行きたいのだろうが、あいつらにまともな家族はいないぞ。リーには、兄貴がいたようだが、他の町に出て行っている。」


 「でも…、」


 「気持ちは、分からんでもない。しかし、お前だって、孤児院育ちだろう。冒険者なんて家族持ちの方が少ないくらいだ。そして、家族持ちは、初級冒険者なんてやめていくんだ。もっと上のランクの冒険者には家族持ちはいるがな…。そんな、仕事なんだよ。冒険者って言うのはな。」


 クロエは、涙を落としていた。亡くなった仲間たちへ何かしてあげたいという気持ちで…。それさえ敵わない悔しさに、声を殺して泣いていた。


 「お前は、強く成れ。そして、幸せになるんだ。それが、亡くなった仲間への花向けだ。いいな。」


 ギルマスからの優しい言葉、きっとたくさんの冒険者を見送って来たのだろう。家族さえ持たないたくさんの冒険者を…。だから、冒険者登録の時には、家族のことや両親のことも書くのか…。死んだときの為に。


 クロエの気持ちが落ち着くのを私は、ギルマスの執務室で待った。


 クロエが落ちついて執務室を出る時、クロエの腫れた目を見たギルマスがヒールをかけてくれた。


 (ギルマス、優しい…。)


 「ギルマスッ、私にも、私にもヒールをください。ここに、ここめがけて。お願いします。」


 もう一度、執務室にギルマスとクロエを押し込み、必死にお願いした。私の必死の形相に驚きながらも、私にもヒールをかけてくれた。


 「ありがとうございます。あのギルマス、もしも、他に攻撃魔法や治癒魔法持っていらっしゃるならいただけませんか?ここに。」


 ギルマスは、アンチドートとライト、エアカッターの魔術を持っていた。全部収納させてもらった。


 森の賢者の物語で賢者レイが初めに手に入れた魔術は…。後、残るは、ウォーターボールだけだ。誰か持っていないかな…。


 受付でパーティー登録をしてもらった。登録料は、クロエが出してくれた。


 私たちのパーティーの名前は、『アンデフィーデッド・モーニングスターズ(負けない明けの明星)』にした。暗闇で輝いてやる。一日の一番最初に。


 「すみません。初級ポーションって、ここで売ってもらえるのですか?」


 私は、登録手続きの時に、受付のお姉さんに聞いてみた。


 「一つ、銀貨5枚ですが、いくつ必要ですか?」


 「一つで結構です。手持ちはそんなにないので…。」


 私は、銀貨5枚を支払って、ポーションを手に入れた。お金の残りは、金貨1枚と銀貨4枚。でも、大丈夫。銀貨4枚あれば1週間分の宿屋代に余る。夕食代まで何とかなるはずだ。


 「それと、教会の薬草とボアの魔石採集依頼って薬草だけでも良いのですか?」


 「そうですね。教会に直接持って行くなら薬草だけでも大丈夫だと思いますよ。でも、安くしか買ってもらえませんよ。寄付としても薬草は受け取っていますからね。報酬は、子どもへの小遣いくらいです。」


 「分かりました。」


 「あの…。もう一つ良いですか?」


 「何でしょう?」


 「森の賢者の砦までの地図ってありますか?」


 「観光ですか?砦の中に入るのは、禁じられていますよ。事故が多発したので。」


 「はい。大人になったら、一度、森の賢者の砦を見て見たかったのです。」


 「森のダンジョン都市、ゴブリンタウンに行く途中にあります。地図もありますから差し上げましょうね。」


 受付のお姉さんに地図をもらった。値段を聞いたが、サービスなので要らないということだった。何か得した気分だ。


 教会から依頼は、ボアの魔石を手に入れないと達成報酬がもらえないということだったので受けなかった。報酬もそう高くなく、銀貨5枚。急ぎではないからもしもボアの魔石を手に入れることが出来たら、受けることにしよう。


 「クロエ、もしもの時の為にポーション買っていてくれない。クロエに余裕があるなら2本買っていてくれると嬉しいんだけど…。」


 「分かった。初級ポーションを2本頼む。」


 受付のお姉さんは、直ぐにポーションを持ってきてくれた。


 今日、ここでできる準備は、これくらいだ。私たちは、冒険者ギルドを出た。



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