第6話 事情聴取
野盗の拠点を制圧した後、私たちは、衛兵の詰所ではなく冒険者ギルドに連れていかれた。クロエのパーティーの全滅について話を聞かせて欲しいと言われたからだ。クロエにとってはとても辛い話だが、冒険者パーティーの全滅ということであればギルドもしっかり把握しておかないといけないことだからだ。
私は、クロエと出会って、救出した時の話を聞かせて欲しいと言われ連れていかれた。昨晩は一睡もしていないから休ませてほしかったのだが、ギルドからの要請ということであれば仕方ない。
「さて、不思議なのは、クロエを救出できたことだ。どうすれば、首領を隷属化して、クロエの隷属化を解くことができたのだ?お前は、エンスレイブの魔術を使えるのか?」
「あの、私の職業とスキルに関することなので、他言しないと約束してくれますか?私は、エンスレイブの魔術を持っていないのですが、今回に限り使うことができたのです。もし、教会のようになスキルと持っている魔術を調べる魔道具がここにあるなら、確認していただいても結構ですよ。」
「訳が分からん。だから、どうしてそんなことができたのだ。それを聞いているだ。今回に限りできたなど訳の分からないことを言うんじゃないよ。」
「だから、約束してくださいますか?私のスキルと職業は他言しないと。」
クロエは、私が、エンスレイブ・イレースを使用したことは知らない。だから、クロエにも約束してもらう。
「クロエも私のスキルと職業のこと他言しないって約束してくれる?」
「私を助けてくれたスキルと職業ね。勿論約束する。なんなら、私も私のスキルと職業をルナに教えるわ。」
「じゃあ、クロエの持っている攻撃魔術教えてくれる?私のスキルの使い方を教えるために必要だから。」
「私が持ってるのは、ロックバレット、ロックウォール。」
「じゃあ、ここにロックバレット撃ってみてくれない。」
私は、私の正面にアイテムボックスを開いてクロエにロックバレットを撃ってもらった。
「本当に、いいの?そこにロックバレット撃ったらルナに当たっちゃうわよ。」
「大丈夫。それが、私のスキルだから。5発くらい撃ってみて。」
「分かった。行くよ。ロックバレット…、ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット」
一発目はおっかなびっくりだったけど、ロックバレットが私の前で消えていくのを見て残りの4発は躊躇なく撃って来た。
「ありがとう。クロエ。これで、私、5発のロックバレットを撃つことができるようになったわ。ロックバレットをギルマスの執務室で撃つわけには行けないわね。ギルマス、ギルドの訓練所使わせてもらえますか?」
「おっ、おう。良いぞ。」
私たちは、ギルドの地階にある訓練所に向かった。ここでは、剣術や武術の訓練だけでなく、魔術の訓練もできる場所がある。拠点制圧があったばかり、昨日の今日なので冒険者はいない。中級社以上の冒険者は、休み中だ。
「あの的に向かって撃ちます。」
私は、ギルマスに向かってそう言うと的に向けて手の平を向けた。
「アイテムボックス・オープン・ロックバレット」
クロエからもらったロックバレットが手の周りから現れ、的に向かって飛んで行った。
「後、4発撃つことができます。撃ってみますね。ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット」
ロックバレットは、的に向かって飛んでいき、全て命中した。イメージ通りだ。
「アイテムボックスにロックバレットが無くなったのでもう撃つことができません。」
「アイテムボックス・オープン・ロックバレット」
さっきと同じように的の方に手を向けロックバレットの呪文を唱えたけど、発出しない。材料があって、一度、精錬すればロックバレットを撃つことができるはずなんだけど、今は、それを見せる時ではない。私がエンスレイブとエンスレイブ・イレースをどのようにして行ったかを見せるためなのだから。
「どうですか?これが私のスキルです。このスキルで、クロエのエンスレイブを解除し、首領を隷属したんです。今残っているエンスレイブ系の魔術はエンスレイブ・マスターチェンジの一つだけです。これは、私を隷属していると思っていた奴隷1号が首領にマスターを移す時に私に使った使った魔術なんです。」
「そのマスターチェンジは、エンスレイブも発動するのか?」
「分かりませんが、奴隷1号は、まずエンスレイブで自分に隷属化し、その後、マスターチェンジで、首領にマスターを移そうとしました。ですから、隷属化した者のマスターを変更するだけだと思います。」
「お主が、隷属化していた首領は死んでし、マスターチェンジを試すことはできないな。それに、首領は、お前に裏切られたと、自分で隷属化を解除したようだったからな。魔物も隷属化できるなら、使いようもあるかもしれないが、テイムとエンスレイブは、別の呪文だからな…。」
「人間以外に、マスターチェンジを向けて発動できるなら、使い切ってしまうことができるのですが…。あの的に向かって撃ってみましょうか?」
「アテムボックス・オープン・エンスレイブ・マスターチェンジ」
発動しない。的に向かって撃つ時のイメージが足りていないんだ。必要な要素はなんだろう。『新マスターだ。』マスターを自分から他の人に移す魔術だから、必要なのは、新マスター。じゃあ、あの的の新マスターは、ギルマスだ。
「もう一度、やってみます。アテムボックス・エンスレイブ・マスターチェンジ(ギルマス)」
発動した。的には何も変化がないけど…。アイテムボックスの中のエンスレイブ・マスターチェンジはなくなった。
「ギルマス、エンスレイブ系はすべてなくなりました。あれ?ギルマス…。」
「あの、的のマスターは、私なのか?」
「何変なこと言ってるんですか!的にマスターなんているはずないでしょう!」
ここは、言い張らないといけない。的にマスターなんて必要ない。あなたは、ギルドマスターなんです。このギルドのマスターなのです。
「お主の、スキルは分かった。そのスキルは色々使いようがありそうだな。成人の儀も終わったのなら、冒険者登録しておかないか?」
その後、私は、冒険者登録を行い、その間に、クロエのパーティーがダンジョン内で襲われた時の状況聞き取りが終わった。魔力量を測ったり、冒険者カードを作ったりかなり時間がかかった。登録料は、ギルマスが立て替えてくれた。太っ腹だ。
少しの間、クロエを待っていた。会議室からクロエが出てきたのは、日が傾き始めた頃だった。
冒険者ギルドを出た私たちは、町の中の教会の一つ、ニコライ教会に向かった。その中の孤児院に私の兄弟たちが預けられているからだ。冒険者ギルドのマスターが手紙を書いてくれた。妹と弟たちと一緒に過ごさせて欲しいと。
教会の神父様にギルマスからの手紙を渡すと、笑顔で私たちを迎えてくれた。妹弟たちは元気だった。私を見つけて大喜びで飛びついてきた。クロエは、その様子を微笑みながらでも、少し寂しげな笑顔で見守ってくれた。
その夜は、妹弟と一緒に同じ部屋で寝た。クロエは、客間で休んだ。夜が明けて、一緒に朝食を食べて、近いうちに必ず迎えに来るからと約束して孤児院を後にした。きっと迎えに行く。私は、決意を固めた。
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