第5話 拠点制圧

 首領に子どもの家探しをしてもらっている。子どもの名前は、ベルとケン。二人は、兄妹ではなく、近所でもない。孤児院で生活してるわけでもないと言っていた。両親はいて、他に兄弟がいる。


 別々につれていって子どもを知っている人や子どもが知っている場所を見つけるしかない。首領にはケンと一緒に両親探しをすることを任せている。私は、ベル担当ということになっている。正午の鐘で一度詰所に戻って来るという約束だ。


 私と冒険者の娘、名前は、クロエと一緒に詰所にいる。首領とその仲間の罪を明らかにするためだ。私たちの話を聞いた後、衛兵が二人、首領を尾行するために詰所を出て行った。


 野盗の拠点には現在捕えられ、野盗の仲間として隷属の魔道具で働かされている者も含め30名以上がいる。拠点を一挙に制圧するためには、フォレストメロウの衛兵だけでは人数が足りない。


 野盗の討伐であれば、冒険者ギルドに要請することもできるが、30名と言う人数を考えると、被害の大きさが心配である。


 「首領は捕え、お主らだけ拠点に戻って深夜、制圧者を招き入れると言うのはどうだ。できるか?」


 「無理でしょうね。私たちはエンスレイブの魔術で縛られていると思われています。エンスレイブで縛られたものは、自主的な行動ができないのです。指示されたことを何とか実行しようと考えることはできても…。例えば、拠点に戻り、部屋で待っていろと指示されて、馬車で拠点に戻って、部屋の中に入ることはできます。その途中で何らかのハプニングが起こっても、自分で拠点に戻る対策を考えて行うことまではできるのですが、部屋に戻って何もしません。食事もです。」


 「うむ。」


 「それに、ほぼ男たちだけの拠点に、私たちが戻って行ったら、しかも、私たちの商品の価値は下げないと言って守っていたのは、首領なのに、その首領がいない状態で戻って行ったら、その夜どんなことになると思いますか?」


 「首領も、お主たちも一緒に拠点に戻る。我々は、お主たちの後をつけ、拠点の場所を確認する。野盗が一番動きを止める夜明け前、お主たちの手引きで拠点を制圧する。というのはどうだ?」


 「私たちにとって、とっても危ない作戦ですね。報酬次第です。」


 「ルナには、借金の分、金貨50枚でどうだ。クロエにも同額で。」


 「命を懸けるに十分とは言えないが、勝算は高いぞ。何せ、首領を隷属しているのだからな。」


 「でも、危うい隷属です。私には、エンスレイブの魔術はないのですから。偶然の結果の隷属なのですよ。」


 私が、夢をかなえるためには、債務奴隷から抜け出して、第一歩を踏み出すための金貨50枚が必要。


 「分かりました。その依頼、お引き受けします。クロエは?」


 「私は、仲間の無念を晴らしたい。その為にもお引き受けします。」


 「では、良い気分で拠点に戻ってもらうために、子どもの誘拐解決の報酬は多めにお願いします。」

 私は、衛兵隊長にお願いした。


 「分かった。では、その報酬、誘拐者の捕縛も含め金貨10枚としよう。」


 正午の鐘が鳴り終わってしばらくした頃、首領が子供と一緒に戻って来た。


 「カル、午前の捜索ご苦労だった。後は、我々で引き受ける故、お引き取り頂いて結構だ。報酬は、誘拐者捕縛も含め金貨10枚。ここに準備しておる。受け取りのサインを頼む。」


 首領は、受け取りのサインをして報酬をもらった。頬が緩んでいる。エンスレイブは、大丈夫だろうか。少し心配になった。


 「今日は、臨時収入が入ったのだから、お酒と料理を買っていましょう。私のアイテムボックスで運ぶことができるわ。お酒は、多めに買ってあげましょうね。」


 「分かりました。」


 首領は、たくさんのお酒と料理を買い、拠点に戻った。


 「今晩は、私とクロエを部屋に連れて行きまない。寝る時間になるまで、私たちを横に侍らせておくようにしなさい。お酒を注いであげるわ。」


 「有難うございます。」


 その日の夜は大宴会になった。首領が首尾よく大金をせしめてきたと皆、上機嫌だ。首領が横に侍らせている私たちにちょっかいを出そうとする輩もいたが、一喝され、すごすごと引っ込んでいった。


 夜も更け、ほとんどの野盗が酔いつぶれた頃、私たちは、首領の部屋に戻った。


 首領にはベッドに寝るように指示を出し、私たちは椅子に座って夜明け前を待った。


 そろそろ夜明けという時間。首領のいびきが聞こえる。私たちは、ドアを開けて様子をうかがった。動いている者はいない。首領の部屋で暗闇に目を慣らしていた私たちは、音をたてないように気を付けながら、結界で守られた拠点のドアの方に向かった。


 ドアの前に見張り役の男が、椅子に座ったままいびきをかいていた。クロエが口をふさぎ男の首にナイフを当て切り裂く。頚動脈から勢いよく血を吹き出しながら、少しの間もがいていたが、直ぐに動かなくなった。


 私たちは、ドアを薄く開け、横を確認した。拠点の外には見張りはいない。結界があることで、外に守りを置けば見つかる危険が高くなるからだ。


 私たちは、ドアに手をかけたまま、一度扉を閉め、ファイヤーボールを撃ちあげた。ゆらゆらと衛兵と冒険者が現れ、私たちが開けた拠点入り口から中に入り制圧を開始した。


 酔いつぶれ、眠りこけた盗賊たちはあっと言う間に縛り上げられ、屠られていく。拠点の中の戦闘音が収まった頃夜が明けてきた。


 「よくやった。協力感謝する。後ほど顔見分を行う。エンスレイブの術者は、しっかりと捕縛しておきたいからな。」


 明るくなって、顔見分が行われた。隷属の魔道具を付けた奴隷1号が縛り上げられているのを確認し、体調に術者であることを知らせた。首領は、死亡していた。自分が裏切られたと大暴れしたらしい。


 冒険者と衛兵の皆さんにもたくさんの怪我人が出たが、死亡者はいなかった。


 「計画成功だ。ルナ、クロエ、良くやった。感謝する。ルナよ。これで、お主の債務はなくなる。奴隷オークションの時の話は聞いている。お主の焼き印、ゴーマン家に責任をもって消させる。まだ、そのくらいの財産は持っているだろうからな。」


 「有難うございます。よろしくお願いいたします。」

 私は、隊長さんに深くお辞儀をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る