第4話 魔術収納

 「あなたは、どんな魔術が使えるの?」


 私は、首領に尋ねた。


 「ファイヤーボールとフレイムウォール、身体強化。」


 「では、ここに向かって、ファイヤーボールの小を20発、撃ち込みなさい。」


 「ファイヤーボール・ファイヤーボール・…。」


 20発のファイヤーボールを収納した。


 「ファイヤーボールの中威力を20発、同じように打ち込みなさい。」


 「ファイヤーボール・ファイヤーボール・…。」


 中威力のファイヤーボール20発を収納した。


 「次は、高威力のファイヤーボールよ。5発で良いわ。」


 「ファイヤ~ボ~ル・ファイヤ~ボ~ル・ファイヤ~ボ~ル・ファイヤ~ボ~ル・ファイヤ~ボ~ル」


 『ドンドンドン』


 「何かあったのか?大きな声が聞こえたぞ。」


 「返事をしなさい。大丈夫だと。」


 「大丈夫だ。」


 「そ、そうか。本当だな。女も大丈夫なのだな。」


 「大丈夫だ。商品の価値を下げるようなことはしない。」


 しばらく、何もせず時間が過ぎるのを待った。部屋の前の気配はしばらくして遠ざかって行った。


 「次は、ファイヤー・ウォールよ。この場所に出しなさい。」


 「ファヤーウォール。」


 (良し、収納できたわ。)


 「明日の朝、子どもを町に戻すときに私と…、犯罪に手を染めてない悪党じゃなくて、魔術のスキル持ちを連れていきたいわ。そんな人いない?」


 「ついこの間、ダンジョンの中で捕まえた初級冒険者がいる。その時の戦闘でパーティーメンバー、3人は死んじまった。隷属の魔術具で縛っている。」


 「それは、男?女?それとどんな魔術のスキルがあるの?」


 「女だ。魔術スキルは、まだはっきりしない。回復と水系の魔術を使っていた。」


 「じゃあ、その娘ね。隷属の魔術具は目立ちすぎるからエンスレイブで縛りなおすように指示しなさい。あなたがスレイブマスターね。今から奴隷1号に指示を出してきなさい。」


 首領は、ドアを開けて出て行った。私は、椅子に座って焦点を合わせないようにしておいた。服は少しだけ着崩しておいた。


 野盗の一人が部屋を覗いたが、私の様子を見て直ぐに部屋を離れて行った。この部屋で何が行われているのか色々と妄想しているのだろう。最低野郎だ。


 しばらくして、首領が戻って来た。


 「娘をエンスレイブで縛ってきた。」


 「明日、子どもを町に連れて行くのは、その娘と奴隷2号、あなたと私。娘に御者をさせなさい。町の中に入るからと言って他の仲間は連れて行かないのよ。ところで、あなたは、指名手配はされているの?」


 「俺の顔は、割れていない。部下たちは、かなり多く手配書が出回っている。町での仕事は、俺の役割だ。」


 首領は、エンスレイブで縛られているはずなのに、かなりスムーズに話すことができるようになってきた。精神支配系の魔術は効きが悪いものもいると聞く。心配になった私は、首領にもう一度エンスレイブを掛けた。


 首領をベッドに寝かせ、私は朝まで椅子に座っていた。少しうとうとしたが、何とか無事朝を迎えることができた。外が十分に明るくなって町に出かける準備をした。 


 野盗たちはそれぞれで朝食の準備をしているようだ。夜は、遅くまで宴会をしていたようだったから、起きている者は少なかった。


 奴隷2号と子ども、冒険者の娘を呼びに行かせ、馬車を準備させた。昨日の馬車は、一部焼けた状態だったが、奴隷2号が一緒だと言うのでその馬車で町に向かうことにした。穴は空いていないし、少々焦げている方がアクシデントの証拠として真実味が増す。


 いつも、首領が町での仕事を担当しているということで、だれも疑っていなかったが、私が馬車に乗り込むとザワザワと疑問を持った声が聞こえた。しかし、首領を止める者はいなかった。


 1時間程馬車を走らせると、フォレストメロウ町に着いた。ここからが、手順を間違えないようにしないといけない。


 私が持っているエンスレイブは、エンスレイブ1つ、チェンジマスター1つ、イレース1つ。これだけだ。エンスレイブを精錬してしまうと、魔術を覚えてしまう。そうなると、国に登録しなくてはいけなくなって、冒険者にもなれなくなる。それは、嫌だ。


 安全の為、エンスレイブとチェンジマスターは残しておく。冒険者の娘のエンスレイブは解除しないといけない。その子に野盗の首領の薬事を証言してもらわないといけないからだ。


 まず、首領と子どもにに奴隷2号の悪事を証言してもらって、私と奴隷2号の債務奴隷契約の無効化を勝ち取らないといけない。次に、ここまで利用した形になったが、首領の悪事を自白と冒険者の娘の証言で明らかにする。


 首領は、奴隷1号の悪事を明らかにし、町に戻ることができなくなるように子どものエンスレイブを解いて町に帰すことにした。完全に自分たちの駒にするために犯罪者にする必要があったからだ。


 奴隷2号は捨て駒。あるいは、子どもを町で保護しておいて奴隷2号を都合よく使うどちらにも転ばせることができる。決して良心からの行いではないだろう。


 馬車が町の入り口についた時、私は馬車を降り、冒険者の娘のエンスレイブを解除した。


 「…。私は、…。ジョン。カレン。マーク。ダンジョンで襲われて。………。イヤ~~~ッ」


 「しっかりしなさい。あなたは生きてる。これからも生きるの。ここは、安全よ。あなたは助かったの。私が、助けた。混乱しないで。悲しいのは分かる。でも、悲しみに負けないで。」


 「私は、い・き・て・る。 た…、助かった…の?私、一人。」


 「助かったの。でも、あなたは、一人じゃない。今は、私がいる。しっかりして、今から、あなたの仲間を殺した奴らの罪を暴くのよ。そして、もう二人、助けた子がいるの。その子たちを誘拐した男は別の奴だけど、ここにいる。そいつの罪も明らかにして償わせるわよ。」


 「何を話している。マスターは、俺を売る気か…。ウォ~っ。」


 馬車のドアから顔を出した首領が私たちの会話を聞いたようだ。自分たちの罪を暴かれると聞き、エンスレイブが解けそうになっている。まずい。


 「アイテムボックス・オープン・エンスレイブ」


 最後のエンスレイブを使ってしまった。首領の焦点は会っていない。今は。エンスレイブに縛られている。


 町に入る手続きを終え、馬車で衛兵詰所の前に走って行った。まず、奴隷2号と子どもたち、私と首領で中に入る。首領には、奴隷2号の犯罪を明らかにして私の債務奴隷契約を解消すると話している。


 捕えられ、諦めている奴隷2号は自分でエンスレイブを解く精神力はない。子どもの誘拐や債務奴隷へのエンスレイブ使用など奴隷1号と行った全ての罪を認め、牢に連れられて行った。私の債務奴隷契約は解消された。


 奴隷オークションでの金貨100枚の取り扱いについては、まだ分からない。私たちの両親が残した、金貨50枚の債務がどうなるかは、まだ分からないということだ。


 今回の奴隷2号の逮捕に関しては、私と首領に報奨金が支払われるらしいが、問題は、これからだ。この首領の罪を明らかにして、野盗を一網打尽にしないといけない。






 

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