第3話 企み

 真っ暗な道を馬車は進んでいる。会話などなく二人の男も息をひそめている。馬車の中に明かりはない。真っ暗だ。馬の足元を照らす光があるのかもわからない。馬と御者に夜目が効くようになる薬を使い暗闇の中を走らせているのかもしれない。


 誰にも知られないようにフォレストメロウの町を出ようとしている。荷物は、エンスレイブを駆けられたと思われている私と子どもが二人。あの二人は多分、奴隷化の魔術がかけられている。


 私には金貨100枚ものお金をつぎ込んでいるのに、エンスレイブを掛けてきた。魔術をかけた奴隷は表に出せない。金貨100枚を回収することができないということだ。


 何か企みがあるに違いない。碌なたくらみでないのは分かる。どんなからくりで金貨100枚を回収しようというのだ。闇奴隷は、高価だと聞くが、金貨100枚を超えるかどうかは分からない。犯罪に手を染めるならリターンが大きくないと割に合わないから…。


 真っ暗な馬車の中で私は、考えを巡らせていた。このまま眠ってしまうのは危険だと感じていたから。それでも、睡魔は、私を眠りの闇の中に誘い込んでいった。


 『ヒン。ギャン、ガンカララ』


 大きな物音で目が覚めた。馬の悲鳴。馬車に弓矢が刺さっている。火矢だ。このままじゃ、馬車の中で黒焦げになってしまう。でも、私はエンスレイブで縛られていることになっている。主体的行動はできない。逃げ出すことができない。


 「目を覚ませ。」

 私にエンスレイブを掛けた男が指示した。


 やっと目を開けられる。

 私は、ゆっくり目を開けた。


 「体を起こしてこっちにこい。いちいち細かい指示を出さないと動けないのか。お前は!」


 私は、ゆっくりと男の前に歩いて行った。


 「俺の前を歩いて外に出るのだ。」


 ゆっくりと歩いて外に出て行った。


 『ビュッ。』


 私の横を火矢がかすめていく。


 「前に行け。俺たちの矢避けになるんだ。」


 私は、ゆっくりと歩いて行った。矢は飛んでこなくなった。


 「止まれ。」


 暗闇から男が現れた。


 「情報通り、後ろ暗い奴らがここにやって来たな。」


 「誰が俺たちの情報をお前たちに漏らしたのだ。」

 私にエンスレイブを掛けた男が聞いた。聞いても答えてもらえるはずがない。


 「隷属魔術が使えのは、お前か?」

 暗闇から現れた男が聞いてきた。


 「…。」


 「馬車の中にいる3人、と言っても意思があるのは一人だが、出て来い。10数える間待ってやる。出てこないなら、馬車の中で死ね。」


 暗役の中から4人の男が新たに表れた。戦闘魔術のようだ。馬車の方に両掌をかざしている。


 「1,2,3,4,5,6,7,…」


 男が二人の子供とともに降りてきた。やっぱり二人の子供が前だ。矢避けのつもりなのだろう。


 「ようやく出て来たか。奴隷2号君。」


 「奴隷1号、お前だよ。エンスレイブ使い。今降りてきた男にエンスレイブを掛けろ。マスターは、俺だ。俺の名前は必要ないだろう。お前から見えているのだからな。命が惜しければ、妙なことは考えるな。」


 奴隷1号は、貴族の男に手をかざした。

 「エンスレイブ。」

 「エンスレイブ・チェンジマスター」


 奴隷2号がエンスレイブで縛られた。


 「次は、子どものエンスレイブを外せ。こいつらは俺たちに必要ない。明日にでもフォレストメロウに帰してやる。」


 奴隷1号は、言われるままに子どもを解放した。


 「最後に、女だ。こいつは、謝金奴隷だな。エンスレイブで縛らず、金を稼ぐことができるか確認したい。一度エンスレイブを外せ。」


 奴隷1号が私に手をかざし、エンスレイブを外そうとした。


 「エンスレイブ・イレース」


 私は、アイテムボックスを前に開いて、魔術をし収納した。


 「おい、お前、名前は何という。」


 「ルナです。」


 「ルナ、お前は、幾らの借金があるのだ。」


 「金貨100枚です。」


 「そんなに金をかけたお前にエンスレイブを掛け、こんな夜遅くフォレストメロウの町から連れ出そうとしたのは何故だと思う?」


 「…、情報が少なすぎてはっきりとは分かりませんが、私が逃亡したと申し出、私の兄弟たちへの借金としようとしたのでしょうか?金貨50枚は、直ぐに回収することができます。残りの金貨50枚を兄弟たちへの借金とする。私は闇奴隷市場に売り渡す。闇市で得た金額が今回の利益となると計画した。もしくは、誰かの依頼も加わっているのかもしれませんが…。私が邪魔な誰かの依頼。」


 「ほほう。中々、鋭いではないか。では、答え合わせだ。奴隷2号、今の答えで間違いないか?依頼のは部分は、別にして答えろ。金もうけの計画だ。」


 「はい。間違いありません。」


 「だとよ。正解だ。お前は、逃亡奴隷としてお尋ね者だ。犯罪奴隷落ちだな。」


 「まだ、犯罪奴隷にはなっていません。そいつらが、嘘の訴えさえしなければ、そうならないはずです。」


 「そうだな。まだ、なっていない。では、もう一つ聞いてみようか。」


 「奴隷2号、お前たちは、ルナの奴隷化は誰かの依頼で行ったのか?」


 「…、言えません。」

 奴隷2号が、苦しそうに答えた。


 「魔術契約で縛られているのだな。誰かが、関わっていると考えて良いだろう。魔術契約の相手がいるはずだからな。


 「さあ、ここまで分かって、お前はどうする。道は二つだ。」


 「道?」


 「一つ目、俺たちの奴隷となって一生俺達のために働く。二つ目、もう一度エンスレイブで縛られ、闇奴隷として売られる。」


 「どっちも嫌なんですけど…。」


 「お勧めは、一生俺たちの奴隷となることなんだがな。自由はないが、贅沢はできると思うぞ。お前の頭脳があれば、色々儲けを出せると思うからな。」


 「あなたたちの奴隷になったら、あなたたちの犯罪の手伝いを一生することになるのでしょう?私も犯罪者になって」


 「そうだな。楽しいぞ。あくせく働くなんて馬鹿らしくなるくらいな。」


 「そうか。第二の道を選ぶということか。」


 「奴隷1号、エンスレイブだ。マスターは、俺だ。」


 「エンスレイブ、エンスレイブ・チェンジマスター」


 3個目のエンスレイブとチェンジマスター1個、収納させてもらいました。


 焦点をぼかし、意識を薄れさせた。エンスレイブで縛られたように見えるはずだ。


  私たちは、野盗のアジトに連れていかれた。馬車でフォレストメロウから王都側に1日の距離にあった。草原の中にある結界で守られた屋敷だった。


 「子どもは、眠らせたまま、牢に入れておけ。奴隷1号には、隷属の魔道具をつけておけ。ルナ、お前は、俺の部屋に来い。闇奴隷として売り払う前に俺が確かめる。」


 手下たちから不満の声が上がった。

 「何を言っている。商品の価値を下げるようなことをするわけがないだろう。」


 首領は、私を襲う気はないようだ。それでも怖い。でも、感情を表に出すことはできない。


 「ここが、俺の部屋だ。中に入れ。」


 首領は、私を中に入れると鍵を閉めた。エンスレイブで縛られていると思っている為、隙だらけだ。


 (アイテムボックス・オープン・エンスレイブ)


 私は、首領をエンスレイブで縛った。

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