第2話 エンスレイブ

 「気が付きましたか?」


 私は、奴隷オークション会場の控室でベッドに寝かされていた。

 「はい。私は、…。」


 そうだった。背中に焼き印を当てられたんだ。今も痛い。まだ、ズキズキと痛む。薬なんてつけてもらっていない。そのまま放置されたままだ。なんかだんだん腹が立ってきた。


 そもそも、なんで焼き印なんだ。私は犯罪奴隷じゃない。債務奴隷だ。返済したら自由になれる奴隷なんだ。それなのに焼き印なんか入れられないといけないんだ。金貨100枚にしたのは、私じゃない。私には何も責任はない。


 「あの…、火傷の治療はしていただけないのでしょうか。とっても痛いのですけど。」


 「ごめんね。ここには、ポーションは置いてないの。そもそも、焼き印なんて言う原始的で野蛮な奴隷証なんて今どきしないわ。なのに何故、貴方はそんな目に合っているの。」


 「分かりません。ショーとして…?私、嵌められたのでしょうか?やらせオークションをしかけられたのでしょうか?」


  『ガチャリ』


 ドアが開き、私を競り落とし、焼き印を押した男が現れた。


 「おいおい。やらせオークションなんて人聞きの悪いことを言うのではない。競り落とした金額はきちんと支払ったし、不正などないぞ。」


 「…。」


 「それ、薬だ。火傷の薬。塗っておけ。」


 私は、薬を受け取ったが直ぐには、使わなかった。


 「どうした。薬を塗るがいい。」

 男は、ニヤニヤしながら言った。


 「いいえ。人前で、肌を露にしたくはありません。」


 「ふん。いつまで、そんな上品ぶったこと言っている。まあ、良い。好きにしろ。とにかく行くぞ。もう、ここには用はない。」


 「あら、奴隷は、私ひとりで良かったのですか?」


 「そうだな。少々、金を使いすぎたしな。」


 「では、行くぞ。」


 私は、男の後について、オークション会場を出た。


 男は、町の門を抜け、街道の馬車の発着場にやってきた。


 「あの馬車だ。乗れ。」


 私は、背中を押され、無理やり馬車に乗りこまされた。


 馬車には、向かい合わせの席と後方の席があり、私は、御者に背中を向ける席に座らされた。


 目の前に、人相の悪い男が座っていた。


 「これが、今回の商品だ。金貨100枚も使って競り落とした上物だ。ちゃんと縛るんだぞ。」


 「余計なことを言うんじゃない。」


 (縛る?魔術で縛るってこと…。)

 私は、アイテムボックスの口を体の前全体に開いた。魔術を仕掛けてくるのだったらアイテムボックスに収納できるはずだ。


 男は、少しよそ見をしていたかと思うと私の方に手を突き出した。

 「エンスレイブ」


 何をされたのか分からずキョトンとしてしてしまった。


 「お前が要らぬことを言うから、こ奴が警戒してしまったではないか。」

 「警戒している者には、効きが悪くなるのだ。」


 男はもう一度手を伸ばすと

 「エンスレイブ!」


 少し語気を強くして魔術を仕掛けてきた。 

 私は、もう一度収納し、目の焦点を合わせないようにして、ぼんやりした顔をしてやった。


 「ようやくうまくいったようだ。」

 人相の悪い男は、私がエンスレイブで支配できたと思ったようだ。


  「こいつの名前はなんだ。」


 「ルナだ。」

 私を競り落とした男が答えた。


 「ルナ。後ろの席に座って静かにしてろ。眠くなったら寝て良い。いいな。静かにしておくのだぞ。」


 私は、ゆらりと立ち上がると言われたように男の後ろの座席に移動し、座った。


 瞬きの回数を少なくし、焦点を合わせないように気を付けながらぼんやりとした表情で座り続けていた。


 同じ姿勢を続けておくのは辛かったけど、魔術に支配されていないことに気が付かれるのはまずいと思った。


 男たちは、しばらく私の様子を見ていたが、同じ姿勢をつ注げている私を見て安心したのか。


 「俺たちが戻るまで寝ておくのだ。いいな。寝ておくのだぞ。」


 寝ておくようにと念を押して馬車を降りて行った。


 私は、のろのろと体を動かし、後部の座席に横になろうとした時、


 『ガチャっ』と音がして人相の悪い男が馬車に乗り込んできた。


 私は、気にせずそのまま体を横たえ、目をつぶった。


 『ガチャリ』金属音がした。


 「頬に冷たく硬い感触」

 ナイフだ。


 怖い。でも、身を固くしてはいけない力を抜いて…。でも、男との間にはアイテムボックスの口を開いておく。


 「大丈夫のようだな。」


 男は、魔術を放つことなく馬車を降りて行った。


 深夜。男たちは、数人で戻ってきた。


 声が聞こえた。幼い子どものようだ。


 「お前は、この椅子に座っておれ。体を倒しても良いぞ。私が、横にいてやる。」


 「有難うございます。」

 幼く力がない声…、男の子か…。


 「お前はここだ。俺の横に座っておけ。眠くなったら寝ても構わんからな。直ぐに、馬車は出発する。寝ておかないと酔って気分が悪くなるかもしれんぞ。」


(馬車が出発するの。こんな夜遅くに…。)


 街道は真っ暗で、ランタンだけではほんの側しか照らすことができず、道中の安全は拙いものになってしまう。


 夜の移動は、危険が大きく、誰も行わない。それなのにこんなに夜遅く出発するなんて…。こいつら、やましいことだらけだと思う。




 

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