陥れ入れられた両親の連座を免れた私は、債務奴隷から成り上がり、復讐する。

伊都海月

陥れられた者たち

第1話 森の大賢者

 私が幼く、幸せだった頃、母に何度も読んでもらった物語。


 『森の大賢者レイの冒険』


 人々の幸せの為たくさんの魔道具を作り、心躍る冒険をした大賢者の話。


 この国は、その魔道具のおかげで豊かになり、強くなり、一時は、最強の王国と呼ばれていた。


 時は流れ、大賢者とその仲間は、この国を去って行った。裏切りと悲しみの歴史。王家と貴族、他国と自国、


 様々な原因があったのだろうが、その歴史は、正確には伝わっていない。事実として森の大賢者とその仲間がいなくなったということだけ。


 私が読んでもらっていたのは、裏切りと悲しみの物語ではない。


 レイが、精錬魔術で様々な不思議な魔道具や魔術を作って冒険する物語。


 今はなくなってしまったけど、昔は町々に溢れ、人々の生活を豊かに便利にしていた数々の魔道具を作っていく物語。仲間たちと様々な素材を集め、珍しい薬やポーションを作って人々を助ける物語だ。


 私の誕生日が後ひと月早かったら、今日の事態は迎えなかったかもしれない。私の誕生日は、つい1週間前、私の価値を上げる為、成人の儀を受けさせられたのが昨日なのだ。


 私が得た職業は、『精錬魔術師』森の賢者と同じ職業だったのだ。その職業名は、今回のオークションでは伏されている。物語にしか出てこない空想上の職業と思われていたからだ。


 とうとう私の名前が呼ばれた。

 「次は、ルナ・ベイリー。家名は、すでに廃されておりますからルナでございます。ルナ15歳。この少女は、つい一月前成人したばかりでございます。」


 そこから、オークションは始まった。


 「この奴隷の債務は、金貨20枚。金貨20枚から始めていただきます。金貨20枚ございませんか。」


 「20枚。」

 「25枚。」

 「30枚。」


 競りの金額は上がっていく。この金額が私が背負う債務。そして、我が家の債務の返済に使われ、もし残れば私たちの妹や弟の養育費として孤児院に支払われるお金になる。


 私たち兄弟が背負わされた債務の金額は、金貨50枚。せめてその金額は稼ぎたい。それ以上は、残された兄弟たちの養育費に当ててもらう。


 「35枚。」

 「50枚。」

 「50枚と銀貨5枚。」


 (良かった。債務の金額を超えた。これで、妹や弟が奴隷に落とされることはない。)


 「60枚。」


 「金貨60枚がでました。それ以上の方いらっしゃいませんか?」

 競りの進行役の男が大きな声を出す。


 (もう良い。これ以上高値で買われると私が返済しないといけない金額が膨らんでいく。弟と妹に渡す金額も多額になる必要はない。小さい子どもたちに大金を渡しても騙されたり事件に巻き込まれるだけだ。)


 焦る私の気持ちを嘲るかのように金額は上がっていく。

 「61枚。」

 「65枚。」


 「金貨100枚。」


 誰もが黙った。


 私は、金貨100枚で競り落とされた。


 「ルナ、君は、今日から私の物だ。」


 「はい。貴方に金貨100枚を返済するまで、違いますね。貴方に金貨100枚と返済までの利息を支払うまで、私はあなたの奴隷です。そして、一年間の利子は…、これだけの高額だと年利2分。つまり、金貨2枚。ですよね。」


 「おや、よくご存じだ。しかし、君の債務は大きすぎる。途中で逃亡されては大損害だからね。それなりの保険は、掛けさせてもらうよ。それは、覚悟してくれよ。」


 「確かにね。金貨100枚は、大きすぎる債務だわ。その内40枚を返済に回すことはできないかしら。私たち兄弟の債務って金貨50枚だったはずなのよ。100枚の内、金貨10枚を弟たちの養育費、残りは、私の負債の返済ということで金貨40枚を私の返済に回してもらうことはできないのですか?」


 「王都の債務者管理機関、このオークションの責任者としてお答えします。それは、1年間はできません。オークションの不正を防ぐための措置です。」


 司会をしていた男性が答えた。しかし、幼い弟と妹たちは、養育費として渡されたお金をだまし取られるだろう。金貨50枚は、大きすぎる金額だ。弟たちにとって知らぬうちに渡され、知らぬうちに消えていくお金になる。


 「おまえが言うように金貨100枚は、大きすぎる金額だ。そして、私は、お前を信頼し、お前がこの負債をコツコツと一生かけても返済すると考えるほどお人よしではない。だから、このオークション会場でその保険を掛けたい。それをショーとして行うことにしようと思うが、会場の皆さんは御賛同いただけるかな?」


 男は、そういうと、会場を見回した。多くの各客が奇声を上げ、賛同を表明をしていた。皆、明らかに悪趣味なショーを期待している。


 「そのショーとは奴隷の焼き印だ。勿論、この娘が負債すべてを完済した時、焼き印は、高級ポーションを使ってでも治療することを誓おう。宜しいかな。」


 大きな声。奇声。反対の声ではない。興奮し、煽る下品な声。本来、そのようなことは、決して許されるようなことではない。どれだけ大金の負債であっても、最も重い犯罪奴隷に押される焼き印を押すなどということ、許されることではないのだ。


 やっぱり悪趣味な奴らだ。私に拒否の権利はなく、オークション会場の観客は、この悪趣味なショーに賛同の意思を示し、楽しみにさえしている様子だ。


 灼熱の焼き印。奴隷を示す印がオークション会場に運び込まれた。私を競り落とした男の手に焼き印は握られ、私は、右肩、背中側を露にさせられた。ちょうど肩甲骨の上に焼き印が押し付けられる。肉が焼けるにおいと文字通り焼けるような痛みが肩に広がる。


 「イっ、ギャー」


 私は、張り裂けるような悲鳴を上げ、意識を失った。

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