第96話 王都に帰還
「こんなに色々としてもらっていいのかな……」
砦の談話室でたくさんのお菓子を眺めながら不安そうに呟いたレベッカに、アンが苦笑しつつ頷いた。
「私はまだ王女という立場だから、問題はないわ。逆にこれらのもてなしを断る方が、ここにいる人たちに心労を与えることになるのよ」
確かに……そうだな。もし俺が王族をもてなす立場になったとしたら、もてなしを快く受けてくれたら満足してくれたんだと安心し、断られたらお気に召さなかったんだと慌てるかもしれない。
やっぱり上に立つ人は、その辺の考え方も違うんだな。
「言われてみれば、そうかも」
「でしょう? だから好きなだけ食べたら良いわ」
アンのその言葉に頷いたレベッカは、嬉しそうな笑みを浮かべながらカップケーキを手に取った。
「アンリエット様、王都から使いが来るまでにどれほどの時間が掛かると思われますか?」
「そうね……早くて十日かしら。ユベールはどう思う?」
「私も同じ意見です。しかしアンリエット様が亡くなられたと思っていたところに、ご無事のご帰還の知らせですから、王宮は大混乱となるでしょう。もう少し時間が掛かるかもしれません」
「確かにそうね。では気長に待ちましょう」
それから俺たちは毎日談話室に集まり、ひたすら話をして日々を過ごした。現状でアンが砦の外に出るのはさまざまな危険もあるかもしれないということで、皆で砦の中にいると決めたのだ。
それぞれの過去についてや好きなもの、嫌いなもの、これから冒険者としてどこに行きたいか、そんなことをたくさん話した。
セレミース様とミローラ様とも話をするため神域に集まり、六人でも話をした。
そうして日々は穏やかに過ぎていき、ちょうど二週間後の午前中。王都からの迎えが砦にやって来た。
「おっ、アンリエット様の護衛をした隊の皆が来ていますね」
二階の部屋から皆で砦前を見下ろすと、確かに見慣れた顔があるみたいだ。
「本当ね。皆とまた会えて嬉しいわ」
アンと共に一階に下りて砦から外に出ると、迎えの騎士たちはアンの姿を見て、ほぼ例外なく全員が瞳に涙を浮かべた。
「アンリエット王女殿下……ご無事のご帰還、大変嬉しく思います!」
「皆、また会えて嬉しいわ。迎えに来てくれてありがとう」
「いえ、当然のことでございます。王女殿下をお守りすることができず、大変申し訳ございませんでした……!」
「それこそ気にしないで。帝国内に皆は付いてこられなかったのだから、仕方がないわ」
アンのその言葉と笑顔に騎士たちは涙を溢れさせ、その場に跪いた。
それからはユベールもかつての仲間たちと無事を喜び合い、俺たちも皆に感謝され、とても幸せな雰囲気が砦前の広場を包んだ。
王宮でもこんな雰囲気だったらいいけど、そうはいかないんだろうな……あの帝国にアンを嫁がせるような陛下が治めてる国だ。
何事もなく、アンが王籍を離脱できることを祈っていよう。
「では王女殿下、さっそく馬車に乗っていただけますか? 王宮で皆様がお待ちです」
「分かったわ。皆も一緒に馬車に乗っても良いかしら」
「……殿下がそれをお望みならば」
「ありがとう。では皆も乗ってね」
アンの要望で俺たちも一緒に馬車へ乗り込むことになり、また馬車の中では四人だけとなった。ここから王都までは一週間だ。
「まだしばらく話をする時間があるわね」
「そうですね。ただ話し尽くしてしまったような気もしますが」
「あら、そうかしら。例えば恋バナなどはしていないのではなくて?」
その言葉を聞いたユベールは、困惑の様子で俺たちに視線を向けた。
「確かに、ユベールの恋愛遍歴は気になるな」
「私も気になる!」
「……俺は特に話すようなことはない。それよりもリュカとレベッカはどうなんだ?」
「わ、私も……話すことはないよ」
レベッカは自分に話を振られたことで顔を赤くすると、首をブンブンと横に振って俺に視線を向けた。
「いや、俺もないぞ。アンは何かないのか?」
「王女なのだから、あるわけがないでしょう?」
その言葉で俺たちは全員で顔を見合わせ、苦笑を浮かべ合った。
「俺たちに恋バナは向いてないな」
「そうだね。これから受けてみたい依頼の話でもしようか」
「そうね」
「その方が盛り上がるな」
それからも色々な話をしながら楽しく道中は過ぎていき一週間後、ついに馬車は王都に到着した。
なんだか凄く、久しぶりに帰ってきた気がするな。
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