第95話 王国へ

 王宮を出た俺たちは、帝都の大通りを四人で並んで歩いていた。なんとなく沈黙が流れていた雰囲気を破ったのはレベッカだ。


「リュカ、これからどうするの?」

「そうだな……帝国はしばらく落ち着かないだろうし、イヴァンさんたちにだけ挨拶をしたら帝都を出ようか。部外者がいても邪魔になるだろうし。それからは……アルバネル王国に帰るのでいい?」


 アンに視線を向けて尋ねると、アンは笑顔ですぐに頷いた。


「もちろんよ。国に帰って正式に王籍から抜けるわ」

「分かった。じゃあ行き先はアルバネル王国の王都だな。ユベールはどうする?」

「俺は……」


 問いかけに悩むそぶりを見せたユベールに、アンが顔を覗き込むようにしながら声をかけた。


「私たちと一緒に行かないとして、これから行くところはあるの?」

「いえ、特にございませんが、皆様の中に割り込むようなことをしてはご迷惑かと……」

「あら、今更その心配? リュカ、レベッカ、ユベールがいたら迷惑かしら」

「いや、全く問題ない」

「人数が増えた方が楽しいと思う!」


 俺とレベッカの返答を聞いて、アンがまたユベールに視線を戻す。


「二人はこう言っているわよ」

「……本当に、良いのか?」


 俺たちに向けて伺うように口を開いたユベールに頷いて見せると、ユベールはアンに視線を戻してからゆっくりと頷いた。


「では、ご一緒させていただきます。これからもよろしくお願いいたします」


 その言葉を聞いたアンは、嬉しそうな笑みを浮かべた。そんなアンの笑顔を見てユベールも頬を緩ませる。ユベールは一人でここまでアンを探しにくるぐらいだし、二人の絆は相当強いものなんだろう。


「ええ、これからもよろしくね。ところで、なんでまた敬語に戻ってるのかしら」

「……今は私たちの会話を聞いている者はおりませんし、すでに嫁ぎ先はなくなり王国に戻られるならば、正体を強く隠す必要もないかと思いまして」

「確かにそうだけれど……まあ良いわ。今はまだ王女という立場だものね。ただ王籍を抜けたら対等な仲間よ?」


 そう言ってウインクをしたアンに、ユベールは苦笑を浮かべた。


「かしこまりました。しかしすぐには無理ですので、時間をかけて口調の修正を心がけます」

「……その言い方は怪しいわね」

「いえいえ、そんなことはございませんよ」

「本当かしら」


 真意を探るようにユベールのことをじっと見つめていたアンがふと表情を綻ばせ、それに釣られてユベール、そして俺たちも笑顔になった。


 破壊の神の眷属であるセザールを倒すことができて、帝国がいい方向に向かう兆しが見えて、久しぶりに心から笑えた気がするな。


 それから俺たちはイヴァンさんたちに挨拶をしてから帝都を後にして、四人で楽しみながら王国への道中を進んだ。



 帝都を出発してからしばらく。俺たちはついに帝国と王国との国境に到着した。アンの正体はここで明かし、王宮にアンの無事を報告してもらう予定だ。


 ちなみにアンは落ちた馬車から運良く助かり、俺たちと合流したユベールとで捜索し、保護をしたという筋書きに決めてある。

 帝国で起こったクーデターについては、面倒を避けるため俺たちが参加したという事実は明かさず、事実のみを報告する予定だ。


「現在は帝国からの入国は厳しく審査することになっている! まずはそこに荷物を全て置き……」

「おいっ、待て!」


 一人の門番が俺たちに声をかけ、もう一人の門番がアンの姿を見て慌ててそれを止めた。じっとアンの顔を凝視してからユベールと俺たちの顔を確認し、その場に勢いよく跪く。


「王女殿下、ご無事のご帰還嬉しく思います!!」

「は、王女殿下? えっ……た、大変失礼いたしましたっ!」


 もう一人の門番も王女殿下という言葉を聞いてアンの正体に思い至ったのか、その場で跪き深く頭を下げた。


「ありがとう。王国には私が死亡したと伝えられたようだけれど、この三人のおかげで命は助かったわ。その旨を王宮へ知らせて欲しいのだけれど、良いかしら」

「もちろんでございます……! ま、まずはこちらへどうぞっ」


 それから俺たちは国境門がある砦の中に案内され、最大限のもてなしを受けた。

 この場所にいる一番偉い人が慌てた様子でアンの下に来て、あれよあれよという間にそれぞれの部屋を用意してもらえたのだ。


 今は皆で個室以外に用意してもらった談話室みたいなところで、お茶やお菓子と共にくつろいでいる。部屋の中にいるのは俺たち四人だけだ。

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