第88話 クーデター開始
長いようで短い三時間が経過し、ついに突入の時がきた。俺たちは皆で一斉に拠点を出て王宮に向かう。ここから王宮までは歩いて十分ほどだ。
大通りを歩くと何人かの街人に遭遇するが、武装した俺たちを見て止めようとする人は誰もいない。それどころかクーデターを起こそうとしていることに気付いた人たちが、自分も参加したいと手を挙げるほどだ。
しかし作戦を理解していない人が増えても混乱するだけなので、気持ちだけを受け取って人数は増やさずに王宮へ向かった。中で合流する騎士がいない現状で、王宮へ向かっているのが百人ほどだ。
これが多いのか少ないのか分からないけど……ここに寝返った騎士たちも加わり、相手は裏切りで混乱するとなると、十分に勝算はあるだろう。
「そろそろ王宮に着くぞ」
先頭を歩く仲間の声が聞こえてきた瞬間、王宮の大門がギギギギギ……と音を立てて開いた。大門にいるのは仲間だけにするという作戦は、無事に成功したらしい。
「じゃあ皆、行くぞ!」
「おおっ!!」
「やってやるぜ!」
大門が開き切ったところで号令が掛けられ、俺たちは一切に王宮に向かって走り出した。ここからは時間との勝負だ。騎士たちが体制を立て直す前に突入して相手の数を減らしたい。
敷地内に入るとまずは庭があり、そこを突っ切って王宮の建物に向かう。しかしその庭部分に騎士の巡回がいて、数人の騎士とぶつかりそうだ。
「俺たちはこの国を正そうと集まった者だ! 今の腐った帝国を変えたいと思うなら、俺たちに続いて国に剣を向けろ!」
誰かがそう叫ぶと、騎士たちは困惑の面持ちで剣を抜いた。しかしその剣がこちらに向けられることはなく、すんなりと道を譲ってもらえる。
まだこちらに加勢するとまではいっていないが、明確な敵ではなくなったな。
こうして言葉で敵意をなくしてくれると、本当に楽でありがたいんだが……
しかしそんな思いも虚しく、建物内に入ったところでたくさん集まってきていた騎士たちは、俺たちに向けて剣を抜いた。
「侵入者だ! 殺しても構わん!」
「はっ!」
会場に着く前に戦闘が始まってしまったが、ここで立ち止まるわけにはいかない。俺たちは戦いが始まったところを避けて、少し減った人数で会場に向かってひた走る。
階段に差し掛かったところで上にいる敵を魔法で蹴散らし、道を作りながら駆け上がった。するとすぐに会場の大扉が見えてきて、その前には騎士がいる。しかし二人だけなので、これならすぐに倒して中へ入れるだろう。
騎士達の怒号や俺たちの雄叫びが響き渡る中、大扉は勢いよく開かれて、煌びやかなパーティー会場に俺たちの勢力がなだれ込んだ。
「腐った帝国上層部を一掃し、帝国を正そうと集まっている! 少しでもこの国がおかしいと思っているならば、我らに剣を向けずこの場から立ち去れ!」
最初に会場中に響き渡る声でそう告げてから、全員で雄叫びを上げ武器を掲げた。すると一割ほどの騎士は困惑したように会場の端へ向かい、残りの騎士は俺たちに向かって剣を抜く。
あんまり数は減らなかったな……まあ、仕方がないか。
「て、敵襲だ……! 皇帝陛下をお守りしろ!!」
「会場に入れるな……!」
敵の騎士たちとこちら側との戦いが始まったところで、俺は剣で敵勢力を倒しつつ、会場をぐるりと見回してセザールを探し出した。
すると皇帝陛下のそばに控える、金の長髪を後ろで縛った男を発見できる。
「皆、セザールがいた。会場の奥だ」
「……本当だ。エルネストは?」
「今近くに行ってる」
それからも適度に戦いつつセザールたちの様子を確認していると、エスネストの後に付いて会場からこっそり逃げていくのが確認できた。
「よしっ、追うぞ」
「うん。見失わないように急ごうか」
「早く行きましょう」
「分かった」
セレミース様に向こうの様子を教えてもらいながら適度な距離を保って後を付けていくと、ついに目的地である大ホールに辿り着いた。
四人で顔を見合わせて扉を開くと……ホールの奥にある壇上の近くに、エルネストたちの姿を確認できる。
「なっ、追手か!?」
俺たちの姿を見てそう叫んだのは皇帝陛下だ。重い体でここまで歩いたからか、ゼェゼェと荒い息を吐いている。
「エルネスト、私を守れ!」
陛下のその叫び声を聞いた瞬間に床を蹴って、剣先を皇帝陛下の喉元に突き刺そうとすると……セザールがそれを防いだ。
皇帝陛下は見捨てるのかと思ったが、助けるんだな。まだ利用価値があると思っているのだろうか。
「お前……」
セザールは一度剣を合わせただけで俺の強さが分かったのか、ニヤッと笑みを浮かべて剣を弾いた。
「エルネスト! 皇帝陛下はお前に任せ…………お前も、そっち側だったのか」
後ろを振り返ったセザールは、剣を抜いて皇帝陛下たちに突き付けているエルネストを見て、一瞬だけ怒りをあらわにした。
しかしすぐに切り替えたのか、楽しそうな笑みを浮かべる。
「はははっ、もうこの国も終わりか。他国に攻め込めなかったことは残念だが、クーデターによって滅ぶというのもまた一興だ」
「お前は、何者なんだ?」
俺たちが眷属だということを知られていない利点を生かすために、セザールの正体について気づいていないふりをしながら問いかけると、セザールはニヤッと思わず恐怖を感じるような笑みを浮かべて口を開いた。
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