第86話 作戦会議

 皆で拠点に戻るとエルネストが俺たちを迎えてくれて、すぐにユベールのことを信頼できる冒険者だと皆に紹介してくれた。


「直前に仲間を増やしてすまないな」

「いえ、戦力は少しでも多い方が良いですから。それにリュカさんたちの知り合いで、エルネストさんが受け入れたならば問題はないでしょう」


 拠点で情報収集の役割を果たしていた男性のその言葉に、他の仲間も頷いてくれた。


「受け入れてくれて感謝する。少しでも役立てるように頑張ろう」

「期待していますよ。ではさっそく当日の動きについて話をしましょう。エルネストさん、よろしくお願いします」

「分かった。まず当日だが、パーティーが行われるのはこの大ホールだ」


 エルネストはそう言って、テーブルに広げられた王宮内の地図を指差した。ちなみにこの地図は、エルネストがこっそり盗んできたものらしい。


「警備はどうなってますか?」

「やはり会場の周辺は相当数の騎士が配備される。しかし王宮の出入り口はいつもと変わらないため、会場に辿り着くのはそこまで難しくないだろう。皆にはここの大門から正面突破で王宮内に侵入してもらいたい」


 大門から……それは随分と大胆な作戦だな。でもその方が一気に中に雪崩れ込めるし、こそこそと潜り込むのよりもいいのかもしれない。


「大門の警備はどうなっていますか?」

「騎士が最低五人はいるんだが、当日の五人は全員仲間で揃えることに成功している。したがって中に入るのは簡単だろう。問題はその後だな」


 大門の警備は全員仲間って……もう帝国は終わりだな。いや、終わらせるのが俺たちなんだけど。


「この通路を抜けて大ホールに向かうんだが、ここの通路には警備の騎士が配置されているので、その騎士たちが俺たちを通してくれなければ戦いとなるだろう。それからこの部屋が騎士たちの休憩室なので、前を通る際には気をつけて欲しい」

「かしこまりました。階段にも警備はいますか?」

「もちろん配置されている。ここが一番厄介だろうな。階段での戦闘は階下にいる方が不利になりがちだ」


 上から重いものを落とされたりすると、防ぐのが難しいからな……ここは魔法で一気に突破するのが良さそうだ。


「俺が魔法で階段上にいる敵は一気に倒せると思う」

「本当か?」

「ああ、問題ない」

「分かった。では階段に差し掛かったらリュカが道を作り、そこを皆で登ることとする。そして登ったらすぐに会場の入り口があるので、そこから中に入って欲しい」


 エルネストのその言葉に皆は同意を示し、大きく頷いてみせた。この様子だと、会場に辿り着くまでは特に問題なさそうだな。


「会場内に入ったら、まずはこの国の現状を訴えて俺たちの理念を掲げる。それによってこちらを襲ってこなくなった者は放置で良い。攻撃を仕掛けてきた者には容赦をするな」

「分かりました」

「それから私の当日の動きだが……皆が会場に入ってきたところで、皇帝や宰相など主要な上層部を別の場所に誘導しようと思っている。というのも、会場内でトップを狙えば敵の騎士は皆がそこに集まって総力戦となる。それならば別の場所に誘導し、護衛の騎士が少なくなったところで確実に仕留めた方が良い」


 セザールが眷属だということを明かさずに隔離する理由を述べたエルネストに、誰も疑問は抱いていないようだ。エルネストも口が上手いよな……。


「ということは、エルネストさんはすぐには裏切らないということですね」

「ああ、そうなるな。最初は皇帝たちを騎士として誘導するつもりだ」

「……分かりました。エルネストさんがそれを最適だと判断したのであれば、私たちは従います。何人そちらに向かわせれば良いですか?」

「援軍はリュカたちに頼むつもりだ。確実に仕留めたいから、一級冒険者であるリュカの個の力が欲しいんだ」


 エルネストが発したその言葉には反発もあるかと覚悟してたけど、意外にも反対意見は出ずに受け入れてもらえた。


「分かりました。ではリュカたちは会場にいない前提で戦います」

「ああ、頼んだぞ。……では話はこの辺で終わりだが、何か質問や意見があるか?」

「いくつか意見を言っても良いだろうか?」


 手を挙げたのはユベールだ。エルネストはすぐにユベールに視線を向けて頷いて見せる。


「ありがとう。俺は今までの経歴から兵法に少し詳しいんだが、戦いを挑むときには絶対にするべきことがある。それは逃げ道の確保だ。どんなに有利だと思う戦いでも、これは怠るべきではない」

「確かにそうだな……パーティー会場からの逃げ道をいくつか決めておこう。一つ目の候補はこちらの庭から逃げる方法だな」


 エルネストが示したのは、庭を通って王宮の外門に向かい、そこにある兵士の休憩所を通るルートだった。休憩所は壁の内側と外側のどちらにも扉があり、緊急時の避難経路となっているのだそうだ。


「ありだな。他にはあるか?」

「そうだな……少し遠いがこちらの裏側に――」


 それから俺たちはエルネストの情報を元に、何通りかの逃げ道を決めて頭に叩き込んだ。

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