第85話 ユベールの強さ

 ランシアン様が仲間に加わることが確定したところで、アンは嬉しそうな笑みを浮かべてから時計に視線を落とした。


「ではこれから……あと二十分後ぐらいにクーデターを起こす勢力の作戦会議があるのだけれど、ユベールにはそこに参加してもらうわね。ただその前に、まずはリュカとレベッカにあなたの戦い方について説明をして欲しいわ。基本的に一緒に戦うのはこの二人と私だから」

「かしこまりました。改めてリュカさんとレベッカさん、よろしくお願いします。私のことはユベールと呼んでください」


 そう言って差し出された右手を取って、俺たちも改めて自己紹介をする。


「こちらこそよろしくお願いします。俺のことはリュカと呼び捨てでいいですよ。敬語も必要ないです」

「私のこともレベッカで」

「……じゃあ、リュカとレベッカと呼ぶよ。俺に対しても敬語はいらないから。これからよろしく」

「分かった。ユベール、これからよろしく」

「よろしくね」


 そうして俺たちが仲を深めていると、アンも楽しそうにユベールの顔を覗き込んだ。


「私のこともアンと呼び捨てで呼ぶのよ。同じ冒険者という設定なのだから、敬語も禁止よ」

「……か、かしこまりました」

「敬語は禁止」

「……わ、わかっ、た。アン…………」

「それで良いわ」


 ユベールはアンに対して敬語を使わず愛称で呼ぶことにかなり抵抗があるらしく、眉間に皺を寄せて難しい表情でなんとかその言葉を口にした。


 アンはそんなユベールを見て楽しそうだ。こんなにぎこちなければすぐにバレそうだけど……まあ、すぐに慣れるか。


「では俺の戦い方について説明するが、まず一番得意な武器は大剣なんだ」


 ユベールはそう言うと、背負っている大きな剣の柄を右手で掴んでみせた。その剣はユベールの身長ほどの大きさで、見ただけで重いのだろうなと分かる。


「その剣、ずっと気になってたんだよね」

「騎士の時は片手剣を使ってなかったか?」

「近衛騎士は大剣を使うと視界を遮って危ないからと、禁止されてたんだ。ただ俺は盾にもなるような頑丈な大剣が好きで、休日はいつもこっちを使ってた」


 近衛騎士は禁止されてる武器なんてものまであるのか。やっぱりエリートだけど、色々と窮屈なんだな。


「俺の戦い方はこの剣で防御もこなしつつ、敵を叩き切るような感じだな。前衛が得意だ」

「私たちは前衛をこなせるのがリュカしかいないから、そこを担当してもらえるのはありがたいよ」

「そうだな。特に防御をやってもらえるのはありがたい。頼りにさせてもらう」

「ああ、任せてくれ」


 ユベールと共闘する時には二人で前衛というよりも、俺が遊撃という形の方が良いかもしれないな。これほど大きい大剣を振り回すには、近くに仲間がいると実力を発揮できないだろう。


「どの程度の魔物なら倒せるのか聞いてもいいか?」

「もちろんだ。そうだな……この街に来る道中で何度か遭遇したんだが、ブラックベアなら一人で危なげなく倒せるだろう」


 おおっ、それはかなりの実力だな。ブラックベアは冒険者なら三級でなんとかってところだろうから、そのブラックベアを一人で危なげなく倒せるとなると、二級相当と言っても大袈裟じゃないと思う。


「ユベールは強いんだね。近衛騎士って皆がそんなに強いの?」

「違うわ、ユベールは特別なのよ。だから若い頃から近衛騎士に抜擢されていたの。当時は最年少だったのよ」


 アンが付け足したその情報に、ユベールは少し照れた様子で頬を掻いた。最年少で近衛騎士に配属されるなんて、本当に能力が突出してたんだな。


「ユベール、凄いな」

「仲間になってくれて心強いよ」


 それほどに強いのなら、ユベール個人の戦闘能力に関しては心配いらないな。


「本番前に森で連携の確認をしよう。やっぱり実際の戦い方は、見ないと分からないから」

「ああ、俺からも頼みたいと思っていた。皆の戦い方も、もう一度しっかりと見ておきたい。眷属の能力もできれば実際に見せて欲しいんだが……」

「もちろん見せるよ。じゃあ……明日は森に行くか。今日はそろそろ時間だし、拠点で作戦会議だから」

「あっ、本当だね。もう行かないと」


 レベッカが時計を確認してそう声を発したところで、皆で拠点へと移動することになった。


「ユベール、しっかりと冒険者になりきるのよ。私も冒険者アンになりきるわ」

「かしこまりました。しっかりと務めます」

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