第84話 新たな仲間
拠点に向かうとすでにエルネストは他の仲間と話をしていて、俺たちはエルネストに少しだけ時間をもらって別室に入った。
そしてランシアン様のことを説明すると――エルネストはほぼ迷うことなく、仲間に迎え入れることを了承してくれた。
「エルネスト、ありがとう」
「王女殿下の護衛騎士だった者ならば強いでしょうし、拒む理由はありませんよ」
そう言ったエルネストは、ランシアン様の話を聞いてどこか寂しそうだ。そこまでして仕えたい、守りたい主人がいることが羨ましいのだろうか。
「ええ、ユベールは強いわよ。近くにいるから連れてきても良いかしら」
「もちろんです。もう作戦の決行日まで数日ですし、早く当日の配置を決めなければなりません。三十分後に皆でリビングに集まって作戦会議をするので、そこに連れてきてください」
「分かったわ」
エルネストと別室でそんな話をしてから、俺たちは近くで待ってくれているランシアン様のところに戻った。
「ユベール、待たせたわね」
「いえ、気になさらないでください。……誰とどのような話をされたのかは聞いても良いのでしょうか」
「ふふっ、そんなに気を使わなくても良いわよ。あなたには全てを話すわ」
アンのその言葉にランシアン様は感激の面持ちで頭を下げると、覚悟を決めた表情で顔を上げた。
さっきの告白が神の眷属だとか魔物に襲われたのも作戦だったとか、衝撃的な内容ばかりだったから身構えているのだろう。
でもまあ、クーデターの話だから身構えてるぐらいがちょうど良いかも。
「実は私たちは……これからこの国で起こるクーデターの手助けをするの」
その言葉を聞いたランシアン様は、眷属だという告白よりも衝撃を受けた様子で固まった。そしてしばらくしてからゆっくりと瞬きをして、大きく息を吐き出す。
「……それは、本当なのですか?」
「ええ、この国の酷さはあなたも知っているでしょう? クーデターでも起こらない限り、もうこの国が正常に戻る術はないわ」
「確かにそれは分かりますが、なぜ殿下が手助けを? この国にそこまでの思い入れがあるのですか?」
ランシアン様はもっともな疑問を口にした。するとアンはにっこりと王女様らしい笑みを浮かべてから口を開く。
「この国の人たちを救いたいという気持ちは、今まで王族として過ごしてきた身としてはもちろんあるわ。――しかしそれだけではなく、まず第一にこの帝国をここまで荒らしているのは神の眷属なのよ。ならば同じ眷属である私たちが対処しなければいけないでしょう? それから嫁ぎ先が完全になくなれば、お父様の私への興味が完全になくなるわ」
後半のアンの本音を聞いて、ランシアン様はぽかんと口を開いてから苦笑を浮かべた。
「さすが殿下ですね。魔物に自分を襲わせる作戦を聞いた時にも思いましたが、豪胆な方です」
「それは褒め言葉なのかしら?」
「もちろんですよ」
「今回は素直に受け取っておくわ」
アンはそう言ってから表情を真剣なものに戻して、また口を開いた。
「それでクーデターが成功した後のことだけれど、私は一度王国に戻ろうと思っているの。そしてそこでお父様を説得して、王籍から抜ける予定よ。そうすればコソコソと隠れなくても良いでしょう?」
「もうそこまで考えておられるのですね……」
「ええ、もちろんよ。ユベールは私の主張が認められると思う?」
その問いかけにしばらく考え込んだランシアン様は、ゆっくりと視線を上げると頷いた。
「クーデターが成功すれば王女殿下の嫁ぎ先がなくなり、殿下には嫁いだ矢先に国が乗っ取られたという悪評がつくでしょう。そうなれば次の嫁ぎ先を見つけるのも難しいですし、反対はされないかと思います。――陛下はご家族に対しても価値の有無で判断されますから」
「あら、そんなことを言っても良いのかしら」
「……私はもう騎士ではありませんので」
「ふふっ、そうだったわね」
騎士ではないと宣言するランシアン様に後悔している様子は見られず、清々しい表情だ。騎士って側から見てるとエリートだけど、やっぱり色々と大変なことも多いんだろうな。
「ではもうただの冒険者となったユベールに頼みがあるのだけれど――私たちと一緒に、クーデターの手助けをしてくれないかしら」
「喜んで、お手伝いさせていただきます」
アンの言葉に騎士の敬礼をしながら笑みを浮かべたランシアン様は、今までで一番生き生きとした表情を浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます