第83話 驚きの訪問者
セザールが破壊の神の眷属であり、帝国をここまで混乱に陥らせた黒幕であると分かってからさらに日々が経過した。
エルネストに俺たちの正体を明かし、現在は当日の作戦を詰めているところだ。
今日も作戦会議のために拠点へ向かおうと、イヴァンさんの宿がある路地から大通りへ出た――その瞬間、遠くから誰かがこちらに走り寄ってくるのが見える。
「……誰だ?」
「えっと……なんだか凄い気迫だね」
「もしかして、ユベール?」
俺たちが困惑していると、アンが走り寄ってくる男性の名前を口にした。
「アンの知り合い?」
「二人も知っているでしょう? ユベール・ランシアンよ」
え、ランシアン様!?
それって王国の騎士で、アンの護衛隊の隊長をしてた人だよな。なんでこんなところにいるんだろう……それに、服装が騎士姿ではない。薄汚れた冒険者の格好で、なんだか別人みたいだ。
「リュカさん! レベッカさん!」
ランシアン様は俺たちに用事があるようで、こちらへ一目散に駆けてくると、俺の肩をガシッと掴んだ。
「アンリエット王女殿下が崖から落ちたというのは、本当ですか!」
……そっか、王国にその連絡がいったのか。でもそれを聞いてここまで来るって、やっぱりいまいち理由が分からない。
騎士として帝国に入れるわけがないだろうし……格好的にも、一人でいるところから見ても、単独で冒険者として来たように見える。
「本当ですが……なぜこちらに?」
「私は王女殿下に関する一報を聞き、まだ殿下が崖下で生きておられるのではないかと、居ても立っても居られずこちらに参りました。――王女殿下には、返しきれない恩があるのです。それなのに此度の危険から殿下をお救いできず、自分が許せません……」
ランシアン様はよほど後悔しているのか、拳をキツく握りしめて自分自身を責めている様子だ。
ここまでアンに対して特別な気持ちを持ってたなんて、一緒に護衛をしてた時は気づかなかったな。真面目で穏やかな騎士ってイメージだけだったから、ここまで一人で来たという事実に驚く。
「崖の場所を教えていただけませんか? そうすれば後は私が一人で捜索に行きますので」
「えっと……」
どうしよう。崖の場所を教えたら、このまま現場に直行しそうだ。でもアンは隣に生きていて……本当のことを教えた方がいいだろうか。
悩んでレベッカとアンに視線を向けると、アンが俺に対して頷いてから一歩前に進み出た。
「大切な話があるわ。付いてきてちょうだい」
真剣な表情でそう発したアンに、ランシアン様は困惑の表情だ。今のアンは全く違う容姿になっているのだから、それも仕方がないだろう。
「……えっと、あなたは?」
「あなたの探し人の居場所を知っている者よ。とりあえず、静かに付いてきて」
アンはそう言うと大通りからまた裏路地に戻り、ランシアン様は戸惑いながらもアンの後に続いた。
そうして皆で入った空き家の中で――
――アンは、変身ローブを脱いだ。
「ユベール、無謀なことをしすぎよ。ここにいるってことは、もしかして騎士を辞めてきたの?」
苦笑を浮かべつつそう発したアンの姿を見て、ランシアン様は驚愕に瞳を見開き、瞳から涙を溢れさせた。
「お、王女殿下……っ、生きてっ、生きておられたのですね!」
そう言ってその場に跪いたランシアン様は、深く頭を下げる。
「御身をお守りすることができず、本当に申し訳ございませんでしたっ。またお会いできたこと、心より嬉しく思います」
「ユベール、あなたがそこまで責任を感じる必要はないわ。あなたはしっかりと帝国まで私のことを送り届けてくれたじゃない。……それに、私は今こうして生きているのだから良いのよ」
アンのその言葉に、ランシアン様は頭を下げたまま肩を震わせた。その様子を見ていると、俺たちまでもらい泣きしそうになってくる。
――アンが俺たちに助けを求めてくれて、逃げようと決心してくれて、本当に良かった。
それからしばらくランシアン様が騎士を辞めてきたことや、帝国の現状などを話していると時間が経過し、話が途切れたところでアンが俺たちに真剣な表情を向けた。
「二人とも、少し話があるのだけれど良いかしら。ユベールはここで待っていて」
「かしこまりました」
ランシアン様がアンの言葉に従ったのを見届けてから、アンは俺とレベッカを部屋の端に誘った。そして小声で発された言葉は……予想通りのものだ。
「ユベールに全てを打ち明けても良いかしら? 逃げ出す作戦を立てていたこと、私が眷属であること、……さらにできれば、リュカのことも」
その言葉を聞いてからランシアン様に話をするデメリットを考え直したけど、特に大きなものは思いつかない。
アンがランシアン様を信頼できると判断してるなら俺たちはそれを信じるし、何より俺たちもランシアン様に対しては好印象しかない。
「俺は構わないよ。アンが話しても大丈夫だと判断してるなら」
「ええ、ユベールのことは信頼しているわ。逃げ出そうと考えた時に何も打ち明けなかったのは、王国の騎士として働くユベールに重荷を背負わせたくなかったからなの。だけど騎士は辞めてしまったみたいだし……」
そう言って苦笑を浮かべるアンは呆れも含んでいるけど、嬉しそうな表情を浮かべた。
「私もアンが話しても大丈夫だと思うなら、反対はしないよ」
「レベッカ、ありがとう」
「ただクーデターのことはまだ秘密にしてほしい。そこだけは仲間に引き入れるにしても、エルネストに話を通してからにしたいんだ」
「それはもちろん。順序は違えないわ」
それから俺たちはランシアン様に全てを打ち明けて、話が終わってから四人で拠点に向かった。
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