第73話 クーデターの実行日
次の日のお昼頃、拠点にエルネストがやって来た。エルネストは疲れた表情を浮かべていたが、怪我をしているなどということはないようだ。
「リュカ、レベッカ、無事ここに着いていて良かった」
「ああ、問題なく入れてもらえた。……それで、王宮は大丈夫なのか?」
「大丈夫……ではないが、とりあえず少し時間ができて抜け出せた。しかし一時間ほどで帰らなければいけないので、さっそく本題に入るぞ」
それからエルネストの話を聞いた限りでは、騎士たちは最悪の罰は免れたようだ。ただ騎士たちには伝えていないが、他国に戦争を仕掛ける際に問答無用で前線に投入されることが決まったらしい。
要するに、捨て駒として使われるということだ。
エルネストはその話をしながら、苦い表情で眉間に皺を寄せていた。騎士達の処分も、戦争をするということも受け入れられないのだろう。
……それにしても、エルネストはこの話を聞けるのだから王宮で信を得てるんだろうな。そんなエルネストがこちらの仲間というのはかなり大きい。
「これから俺たちはどう動けばいい? しばらくはこの街で待機か?」
「ああ、そうしてもらえるとありがたい。しかしクーデターの日程は決まった」
エルネストはそう言うと、俺たち以外の仲間も順に見回してから口を開いた。
「一ヶ月後に国王の誕生パーティーが開かれる。そこを襲撃しよう。国の主要な者たちが一堂に会する予定だ」
「一ヶ月後ですか……分かりました。他の仲間への情報伝達は任せてください」
「ああ、頼んだぞ。とりあえず今日は時間がないから、また後で詳しい作戦を立てよう。パーティーの詳細もこれから決まるからな」
「かしこまりました」
それからエルネストは他の仲間と少し話をして、急いで王宮に帰っていった。
「一ヶ月間どうしようか」
「そうだな……とりあえずここにはたまに来るぐらいにして、別の場所で活動しよう」
俺たちが頻繁に出入りしていたら、誰かにこの場所が知られてしまうかもしれない。滞在場所は……やっぱりイヴァンさんのところかな。
レベッカにその提案をすると、俺たちが出入りすることでイヴァンさんたちに危険が及ぶ可能性に少しだけ悩んだ様子だったけど、しばらくしてからゆっくりと頷いた。
「それ以外に頼れる場所もないし、話をしてみようか。でもお世話になるなら相応の恩返しをしようね」
「それはもちろん。食料だけじゃなくて他のものも渡そうか」
この街には各種道具や生活雑貨も不足してるだろうから、神域に保管してるものが尽きるまでは援助しよう。
「俺たちは別の場所に滞在するけど、どのぐらいの頻度でここに来ればいい?」
拠点を出る前に俺たちを迎え入れてくれた男性に問いかけると、男性は少しだけ悩んでから指を一本だけ立てた。
「週に一度は来てほしい。作戦が決まったら早めに伝えたいからな。来る時にはできれば目立たないよう夜に来てくれ。俺はずっとここにいるから、誰もいない心配はいらない」
「分かった。じゃあまた一週間後に」
他のメンバーにも軽く挨拶をして拠点を後にした俺たちは、さっそくイヴァンさんの宿屋に向けて歩き出した。
この拠点から宿屋は歩いて二十分ほどなので、遠くなくちょうどいい距離感だ。
「リュカ、アンは帝都の近くにいるんだよね?」
「ああ、セレミース様から聞いた限りだと毎日魔物と戦ってるらしい。もう魔法はかなり使いこなしてるって」
「そうなんだ。さすが眷属だね」
「今まで練習する機会がなかっただけで、慣れればかなり強くなるよな」
どれほどの強さになってるのか楽しみだ。俺たちにも時間ができたし、そろそろ合流するかな。
「そういえば、ミローラ様の特殊能力? は何なのかな。リュカは仮初の平和でしょう?」
「……確かに聞いたことなかったな。合流したら聞いてみるか。明日合流するのでいい?」
「もちろん!」
レベッカはアンと久しぶりに会えるからか嬉しそうに微笑んで、しかしすぐに眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「どうしたんだ?」
「あのさ、アンってどういう立場で帝都に入るの?」
「それは……帝国の田舎の村から来たことにすれば、不自然じゃないと思うけど」
「そうだよね。でもそれだと、エルネストたちの勢力に加わってもらうことはできない気がするんだけど……」
確かに……言われてみればそうかもしれない。帝国の人間を、しかも完全に初対面の人物をエルネストが信用することはないだろう。
しかしだからと言って、他国から来たというのも不自然だ。
アンにはずっと神域で待っていてもらうのがいいのだろうか。でもアンが強くなったのなら、その戦力を遊ばせておくのは勿体ない。
「……とりあえずアンと合流して、戦闘能力を見てから考えよう」
「そうだね。そうしようか」
それからはこの先一ヶ月の魔物討伐について軽く話し合いをしながら、何事もなくイヴァンさんの宿に辿り着いた。
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