第72話 拠点へ

 それから一週間経ち、俺たちはなんの成果もなく帝都に帰還した。今は騎士たちと別れ、エルネストたち勢力の拠点に向かっているところだ。


「……あの騎士たちってどうするのが正解なのかな」


 レベッカがポツリと呟いた言葉に、悩んで上手く言葉が出てこない。


「敵になったら容赦なく倒すしかないけど、問題はこちら側に寝返った場合だな。今後の帝国にいい影響を及ぼさないようなら、捕らえたり国外に追放したり、そういう対処になると思うけど……」

「そうだよね……難しいね」


 あの騎士たちがエルネストの下で誠実に騎士をするというなら問題はないが、今まで好き放題やってたとなると望みは薄そうだ。


 レベッカとそんな話をしながら帝都を歩いていると、教えられた拠点に辿り着いた。エルネストに教えてもらった通りドアを三回叩いて、二秒の間隔の後にまた二回叩く。


「誰でしょう?」


 すると中から声が聞こえてきたので、合言葉を返した。


「肉を売る者です。星型の珍しい肉がありますよ」


 その言葉を発するとすぐに扉が開き、中に迎え入れられる。扉を開けてくれたのは若い男性だ。


「……新入りか? 珍しいな」

「エルネストに仲間にと受け入れてもらった。まだこちらまで俺たちのことは伝わってないか?」

「エルネストさんから?」


 男性はエルネストの名前を聞くと瞳を見開き、最初よりも警戒心を解いて俺たちを奥に迎えてくれた。


 奥には大きなテーブルに椅子がたくさんあり、数人が各々なにかしらの作業をしているようだ。まだ子供に見える人もかなりお歳を召した人もいることから、本当に人手が足りないというのが窺える。


「皆、新入りだ。エルネストさんが直々に勧誘したらしい」

「リュカだ」

「私はレベッカ。よろしくね」


 俺たちの挨拶に部屋の中にいた全員がこちらに視線を向けてくれたが、まだ信用してくれていない様子だ。まあしばらくは仕方がないだろう。


「強そうだな。戦闘要員か?」

「ああ、そのつもりで仲間になった」

「戦いには自信があるよ。特にリュカは大型の魔物を一人で軽々倒せるほどに強いから、頼りにしてね」

「……エルネストの仲間はここにいるだけなのか?」

 

 さすがにこれだけだったら絶望的すぎる戦力差だと思って恐る恐る問いかけると、最初にドアを開けてくれた男が「まさか」と笑い飛ばした。


「ここにいるのは戦闘要員じゃないメンバーだけだ。戦えるやつらは騎士だったり兵士だったり、そうでなくても食料確保のため街の外に出ている」


 そうなのか、それなら少しだけ安心だ。


「全部で何人ぐらいいるの?」

「……百を少し超える程度はいる。ただ俺らも数に入れてだけどな。お前らはこの街の人間か? 初めて見る顔だと思うんだが」

「いや、俺たちはアルバネル王国から来た冒険者だ。色々と事情があってエルネストの手助けをすることになった。帝国の人間じゃないし、裏切ることはないから安心してくれ」


 どこまで話をするか悩みながら信頼を得るために必要な部分を上手く説明すると、部屋の中にいた人たちの表情が少し緩んだ。やっぱり帝国の人間じゃないって部分が大切なんだな。


「別の国の人間が助けてくれるのはありがたいな」

「冒険者って、何級なんだ?」

「え、冒険者の等級を知ってるの?」


 若い男性の問いかけにレベッカが不思議な表情で首を傾げると、男性は苦笑しながら頷いた。


「俺は元々この国で冒険者をやってたからな。国がおかしくなるにつれてほとんどの冒険者は国を出たが、俺はちょうど足を怪我して上手く動けず、ここに留まるしかなかったんだ」

「そうだったんだ……私は三級だよ。リュカは一級」

「……はぁ!?」


 一級という言葉に男性が立ち上がって大きな声を出すと、他の人たちが怪訝そうな表情で口を開く。


「一級というのはそんなに驚くことなのか?」

「い、一級は冒険者の頂点だぞ! 世界中で数人しかいない! なんでこの国はこんな常識も伝わらないようになったんだか……」


 男性がもどかしそうに眉間に皺を寄せて、大きく息を吐き出しながら椅子に座り直した。


「ギルドに関わってたやつらは誰も残ってないから仕方がないか……一級はな、普通ならありえないほどに強大な力を持つ者にしか与えられない等級だ。エルネストさんより強いぞ。それも何倍も強いはずだ」


 エルネストよりも強いという言葉で、身近な例えが分かりやすかったのか他の人たちの顔にも驚きが浮かんだ。


「……それは本当か?」

「もちろんだ。何か凄い功績もあるんじゃないか?」

「そうだね……リュカはスタンピード中のダンジョンに入ってダンジョンコアを破壊したり、アースドラゴンを倒したり、メタルリザードを倒したりしてるよ。最近はこの街の周辺にいるブラックベア、ファイヤーウルフ、オークを何体も倒してるし」

「それはレベッカも一緒にだけどな」


 レベッカの言葉に苦笑を浮かべながら付け足したけど、皆が俺に向ける衝撃と尊敬の眼差しは変わらなかった。


「も、もしかしてめっちゃ心強い味方なのか?」

「一級なんだから当然だろ! 心強いどころか一人いるだけで作戦が成功するレベルの人材だ」

「マジかよ!」

 

 それから俺とレベッカは大歓迎されて、今までの活動や皆の生い立ちなど色々な話を聞いた。そしてエルネストが来るまではここで待つことにして、夜は空いていた部屋を借りて眠りに落ちた。





〜あとがき〜

書籍化に際してタイトルを変更しましたので、お知らせさせていただきます。

新タイトルは「女神の代行者となった少年、盤上の王となる」です。

かなりカッコ良いタイトルで、私はかなり気に入っています。これからはこちらで覚えていただけたら嬉しいです。


そして書籍版のことについて色々と近況ノートで報告させていただいていますので、ぜひこちらもお読みいただけたら嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/users/aoi_misa/news/16817330659146581828


よろしくお願いいたします。


蒼井美紗

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