第69話 有力な情報

 レベッカと顔を見合わせて合図し合い、二人で少し前を歩く若い騎士二人に近づいた。そしてさりげなく話を振ってみる。


「森の中を歩くのって意外と大変だな」


 まずは当たり障りのない内容にしてみると、二人の騎士は予想以上に好意的な表情でこちらを振り返ってくれた。


「この森は人がほとんど入らないからな」

「獣道もないし、迷ったら終わりだ」

「冒険者はこういう道を歩くのに慣れてるんじゃないのか?」

「そうだな……まあ騎士よりは慣れてるだろうけど、ここまで深い森の中を手探りで進むことは滅多にない。――そういえば少し聞いたが、騎士は大変だな。責任を取らされてどうなるか分からないって……」


 さりげなく帝国の上層部が絡む話を振ってみると、二人はあからさまに顔を歪めた。


「……酷い話だよな」

「確かに俺たちに過失はあるけどよ、上の気分次第で処分が決まるんだぜ? 二人もこんな国に来ることになって災難だな」

「おい、そういうことを言うなって」

「別に大丈夫だろ。このぐらい。それにこの二人は帝国の人間じゃない」


 ――もしかして、この二人は帝国への不満を溜め込んでるんじゃないだろうか。


 そういう人の方が話してくれやすいだろうし、当たりかもしれない。


「正直に言うと、この国はちょっとヤバいと思う」


 二人に寄り添うような意見を小声で伝えてみると、二人の騎士は顔を見合わせてから俺とレベッカに顔を近づけた。


「だよな? 騎士の中には好き放題できて最高だってやつらも多いんだが、俺はそうは思えない」

「こんな歪な国が長続きするわけないよな」

「……なんでこんなことになったの?」


 レベッカのその質問に二人は少し黙り込み、周囲を気にしながら口を開いた。


「これは噂なんだが、宰相補佐がヤバいらしいぞ」

「セザール様って言うんだけどな、宰相を操ってるのはその人だって噂なんだ」

「……国王も操られてるのか?」

「さあな。俺たちに詳しいことは分からないが、国王が目先の快楽しか考えられないって話は聞く」


 今の話は、確実に重要な情報だろう。この二人は逃しちゃダメだ。この国に来てから初めて中枢を知って話してくれる人に出会えた。


「その人をどうにかできないの? この国の人たちが可哀想で」

「…………」

「どうにかしようとしてる人たちがいるのか?」


 微妙な間が何かを知ってることを示しているようで、俺は二人にさらに顔を近づけた。


「俺たちはこの国の人間じゃないから大丈夫だ。どちらかといえば、アンリエット様を無理やり娶ろうとしてこんな事態を引き起こした帝国上層部は嫌いだから。もし何かできるなら力になりたいと思ってる。……この数日で街の人達に知り合いもできたからな」

「小さな子供たちもたくさん苦しんでいて、どうにかできるのなら協力したいの」

「俺たちなら役に立てるはずだ。戦いの強さになら自信がある」


 そこまで話を聞いた二人は、さらに慎重を期すように隊列を見つめ、かなり距離が離れていることを確認してから口を開いた。


「……今夜の野営でさりげなく抜け出してくれ。そこで話をする」

「分かった。今夜だな」


 今夜の話は大切なものになるだろう。そんな予感に少し緊張しつつ、隊列に追いつくように足を早めた二人に着いて行った。


『セレミース様、今お時間ありますか?』

『ええ、大丈夫よ』


 森の中を歩きながら、さっき得た重要な情報をセレミース様に伝えるために声を掛けた。


『実はさっき騎士二人から情報を得ることができたのですが、セザールという名前の宰相補佐が怪しいと思います』

『セザール……今まで監視したことのない人物だわ。探し出してしばらく監視してみるわね』

『よろしくお願いします。宰相はその宰相補佐に操られているという話があるみたいです。もしかしたら国王も』

『ということは、宰相補佐の中でも二人に近い人物ね』


 宰相補佐って何人もいるのか。それだとすぐに人物の特定はできないかもしれないな。


『何か分かったら連絡するわ』

『ありがとうございます。連絡待っています』


 それからはたまにセレミース様と話をしつつ、無駄口は叩かず隊列に付いていった。辺りが暗くなり始めて隊列が止まったのは、小川のほとりだ。


「今日はここで野営とする。各自準備をするように」


 エルネストのその言葉に騎士たちが各々準備を始めたのを横目に、俺たちも端でひっそりと夕食の準備をした。

 そして夕食を終えて他の騎士たちが寛ぎ始めたのを見て、そっと二人でその場から離れる。


「おい、こっちだ」


 騎士たちの姿が見えない場所まで来たところで、昼間の騎士の一人に声をかけられた。


「気づかれないよう静かにしてくれ」

「分かった」


 森の中に入っていく騎士に着いていくと、騎士が足を止めた場所にいたのは昼間のもう一人の騎士と――まさかのエルネストだった。

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