第70話 希望の勢力
これはどういうことだろう。エルネストもこの国をどうにかしたいと思ってるのか、それとも二人は俺たちの動きを察知して派遣されたスパイのようなもので、帝国に反逆の意思ありと捕らえられるのか。
「エルネスト様、連れてきました」
緊張しながらいつでも逃げられるようにと体に力を入れていると、エルネストが俺たちに一歩近づき口を開いた。
「この国を正す手助けをしてくれるというのは本当か?」
「……本当だ。お前たちは……」
「上層部の暴走に危機感を抱き、国を正そうと集まっている」
エルネストのその言葉に、体から力が抜けた。
「この国にもそういう存在がいて良かった。もうそんな人たちもいないんじゃないかと思っていたんだ」
思わず本音を呟くと、エルネストは眉間に皺を寄せて溜息をついた。
「この国の現状ではそう思われても仕方がないな。自由に動ける者が少なく、俺たちも人手が足りていないんだ」
「正直リスクを取ってでも仲間を増やしたいのが現状だ」
他国の冒険者である俺たちを仲間に加えようと思うぐらいだもんな……かなりギリギリなのだろう。
「これから何をしようとしてるの?」
「……最終目標は上層部の一層だ。武力によってな」
「クーデターということか?」
「ああ、この国を正すにはそれしかないだろう」
確かにここまで崩れた国を穏便に正すのは無理だろう。少なくとも現在の上は一掃しなければいけない。しかしそれだけでは難しく、その後がさらに大変になる。
誰かが国のトップに立ち、通貨も使えなくなっているこの国をまとめ上げないといけないのだ。
今まではその役割を誰に任せるのか悩みの種だったが、クーデターを企む勢力がいるのなら話が一気に楽になる。
「エルネスト、俺たちにクーデターの手助けをさせてほしい」
そうすれば上層部を倒した後に国の立て直しは比較的任せられるはずだし、俺たちが単独で動くよりもいい結果になるはずだ。
セレミース様からの帝国を正常に戻してほしいという願い、これを一番いい形で叶えられるだろう。
そう思いながらエルネストの瞳をじっと見つめると、エルネストは俺をしばらく見返して、僅かに困惑の様子を見せた。
「……本当に良いのか? お前たちはこの国に家族がいるわけでもないはずだ。クーデターは命懸けだぞ? しかもかなり無謀な賭けになるかもしれない」
まあ、そこは不思議に思うか。俺だってエルネストの立場だったら、何か裏があるんじゃないかと訝しむだろう。
「それでもいい。この国の現状と生活の苦しさを知ってしまったら、見て見ぬ振りをすることはできないからな。それにこの国をこのまま放っておいたら、アルバネル王国まで危なそうだ」
「もうこの国に知り合いもできたから、このまま見捨てられないの」
「……それから、俺たちが加われば無謀な賭けじゃなくなる」
俺たちの最初の言葉ではエルネストの表情が変わらなかったので最後の言葉を付け足すと、エルネストは途端に楽しそうな笑みを浮かべた。
「随分な自信だな」
「一級冒険者だからな。世界に俺を入れて六人しかいない冒険者の頂点だ。スタンピード中のダンジョンに入って、ダンジョンコアの破壊をしたこともある」
俺の実力を少しでも分かってもらおうと思ってわざと自慢げに話をすると、三人は瞳を見開いて顔を驚愕に染めた。
「スタンピード中のダンジョンに入って、ダンジョンコアの破壊……」
やっぱり肩書よりも分かりやすい実績の方が伝わるみたいだ。三人はしばらく呆然としてから、俺を見る瞳を期待のこもったものに変えた。
「手助けをしてくれるならば、とてもありがたい。頼んでも良いか?」
「もちろんだ」
「私もだよ」
「ありがとう。……ただ一つだけ約束してくれ。お前たちは帝国の人間ではないからあまり心配はしていないが、絶対に裏切りだけはしないでほしい。向こうに何を吹き込まれても、耳を貸す必要はない」
感謝の後に表情を引き締めて伝えられたエルネストの言葉に、俺とレベッカはしっかりと頷いた。
「そんなことは絶対にしない」
「私も。この国の腐った上層部に手を貸すなんてあり得ないよ」
俺たちの言葉を聞いたエルネストは口端を緩め、右手を差し出してくれた。
「これからよろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく」
これでついに帝国を正す方針が決まったな。ここからはセレミース様に調査をしてもらいつつ、エルネストたちの助けに全力を尽くそう。
「クーデターの実行日は決まってるのか?」
「まだ決まっていないが、早いうちにとは思っている。時間が経てば経つほどに犠牲者は増えるからな」
「上を一掃っていうのはどこまでの予定なの?」
「王宮にいる王族と貴族を全てと、クーデターを行った際に王族側に着いた騎士を全ての予定だ」
騎士も全てなのか……でもそうだな、そのぐらいやらないとこの国はもう立て直せないだろう。
「分かった。俺たちもそのつもりでいる。……今のところ勝てる可能性はどれぐらいだ?」
「……それが、難しいんだ。いざクーデターを起こした時に、どれほどの騎士がこちらに寝返ってくれるかが鍵となる」
「じゃあ、現状の戦力差では勝てないってことだね」
レベッカのその言葉に、エルネストと騎士二人は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「……正直、全く勝てる想像はできないな。ただ王宮内部の構造は知っているから、国王を討つことはできるはずだ。ただ国王だけ討っても意味がない。その後に主要な上層部を全て討つとなると、全面闘争になり戦力差が如実に現れるだろう」
ということは、奇襲は成功させられるが交戦になったらほぼ勝てないってことか。
これはかなり戦力差がありそうだな……俺たちが手助けすることもそうだけど、戦略が大切になってくるだろう。
「とりあえず、ここでの話はこのぐらいにしておこう。あまり姿を消していると他の騎士に不自然に思われる。この捜索が終わり帝都に戻ってから、俺たちの拠点に来て欲しい」
「拠点があるのか?」
「ああ、場所は……」
それからは拠点の場所を聞いて、俺たちは二人だけで森の中から他の騎士がいる場所に戻った。しばらくしてエルネストたちもそれぞれ戻ってきて、他の騎士に勘付かれることはなかったようだ。
「あとは帝都に戻ってからだね」
「そうだな。戻るまでは……戦略を考えておこう」
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