第68話 捜索開始

 魔物を倒す生活を始めて数日が経過した。今日もいつものように朝早くにイヴァンさんたちの宿を出て門に向かうと、門の様子がいつもとは違った。


「なんだか騒がしいね」

「何かあったのかもしれないな。早く行こう」


 魔物がいたりしたら大変だと駆け足で向かうと、門番たちは街の外というよりも、門の中に意識を集中させているようだ。魔物じゃなくて門の中で問題が起きてるのか……


 そんなことを考えつつ顔見知りとなった門番に声をかけると、チラッと見えた門の中に見知った顔があった。


「エルネスト」


 思わず声をかけると、エルネストがこちらに視線を向けて門から出てくる。この騒動は突然騎士が訪ねてきたことによるものだったみたいだ。


「やっと来たな。リュカ、レベッカ、明日の早朝にアンリエット様の捜索に向かうこととなった。馬はこちらで準備するが、それ以外の準備は各自で行なってくれ」

「明日の早朝か……分かった。それにしても、直接伝えに来てくれたんだな」

「時間が空いていたのだ。では、頼んだぞ」


 エルネストはそれだけを伝えると、近くに置いてあった馬に乗って去っていった。門番たちはそんなエルネストを仰々しく見送っている。


「レベッカ、今日はどうする?」

「そうだね……準備といってもやることはないし、いつも通りでいいんじゃない?」

「確かにそうだな。じゃあ行こう。……街の外に出てもいいか?」


 未だにエルネストが去っていった方向に頭を下げている門番に声をかけると、俺たちが本当にエルネストと知り合いだということを目の当たりにしたからか、いつもより低姿勢で街の外に送り出してもらえた。


 そしてその日は今まで通り魔物討伐を済ませ、少し早めに宿に戻ってしっかりと休息をとった。


 

 次の日の早朝。俺たちは久しぶりに騎士たちと合流していた。パッと見た限りでは人数が減っている様子はないが、騎士たちの顔色は相変わらずだ。


「二人の馬はこの二頭だ」


 エルネストが示してくれた馬に向かい、馬との交流を図りながらエルネストに声を掛ける。


「ありがとう。捜索の日程は?」

「二週間以内に帰還しなければならないので、現場まで三日で向かい、そこから捜索に一週間。帰還に三日だ」

「……見つからなかった場合はどうなるんだ?」


 これを聞いてもいいのか躊躇いながら小声で問いかけると、エルネストは僅かに眉間に皺を寄せて口を開いた。


「その場合はアンリエット王女は諦めるとのことだ。二人には申し訳ないのだが……」

「そうか……それは仕方がない。騎士たちはどうなる?」

「まだ分からないな。とにかくまずは捜索をしてからということになった。見つからなかった、あるいは亡くなってしまっていた場合……あまり考えたくはないな」


 ということは、まだ騎士たちの命の危機は去ってないんだな。アンがこの国にとってそこまで軽い存在じゃなかったことを喜べばいいのか、騎士たちに話を聞きづらいことを嘆けばいいのか分からない。


 エルネストは落ち着いているようだし、この道中はエルネストを中心に話を聞くことにするかな……


「準備は良いか?」

「ああ、いつでも行ける」

「分かった。では出発だ」


 それからはひたすら馬を走らせて、何度か小休憩を挟みつつ夜まで走り続けた。暗くなったところで野営をすることになり、今はその準備をしているところだ。


「近くに川があるから自由に使ってくれ」

「分かった。馬は繋いでおけばいいのか?」

「いや、こいつらは訓練されているから繋がなくとも遠くにはいかない」


 エルネストが俺たちの下を去ると、他の騎士は近づいてこないので一気に静かになった。食事も各自済ませることになっているので、騎士たちの間でも会話はあまりなく暗い雰囲気だ。


 帝都に向かってた数日もこんな感じだったんだよな……この雰囲気で二週間も過ごすのはかなり辛い。


「リュカ、騎士たちに話を聞けそうにないよね?」


 レベッカが小声で聞いてきた言葉に頷くと、レベッカは騎士たちをぐるりと見回してから眉間に皺を寄せた。


「誰もがピリピリしてるね」

「やっぱりエルネストに聞くしかないと思う。帝国の内情を少しは知ってそうだし。……ただ世間話として振るにしても、何か裏があることを勘付かれそうなんだよな」

「分かる。かなり優秀そうな人だよね。もう少し話しやすそうな人で、私たちに好意的な人がいたらいいんだけど」

「とりあえず、最初の数日は改めて人間観察だな」


 そんな話をしながらその日の夜は過ごし、次の日も同じように馬を走らせ、三日目は馬を降りて山の中を歩いて進むことになった。

 捜索のために持ってきた靴につけるスパイクや、崖を探るためのスティックなどをそれぞれ装備し準備を整える。


「この先は危険だから慎重に行くぞ。隊列を乱さないように」

「分かりました」


 俺たちは一番最後尾で、近くにいるのはかなり若い騎士が二人だ。二人とも他の騎士よりも血色が良く、暗い雰囲気が薄いので目を付けていた人物だ。


 ちょうどいい機会だし、話しかけてみるか……

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