第67話 討伐の続き

「レベッカ、ありがとう」


 ブラックベアが確実に息絶えたことを確認してから、レベッカを振り返って声をかけた。


「リュカもお疲れ。私たちにとってはそこまで強くないけど、普通の人が戦うことを考えたら……生き残ったら奇跡だよね」

「そうだな……こんな魔物がいる森に戦う術を持たない人たちが入ることを考えたら、悲惨な様子しか浮かばない」


 俺たちが想像している以上に、森での犠牲者は多いのだろう。


「できる限り強い魔物を倒していこう」


 それしかできないと思って口にすると、レベッカも真剣な表情で頷いてくれた。


 それからブラックベアを神域に運んで森に戻ると、またすぐに魔物と遭遇した。今度目の前に現れたのは、まさかのオークだ。


「……オークって、ダンジョン外ではほとんど目撃されない魔物だったよね?」

「そのはずだから、どこかに放置されてるダンジョンがあるんだろうな」


 普通なら騎士や兵士、冒険者が定期的に森の中も見回りをするが、この国では明らかにそんなことはされていないだろう。

 放置されて魔物がダンジョン内に増え、外に出てきてるとすると……そのダンジョンも潰しておきたいな。


『セレミース様、今お時間ありますか?』

『ええ、何かしら?』

『帝都周辺にあるダンジョンの場所を教えて欲しいです。潰して回ろうと思いまして』

『分かったわ。探しておくわね』

『ありがとうございます』


 オークから視線は外さずにセレミース様と会話をしていたが、オークはこちらを警戒して襲ってこないようだ。初めて戦うけど、思っていたよりも警戒心が強い魔物なんだな。


「こっちから仕掛ける?」

「そうしよう。オークは脂肪が厚くて物理攻撃はあまり効かないらしいから、魔法で倒してみる」

「分かった。いつでも援護できるようにしておくね。確かオークは風魔法が使えるから気をつけて」


 レベッカと軽く打ち合わせをしてから、オークに向かって一気に距離を詰めた。オークがこちらに意識を集中させたところで、しっかりと魔力を込めた魔法を連続で放つ。


「ウォーター! スパーク!」


 スパークはサンダーボールの威力を一点に凝縮させた魔法だ。ウォーターによってずぶ濡れになったところに電撃を放たれたオークは、全身を痙攣させてからその場に倒れ込んだ。


「おおっ、凄いね。絶命してる?」

「……まだ生きてるかも。とりあえず首を落としとくか」


 剣で首元を一閃。頭と胴体が切り離されたオークは、完全に息絶えた。


「じゃあオークを神域に……」

「リュカ、後ろ!!」


 オークに近づこうとした瞬間にレベッカが弓を構えながら叫んだので、俺はほぼ無意識で腰に刺さっている剣を抜いて後ろを振り返った。


 すると間一髪、俺を襲ってきていた魔物を吹き飛ばすことに成功する。


「……危なかった」


 今度の魔物はファイヤーウルフだ。五匹の群れのようで、唸り声を上げながらこちらを睨みつけている。


「ウォータートルネード!」


 火魔法を使う魔物なので咄嗟に水の竜巻で攻撃し、それによって弱ったところに剣を抜いて飛び込んだ。


「グルルゥゥガウッ!!」


 ファイヤーウルフは牙を剥いて飛び掛かってくるが、上手く避けて剣を振るう。俺が三匹を倒すうちにレベッカが二匹に矢を命中させ、五匹のファイヤーウルフは全員倒れた。


「ふぅ、倒せたな。レベッカ、ありがとう。助かった」

「うん。かなり魔物の数が多いから油断しないようにしよう」

「そうだな。気をつける」


 それからも俺たちは森の中を動き回り、途中で遭遇したスモールボアという弱い魔物だけを残して魔物を端から討伐した。

 さらにセレミース様から教えてもらったダンジョンの一つを破壊に向かい、それが終わった時にはもう日が暮れ始めていた。


「今日はここまでにするか」

「そうだね。まだあと二つダンジョンがあるし、魔物もたくさんいるけど……」

「それは明日以降だな」


 ただ毎日頑張ったとしても、さすがに二人だけではできることも限られてくる。やっぱりこの国をどうにかしないと、根本的な解決にはならないな。


「神域で今日倒した魔物の肉をできる限り解体して鞄に詰めて、イヴァンさんのところに戻ろう」

「森で取れる果物も持っていこうか」

「そうだな。じゃあレベッカ、手を」


 レベッカと手を繋いで周囲を確認してから、神域干渉を発動させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る