第66話 魔物討伐
それから時間をかけて街中を散策した結果、この街に正常な部分は残っていないということが分かった。
スラムのようになっている街と、上層部のため強制的に働かされている人たちがいる場所、それから上層部のやつらが暮らしている場所。その三つしかない。
「リュカ、この街にアンが来ても大丈夫だと思う?」
魔物討伐に向かおうと街の外門に向かいながら、レベッカがポツリと呟いた。
「……俺たちがいない時に来たら危ないかもしれないな」
二日間この街を歩いただけで、一般的に弱い立場の女性がどれほど絡まれるのかいやでも実感した。一人で街に入るのは避けるべきだろう。
「やっぱりそうだよね? 私たちが捜索から帰ってくるまで、街には来ないようにしてもらおうか」
「そうだな。セレミース様に頼んで、ミローラ様を通してアンに伝えてもらう」
「よろしくね」
そんな話をしているとすぐ外門に辿り着き、街の外に出る前に門番に声をかけた。
「すみません。エルネストという名前の騎士から伝言は届いていませんか?」
すると門番は俺たちの顔を覚えていたようで、恐怖からなのか顔を引き攣らせながら口を開く。
「き、来ておりません……」
「分かりました。ありがとうございます。これから毎日聞きにきますので、よろしくお願いします」
あまりにも門番が怯えている様子だったので、足早に門を通って街の外に出た。
「騎士と一緒に街に入ったってだけで、あんなに怖がられるんだね」
「それほどに騎士が怖い存在ってことだよな」
普通の国で騎士団は国民を守ってくれる存在なのに、兵士でさえあんなに怖がってるなんて、もう騎士と言ってはいけない気がする。
騎士が力を振るって弱い者を好きなように支配してるとしたら、もうそれはただの賊だ。
「この国、どこから正していけばいいか分からないね」
「そうだな……上層部を武力で制圧して一新するのが一番早いだろうけど、どれほどの人数がいるのか分からないのが怖いな」
諸悪の根源であるこの状況を作り出した人物を特定できればいいけど、そもそもそんな人物がいるのかどうかも定かではない。
普通なら国王だろうが、セレミース様が国王のことを監視してないってことはないだろうし……国王はただ操られているという可能性も高そうだ。
「とりあえず、魔物を端から倒して少しでも街の人たちが生き残れるようにするか」
「そうだね」
ここで考えていても結論は出ないので、とにかく今できることに全力を向けよう。
「まずは街の近くから?」
「そうだな。ただ街の人たちが食料を狩りに来て何もいないって状況にはしたくないから、弱い魔物は残したい。この街の周辺にいる弱い魔物って何だろう……」
街までの道中は騎士たちが魔物を倒していたし、そもそも馬に乗って駆けていたので魔物に襲われることがほとんどなく、この辺の魔物分布をあまり把握していないのだ。
王国にはあまりいなくて帝国にいる魔物については学んできたけど、それがどの辺に生息しているのかまでは覚えていない。
「やっぱりホーンラビット?」
「いや、ホーンラビットは帝都周辺にはあまりいないんじゃなかったか?」
「そうだっけ。それだと……よく覚えてないね。とりあえず森に入ってみようか。それで戦ってみて、街の人たちでも倒せそうなら残しておこう」
「確かにそれが一番だな」
俺たちはとりあえずの方針を決めて、街のすぐ近くにある森の中に足を踏み入れた。
冒険者がいないからか、森に入ってすぐに魔物と遭遇する。街の近くでこの遭遇率はかなり危険だ。
「あの魔物って……ブラックベアだよね」
「ああ、こんな街の近くにいるような魔物じゃないんだが」
街周辺に天敵である人間がいなくなると、こうして普通なら森の奥にいるような強い魔物も生息するようになるのだろうか。
この森で街の人たちが狩りをするのは、さすがに危なすぎる気がする。
「リュカ、私は目を狙うね」
「分かった。あいつは闇魔法が使えるから気をつけて」
こちらを睨みつけてくるブラックベアから目を逸らさずに剣を抜くと、俺が剣を抜いた瞬間にブラックベアは雄叫びを上げて地面を蹴った。
予想以上に素早い速度に一瞬驚くが、すぐに手に力を入れ直して巨体の突進を受け流す。
「グルゥァァアア!」
近くの木に激突したブラックベアは、激突の衝撃はものともせず俺に向かって鋭い爪を振り下ろしてきた。今度はその攻撃を剣で受け止め、ブラックベアの腹目掛けて近距離からアイススピアを打ち込む。
しかしあまり魔力を込める時間がなかったアイススピアは、浅く刺さっただけで仕留めるところまではいかなかった。
ブラックベアはよろめきながらも何とか二足で踏ん張り、宙に黒い矢を二本作り出す。闇魔法のブラックアローだろう。
魔法を打ち消すように俺がファイヤーボールを放つと、その隙にレベッカがブラックベアの瞳を矢で正確に打ち抜き、ブラックベアは地面に倒れて絶命した。
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