第64話 美味しいご飯

「お母さん! すっごく美味しそうだよ!!」


 俺たちの間に暗い雰囲気が漂っていたところに、子供の明るい声が響いた。それによって暗い雰囲気がどこかに吹き飛んでいく。


「あらあら、良かったわね。じゃあご飯にしましょうか」


 ロザリーさんは嬉しそうな子供たちの様子に優しい笑みを浮かべ、椅子から立ち上がった。


「お二人はここで待っていてね。食事を用意するわ」

「あっ、私たちも手伝います」

「いいえ、大丈夫よ。あんなにたくさんの食材を貰ってしまったのだから、少しは恩返しをしないと」


 そう言われたら頷くしかなく、俺たちは「ありがとうございます」と伝えて椅子に座り直した。そして少し待っていると、すぐに大きなお皿を持ったロザリーさんが厨房から戻ってきた。

 お皿からはとてもいい香りが漂っていて、思わずお腹が鳴ってしまう。


「どうぞ。好きなだけ食べてね」


 大皿に乗っているのは、俺たちが渡した肉と野菜がいくつかの香草で焼かれているものだった。


「見てみて、こっちはスープだよ!」


 次に運ばれてきたのは、野菜がたくさん煮込まれたスープだ。赤い色をしているから、こっちには香辛料が使われているのかもしれない。


「香草や香辛料はもともと庭で栽培していたからたくさんあるんだ。足りないものも多いけど、今できる最高の料理になったと思う。たくさん食べてくれ」


 イヴァンさんがスプーンを渡してくれながらそう言って満面の笑みを浮かべたので、俺たちは遠慮せずありがたくいただくことにした。


 炒め物から口にすると、油が少ないからかさっぱりとした味付けだけど、香草がとても合っていて美味しい。アルバネル王国にはあまりなかった味付けだ。


「すっごく美味しいね!」

「こんなに大きな肉、久しぶりに食べた!」


 子供たちは大喜びで口いっぱいに頬張っている。


「そんなに詰め込むと危ないわよ。たくさんあるのだから落ち着いて食べなさい」

「はーい!」

「やはり油が足りないな……それにパンが欲しくなる」

「ふふっ、欲張りなんだから」


 イヴァンさんが呟いた言葉に、子供たちもパンの大合唱だ。やっぱりこの国でもパンを食べるんだな。


「穀物は手に入らないのですか?」


 レベッカが聞いた質問に、イヴァンさんが少しだけ寂しそうに頷いた。


「穀物は基本的に手に入らない。特に麦は上が好んで食べるから尚更だ。米や豆はしばらく手に入っていたんだが、それももうなくなってしまったな」

「そうなんですね……」


 パンや米料理はいくつか神域にあるけど、さすがにそれを取り出して渡したら不自然だよな。それに一度食べられてしまうと、今までよりもっと穀物が欲しくなってしまうだろう。


 やっぱり根本的にこの国の問題を解決しないとダメだ。


「あっ、このスープ美味しい」

「そうだろう? 肉がたくさんあったから旨味を出すことができた」

「このスープもっと飲みたい!」

「今日はおかわりもあるぞ?」


 それから俺たちは美味しい食事によって束の間の楽しい時間を過ごした。そして食事が終わったところで皆で片付けを済ませ、少し早いけどベッドに入ることにした。


 明日からは忙しくなることが予想されるので、しっかりと疲れを癒しておかないといけない。


「しばらく使っていないから、布団が埃っぽかったらごめんなさい。さっき掃除はしたのだけれど」

「ありがとうございます。ベッドを借りられるだけありがたいので、気にしないでください。それにとても綺麗です」


 実際に部屋は清潔に保たれていた。布団などを干していないとしても、部屋の掃除は頻繁にやっていたのだろう。


「じゃあリュカ、また明日ね」

「うん。また明日」


 レベッカと部屋の前で別れた俺は、寝る準備をしてさっそくベッドに腰掛けた。そして横になる前に、セレミース様に声をかける。


『セレミース様、下界を見ていますか?』

『ええ、ずっと見ていたわ。帝国はやはりとても酷い状況ね』

『はい。……正直驚きました。これはどうにかしないとダメですね』

『大変なことを頼んでしまってごめんなさい。私もできる限りサポートするわ』

『ありがとうございます。そういえば、まだこの状況を作り出した元凶は分かりませんか?』

『それが……難しいのよ。帝国の上層部は好き放題やっているだけで、あまり今後についての会議なども開かれなくて。そういうものが開かれて何か分かったならばすぐに伝えるわ』


 会議も開かれないって、上層部は何がやりたいんだろうか。この現状で好き放題やってられるって凄いよな……全く心が傷んでいないのなら、同じ人間だとは思えない。


『よろしくお願いします。明日からは街を見て回って、街に住む人たちのために魔物討伐などをしようと思います』

『分かったわ。頼んだわね』


 セレミース様との話を終えると、ベッドに横になってすぐ眠りに落ちた。

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