第62話 泊まる場所

 剣を仕舞ってから残った男たちに質問をしようと思って一歩近づくと、全員がビクッと俺を恐れるような反応を見せた。


「聞きたいことがあるんだが、質問に答えてもらってもいいか?」

「な、なんでも答えます!」

「じゃあまず、冒険者ギルドについて教えてほしい。ギルドは機能してないみたいだったが、冒険者はどこに行ったんだ?」

「ぼ、冒険者は他国に行ったり、街に残ってるやつらは個人で仕事を受けたりしてる」


 個人で仕事を受けてるか……絶対にあり得ないような対価を要求してるやつらがいるんだろうな。


「冒険者がいなければ魔物の被害が増えるだろうし、魔物の肉も手に入らないよな。食料はどうなってるんだ?」

「しょ、食料はどこかから奪わない限り手に入らねぇ。もう店なんてないし、奪うか自分で狩ってくるかだ」


 マジか……聞けば聞くほど街の状況が酷すぎる。この国の上層部は何がしたいんだ? セレミース様は戦争を起こすことを考えてるって言ってたけど、戦争を起こす前に国が滅ぶんじゃないだろうか。


「農家とか畜産に従事してる人はどうしたの?」


 レベッカが口を開くと、男たちはビクッと体を震わせてから口を開いた。


「う、上のやつらの食料を作らされてるって話だ。俺たちには回ってこねぇ」


 要するに、この国の上層部は自分たちが生きていくのに必要なだけの平民を残して、後はいらないって考えてるってことか?


「帝国ってこんなにヤバかったんだ……」

「もう国として成り立ってないレベルだな」


 俺に視線を向けたレベッカは困惑顔だ。ここまで酷いと、どうしたらいいのか途方に暮れる。


「宿は……ないよな」

「こんな状態で経営してるわけないよね」

「これからどうするか」


 最悪は神域で寝るのでもいいけど、できる限り不審に思われないように寝る場所を探したい。空き家を勝手に使うこともできるだろうけど……それはできれば避けたいよな。


「リュカ、どこかの民家にお世話になる? 食材を提供すれば泊めてもらえないかな?」

「確かにそれありかも」

「だよね。人がまだ残ってる地域って分かる?」

「あ、ああ、路地を奥に入ったところにたくさんいる」

「分かった。ありがと」


 そこで男たちから聞きたいことは全て聞けたので、俺とレベッカは男たちをそのままにしてその場を離れた。そして街の様子を眺めながら歩くこと十分ほど。大通りから路地を奥に入ったところで、一軒の宿屋を発見する。


「経営はしてなさそうだけど、人がいるなら泊めてもらえないかな」

「確かに可能性はあるかも」

「声を掛けてみるか」

 

 外からは人の気配を感じられなかったけどドアをノックすると、中で人が動いたような物音が一瞬聞こえた。


「あの、すみません。俺たち冒険者なんですけど、この国がこんな状況だって知らずにこの街に来て、泊まる場所がなくて困ってるんです。食料とかを提供できるので、もしよければベッドを貸していただけませんか?」


 怖がらせないようにと丁寧に声をかけたけど、沈黙が返ってくるだけで返答はない。


「レベッカ、女性の声の方がいいかも」

「確かに。あの、すみません。この国の騎士とかではないので、開けてもらえないでしょうか? お肉やお野菜など色々とありますので。アルバネル王国から来た冒険者です。私はレベッカと言います」

「俺はリュカです」


 それからしばらく待っていると、レベッカが声をかけたのが良かったのか、ドアが僅かに開いた。そして俺たちの顔と格好を見て、ホッとしたのか中に招き入れてくれる。


 中にいたのは大人が二人に子供が三人だ。五人家族なのだろう。小さい子供はまだ五、六歳に見える幼さだ。


「警戒して悪かった」


 男性がまだ完全には警戒を解かずにそう声をかけてくれて、俺たちは安心してもらうためにも武器を下ろして近くに置いた。


「こちらこそ怖がらせてしまってすみません。武器は外しますね」

「ああ、そうしてもらえるとありがたい」

「……それで、泊まる場所がないんだったかしら?」

「そうなんです。アルバネル王国から護衛依頼できたのですが、まさか宿がないとは思わず……お肉や野菜など色々とありますので、しばらく泊めていただけないでしょうか? あっ、お金もあります」


 ここに来る前に神域で鞄に入るだけ詰め込んだ食料を取り出すと、父親と母親だろう男女の表情が一気に変わった。


「こ、こんなに食料が」

「全て新鮮だわ……」

「私たちは冒険者なので、街の外に行って追加で魔物を討伐してくることもできます。これは全て差し上げますね」


 レベッカのその言葉に、女性は瞳に涙を浮かべながら何度も頭を下げた。


「ありがとう。本当に、ありがとう。この子たちに碌なものを食べさせてあげられなくて、本当に困っていたの」

「その国の現状ではそうですよね……」

「リュカさんとレベッカさんだったか? 好きなだけ泊まっていってくれ。もてなしはできんが……」

「本当ですか! ありがとうございます」

 

 俺とレベッカはとりあえず泊まる場所は確保できたことで安心し、少し体の力を抜いた。そしてこの国にたくさんいるだろう困っている人たちを助けようと、改めて心に誓った。

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