第60話 帝都に到着
帝都に向けて馬を走らせること数日。俺たちはやっと、帝都の外門を視界に収めることができた。
この数日はとにかく暗く鬱々とした雰囲気の中で過ごしていたので、やっと着いたかと感慨深い。騎士たちはとにかく落ち込んでるか、怒ってるか、嘆いてるか、そういうマイナスな感情ばかりだったからな。
まあ理解はできるのだ。王子様に嫁ぐ予定の護衛対象である隣国の王女を亡くしたかもしれないなんて、国によっては全員処刑でもおかしくないだろう。
そして帝国は、全員処刑も普通にあり得る国だ。
「なあ、やっぱり逃げねぇか……?」
「どこに逃げるってんだよ。国内はどこにいたって見つかるぞ」
「国から出るんだよ」
「……国境を超えられるのか? それに家族はどうするんだよ。お前だけ逃げるのか?」
この数日で何度も聞いた会話がまた聞こえてくる。帝国の騎士たちは好きになれないけど、騎士たちもまた国に囚われてるんだよな……。
「大丈夫だ。俺たちはまだ失敗してない。これから捜索に行くんだからな」
一人の騎士が自分に言い聞かせたその言葉に、全員が縋るような表情を浮かべた。
「アルバネル王国のアンリエット王女を迎えに行った騎士隊だ。緊急事態が起きたため、大至急全員を中に入れてくれ」
門に辿り着くと真面目な騎士が馬上から門番にそう告げた。すると騎士の言葉に門番は慌てた様子で進路を譲り、俺たちは何の確認もなしに街中へ入ることができる。
これじゃあ力が強い人たちは不正し放題だな。門番の反応からして、騎士の身分は少なくとも門番より圧倒的に高そうだ。
「リュカ、レベッカ、俺たちはこのまま報告のため王宮に向かう。二人は部外者となるため王宮に連れて行くことはできない」
「分かった。それは仕方がない。俺たちはどこかに宿でも借りて待っているから、アンリエット様の捜索に出発する時は教えて欲しい」
俺のその言葉に真面目な騎士は素直に頷いてくれて、少しだけ逡巡してから再度口を開いた。
「俺の名はエルネスト。先ほどの門番を通して出発日を伝えよう。俺の名を告げる冒険者が来たら日時を伝えるようにと言っておく」
真面目な騎士はエルネストっていうのか……名前を教えてくれたことが何だか嬉しくて、俺は少しだけ口角を上げた。
この騎士は他の帝国の騎士みたいに他人を見下すような感じもないし、何かが違うんだよな。
「エルネストだな。じゃあ俺たちは頻繁に門に通っておく」
「ああ、そうしてくれ。ではまた」
エルネストとその他の騎士たちは、俺とレベッカが降りた馬も連れて王宮に向かって駆けていった。
その後ろ姿を見送ったところで、やっと騎士と離れられたと体に入っていた力を抜く。ずっと気を張ってるのはやっぱり疲れるのだ。
「これからどうなるかな。報告に行った騎士たちって、戻ってくると思う?」
「……五分五分かな」
何だか複雑な気分でレベッカの質問に答えると、レベッカも微妙な表情でこっちを向いた。
帝国の騎士たちのことは基本的に好きじゃないけど、何日も行動を共にしていたことで、殺されたってどうでもいいとまでは思えなくなってしまった。
「やっぱりそうだよね。……私たちはこれからどうする? とにかく情報収集だと思うけど」
「うーん、まずは冒険者ギルドに行ってみるのかな。正常に機能はしてなさそうだけど、もしかしたら情報ぐらいは得られるかもしれないし」
「確かにそうだね」
これからはとにかく不自然にならないように、帝国がおかしくなった原因を探らないといけない。騎士たちとアンの捜索に行くまではこの街にいる理由もあるけど、それが終わったら長期滞在してるのは変に思われるかもしれないからな……できれば短期で解決したい。
そう考えると、成り行きでアンの捜索をすることになったのは幸運だったかも。
まあなんにせよ、まずはこの国の実情を探らないとだ。騎士たちが帰ってきたら、アンの捜索に向かいながら騎士に探りを入れるのもありかもしれないな。
この数日はあまりにも騎士たちに余裕がなくて、話しかけられる雰囲気じゃなかったのだ。
「ギルドってどこにあるんだろう。というか……予想以上に街が荒れてるというか、どんよりとした雰囲気だよね。宿ってあるのかな?」
レベッカのその言葉に周囲をぐるりと見回すと、地面は凸凹と荒れていて、建物は崩れているものやドアが破壊されているものがたくさんある。
道路にはゴミのようなものが散らばり、地面に座り込んでる人も散見された。
「宿が機能してない可能性もあるかも」
というか、この街ってお金は使えるんだろうか。一応事前情報ではアルバネル王国の通貨がそのまま使えるって話だったけど、見た限りお店のようなものはない。
確かによく考えたら、力が全ての国は商売が成り立たないよな……売っているものを盗むのだって、その人が強ければ許されてしまうのだから。
商品を並べていたりしたら、どうぞ盗んでくださいと言ってるようなものだ。
「とにかく冒険者ギルドに行ってみよう。さっきの門番に場所を聞くか」
予想以上にヤバそうな帝国の様子に戸惑いながらも、俺たちはギルドに向かって足を進めた。
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