第57話 今後の予定
隊列に戻ってメタルリザードを難なく倒すと、騎士たちに信じられないものを見る視線を向けられた。
こんな瞳で見られるってことは、俺はもっと弱いと思われてたんだよな……帝国で冒険者の等級が全く伝わらないというのは本当みたいだ。
「リュカ、ありがとう」
「ううん、遅れてごめん。ただアンリエット様が……」
レベッカが俺の下にやってきたところで、俺たちは二人で崖下を覗き込んだ。そしてその隙に、レベッカにアンは無事だと小声で伝える。
さっきセレミース様から連絡が来たのだ。アンは無事に馬車が落ちる前に神域に逃げられたと。
「そっか、良かった」
本当に小さな声でレベッカはそう呟き、しかしすぐに悲しそうな、途方に暮れたような顔を作り出す。
「これから、どうしようか……」
レベッカが騎士達にも聞こえるように発したその言葉の後に、一人の騎士が青白い顔を赤く染め上げて俺に鋭い視線を向けた。
「お、お前が腹痛なんかでいなくなってたから悪いんだ! お前がいたらこんなことにはならなかった!」
「……確かにそうかもしれないが、基本的にアンリエット様の護衛は帝国の騎士の担当だったはずだ。俺らは最後尾に追いやられていたし、いたとしても間に合ったかどうかは定かじゃない。それよりも馬に乗って素早く移動でき、さらにはよりアンリエット様の近くにいたお前らがなんで助けられないんだ」
騎士を睨みつけながら鋭い言葉を投げつけると、騎士たちは何も言えないのか全員が押し黙った。
「俺ら、殺されるかな」
しかしその言葉で全員に動揺が走る。
「に、任務も完遂できない弱いやつはいらないって、酷い罰は受けるよな……」
「……確実にな」
「いや! り、隣国の王女なんて、バルタザール殿下が戯れで願った女だろ? 別に他の女でもいいはずだ。ほ、ほら、市井にまだ残ってる綺麗な女を集めて献上すれば」
「そ、そうだな。途中の村からも連れて行くか」
「それにあれだ! あ、あの王女が自殺したことにすればいいんだ」
騎士たちは好き勝手なことを話して、自分たちに咎が及ばないようにと工作を話し合う。俺はその話を聞いて、怒りで全身が震えた。
本当にこいつら、クズだな。アンのことをなんだと思ってるんだ。それに他の女性を集めるとか、この感じじゃ無理矢理やるに決まってる。
女性は一般的に男性よりも純粋な力は劣ることが多いから、実力主義の帝国では地位が低いのだろう。
つくづく帝国という国が嫌いになる。これならセレミース様の願いを叶えるのに躊躇はいらないから、そこだけはありがたいな。
「……俺は正直に話した方がいいと思う。嘘をついて後でバレたら大変なことになるし、その献上した女性が帝国の王子様に不評だったらより怒りを買うかもしれない。余計なことはしない方がいいんじゃないか?」
「私もそう思う。それよりも早く帝都に帰って、準備をしてからアンリエット様の捜索に向かった方がいいよ。生きてる可能性は低くてもゼロじゃないと思う」
騎士たちがどうなろうと興味はないけど、別の女性が被害に遭うのだけは阻止しようと口を出すと、騎士たちは俺たちを一瞬睨みつけるも、強さを思い出したのか口をつぐんだ。
あんまり嬉しいことではないけど、帝国の実力主義は俺にとってやりやすいかもしれないな……実力を見せれば意見が通るなら、偵察も上手くいく可能性が上がりそうだ。
「すぐ帝都に向かうのに賛成だ。王女が生きている場合を考えて、捜索の救援を願いに来たと伝える方がいい」
真面目な騎士が俺たちに同意してくれたことで、このまま帝都に戻る方向性に皆の意見が傾いた。
「こ、このまま捜索は無理だよな?」
「無理に決まってるだろ。こんな深い崖下、どうやって行くか分かるのかよ。装備や道具がなきゃ無理だろ」
「確かに……そうだよな」
「道具を取りに最速で戻ってきましたっていうのが一番かもしれねぇな」
騎士たちの意見が帝都に戻ることで固まったところで、俺たちは暗い雰囲気のまま出発準備を済ませた。
荷物を乗せていた馬車は一つ壊れていたので、中身を入れ替えて馬車を一つにまとめ、余った馬を借りて俺たちも乗る。
「そういえば、お前たちは帝都に行く必要ないんじゃねぇか?」
そろそろ出発だというタイミングで、一人の騎士がそう尋ねてきた。確かに一般的にはそうなんだよな。俺たちの雇い主はギルドでありアンだから、帝国に行ってもどうしようもない。
でも、俺たちには帝国に行く理由がある。
「いや、俺たちもアンリエット様の捜索を手伝う。依頼を受けたんだ、最後までやらないとな」
「そうか……分かった。なら付いてくるといい」
真面目な騎士のその言葉に他の騎士は何も言わず、俺たちは帝都に向かう騎士たちの後に続いた。
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