第46話 生の女神様
生の女神様の神域は、セレミース様の神域とは全く異なっていた。どこまでも広がる草原があるのは同じだけど、そこにある東屋が全く違う。ミローラ様の東屋は……複雑に成長した植物によって作られているみたいだ。
大きな葉っぱがテーブルになっていたり、俺は見たことがない白い綿のようなものをたくさん付けている植物が椅子代わりになっていたり、凄く幻想的だ。
「ミローラ様、リュカとレベッカを連れてきました」
「えへへ、友達がたくさんだね。アンリエットが嬉しそうで僕も嬉しいよ」
そう言って無邪気な笑みを浮かべたミローラ様は……全く予想と異なっていた。セレミース様と同じような大人の女性を想像していたら、十歳ぐらいの女の子だ。
ただ顔がとにかく整っている部分は変わらない。
「ミローラ様、お初にお目にかかります。リュカです。セレミース様の眷属をしています」
「私はレベッカです。リュカとアンの仲間です」
「堅苦しい挨拶はいらないよ。さあ座って座って」
ミローラ様は顔をキラキラと輝かせながら、俺たちにソファーみたいな場所を勧めてくれた。
僕って言ってるけど女の子だよな。ふわふわな金髪をハーフアップのツインテールにしていて、真っ白なもこもこのワンピースを着ている姿はとても可愛らしい。
「セレミースはもう直ぐ来ると思うんだけど……あっ、来たみたいだよ」
「待たせたかしら?」
「ううん。セレミース、久しぶり!」
ミローラ様はセレミース様に駆け寄って、腰回りに抱きついた。美人な女性に可愛い女の子が抱きついてるのってかなり絵になるな。
「会えて嬉しいわ」
「僕もだよ! 眷属同士が仲間になるなんて凄いよね」
「とても驚いたわ。でも相手があなたで本当に良かった」
それからは女神同士の会話に俺たちは全く口を挟めず、凄い光景を目の当たりにしてるなと見守っていたら、二人が俺たちに視線を戻した。
「今日はアンリエットが逃げる方法について考えてくれるんだよね?」
「はい。アンの要望にできるだけ添える形で、安全に死亡を偽装したいと思っています」
「ありがとう。アンリエットのことを頼んだよ。この子は僕の言うことを聞いてくれないんだ。前は国のために死ぬのが務めなんて言っててさ、君たちと出会って自分を大切にしてくれるようになって良かったよ」
ミローラ様のその言葉を聞いて、レベッカがアンにじっと視線を向けた。
「アン、いくら国のためとは言っても死ぬなんてダメだからね!」
「もちろんそんなことは言わないわ。昔の私はどうかしてたのよ」
「それならいいけど……」
唇を尖らせてまだ少し疑っている様子のレベッカに、アンは頬を緩めて嬉しそうだ。自分を心配してくれる人がいるのっていいよな。
「そういえばアンはいつからミローラ様の眷属になったんだ? 眷属になるには神像に触れないといけないはずだけど」
「私が十二歳の時だったから……五年も前ね。実はミローラ様の神像は王宮の敷地内にある教会に置かれていて、私は昔からよく通っていたから、ミローラ様が眷属にしてくださったの」
「ずっとアンリエットのことは見ていたからね。植物にも時には獣にも優しい様子を見て眷属にしたんだ」
王宮にあるのか……それは驚きだ。ということは、この国の過去の王族にもミローラ様の眷属がいたかもしれないんだな。
「――聞いてもいいのか分かりませんが、ミローラ様はその、アンに眷属としての仕事を頼んだりしているのですか?」
「何でも聞いてくれて構わないよ。僕はそうだね……眷属に仕事を頼むことってあんまりないんだ。僕は生の女神だろう? だから全ての生あるものを慈しんでいるけれど、生あるものは同じく生あるものを糧にしなければ生きていけないのも事実。だから何かを贔屓するのではなく、自然に任せているかな。ただ無駄に命を刈り取るものには、今まで眷属に対処を頼んだこともあるよ。災害級の魔物とかね」
ということは……セレミース様と方向性は似てるんだな。確かにそれは仲良くなれそうだ。
「私は何も頼まれたことはありませんが……」
ミローラ様に困惑している様子のアンが声をかけた。
「アンリエットはまだ危なくて頼めないよ。でも僕は基本的に見守る姿勢だからいいんだ」
「私が弱くてご迷惑をおかけしているんじゃ……」
「ううん、そんなことはないよ。でもそうだね、これからリュカとレベッカと一緒に行動するなら、自然と僕の願いも叶えてくれるんじゃないかな。これからは頼んでもいいかな?」
「もちろんです! 今までは魔法の練習もできませんでしたが、これからは頑張って強くなります!」
「ふふっ、期待しているよ」
アンはミローラ様に頼られたことが嬉しいのか、頬を緩めてやる気を瞳に宿している。
「じゃあさっそくアンリエットが自由になる方法を考えよう。まずはその作戦を成功させないと始まらないからね」
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