第45話 衝撃の事実
どうやってアンの死亡を偽装するか頭を悩ませていると、アンが懐から小さな紙を取り出してそれを広げた。
「これ、帝国に入ってからの簡易的な地図なんだけれど」
「こんなの手に入るのか?」
「ううん、これは自分で書いたのよ。いろんな文献からの予想と、今回の輿入れの予定が向こうから送られてきたからそれも参考にしたわ」
凄いな……それでこんな地図を描けるって才能だよな。確かに細かいところは適当だけど、大まかな地形や道は十分に分かる。
「今回進むルートはこの赤い線で示してあるところで、帝国に入ってから二日後に岩山の中にある細い道を通るらしいの。地図ではこの部分ね。そこで魔物に襲われて、馬車ごと崖下に転落したように見せたいと思っているのだけれど……」
馬車ごと崖下に転落か……確かに死亡を偽装するには一番現実的だ。死体を捜索できないのだから。
「問題はそんな都合よく魔物が来るのかってことと、どのタイミングでアンが馬車から脱出するかだな」
「ええ、それで――」
アンはそこで言葉を切ると、俺をじっと見つめてからレベッカに視線を向けて、ベッドから立ち上がった。
「リュカにだけ話したいことがあるの。レベッカ、ごめんなさい。少しだけ二人で話をしても良いかしら……」
アンの申し訳なさそうな表情にレベッカは不思議そうにしながらも頷き、俺も椅子から立ち上がった。
「……俺たちだけ廊下に出るか?」
「いえ、部屋の端で良いわ。レベッカ、少し耳を塞いでいてくれるかしら」
「分かった。いいよ」
「ありがとう」
アンは耳を塞いで目まで閉じたレベッカをしっかりと確認して、俺の耳に吐息がかかるほど近づいた。そして発された言葉は――
「リュカって、神の眷属よね?」
――そんな、あまりにも信じられない言葉だった。
「な、なんで知って……え、というか、もしかして」
「私は――生の女神様の眷属なの」
マジか、マジか。ヤバい、あまりの衝撃に全く頭が働かない。こんな近くに他の眷属がいたなんて。スタンピードに対処をしてもこの街に他の眷属がいない限りバレないって聞いて、絶対に大丈夫だと思ってたのに。
生の女神様ってセレミース様と仲はいいんだっけ。アンと対立するとか嫌なんだけど……
「スタンピード中のダンジョンに入ってダンジョンコアを破壊したということは、大地の神の眷属を倒したということ。それが出来る存在は十中八九眷属だろうと思って、女神様にリュカとレベッカのことを見てもらったわ。そうしたらリュカが神域に入るところを捉えたって女神様が……勝手な真似をしてごめんなさい」
申し訳なさそうに首をすくめるアンを見て、俺はとりあえず首を横に振った。
「謝らなくてもいいけど、めっちゃ驚いてる。俺とアンって、仲良くしてもいい……んだよな?」
「多分。女神様が言うにはリュカは平和の女神様の眷属だろうって話だったんだけれど……合っている?」
「合ってる。凄いな、そこまで分かるのか」
「良かったわ。それならば女神様同士対立してないって」
そうなのか……はぁぁぁ、マジで良かった。ちょっと力が抜けた。
「そろそろ話は終わったー?」
レベッカの声が聞こえてきて、ビクッと体が反応してしまった。そういえばレベッカが待ってたんだよな、あまりの衝撃に忘れていた。
「アン、レベッカは俺のことを全部知ってるんだけど、アンのことも伝えていい?」
「そうなのね。それならばレベッカも一緒に話ができて嬉しいわ。一応隠していたら申し訳ないと思ってリュカにだけ話をしたの」
「それならレベッカも交えて話をしよう」
二人で元の場所に戻ると、気配を感じたのかレベッカが耳を塞いだまま瞳を開いた。
「終わったの?」
その言葉に頷いて見せると、耳から手を離して首を傾げる。
「どんな話だったのかは聞いてもいいのかな」
「もちろん。というかレベッカにも話をしようってことになったんだ」
それからアンがさっきと同じようにレベッカにも自分の正体を伝えると、レベッカはかなり驚いてはいたけど早めに受け入れたようだ。
「アンの女神様は生の女神様なんだね。どんなお方なの? というか、もしかして私って生の女神様の神域にも行ける?」
「もちろん行けるわ。リュカもね」
「え、俺も!?」
「ええ、ミローラ様はそう仰っているわ。どうせなら神域で続きの話をしましょうか」
生の女神様はミローラ様って言うのか。俺がそちらの神域にお邪魔するには……セレミース様に了承を取らないとだよな。
「ちょっとセレミース様に、平和の女神様に話をしてもいい?」
「もちろんよ」
「ありがとう」
『セレミース様、今って下界を見てますか?』
『見てないけれど……』
『お時間がありましたら俺を見て欲しいです』
俺のその言葉から少しだけ無言の時が過ぎ、水鏡に移動したのだろうセレミース様から声が返ってきた。
『見たわよ。レベッカ以外にもう一人女性がいるわね』
『はい。その女性はこれから仲間になるのですが、実は、生の女神様の眷属みたいなんです』
『――そんなことがあるのかしら』
セレミース様は相当驚いたのか、しばらく固まってから神妙な声を発した。
『俺も驚きましたが、スタンピードの騒動で俺がセレミース様の眷属だと気づいたみたいです。それで……俺って生の女神様の神域に行ったりしてもいいのでしょうか?』
『ミローラとは対立していないし別に構わないけれど……これからすぐに行くの?』
『はい』
『それならば私も行こうかしら』
え、神様同士も神域を行き来できるの!?
『そういうことって、可能なのですね』
『お互いが了承している場合だけよ。対立している神は多いし、他の神とは馴れ合わない神もいるし、あまり行き来することはないのだけれど。こういう特殊な場合はたまに行われるわ。ではミローラと話をするわね』
『よろしくお願いします』
セレミース様との話が終わったところでその内容を伝えると、二人ともかなり驚いていて、しかし二柱が一緒にいて話しているところを見られるなんてと瞳を輝かせた。
その気持ちは凄くよく分かる。神様同士の会話とか、神話にもあまり出てこないほどに貴重だ。
「では私たちも行きましょう。手を繋いでくれるかしら」
「もちろん」
「よろしくな」
俺は初めて、自分が神域干渉を発動せずに神域へと向かうことができた。
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