第44話 驚きの訪問者
王宮に呼ばれた次の日は疲れを癒すために休みとして、その次の日から俺とレベッカはいつも通りギルドへと向かった。
ギルドに入るとまだ冒険者達に騒がれるけど、少し落ち着いてきている感じだ。
「今日は何の依頼を受ける?」
「俺たちならほとんどの依頼を受けられるようになったし、難易度が高くて放置されてるやつでも受ける?」
「ふふっ、それいいね。そこで報酬が高いやつとかじゃなくて、放置されてる依頼を選ぶところがリュカらしい」
レベッカに褒めるようにそう言われ、俺は照れて首の後ろに手を回した。お金に困ってたなら報酬で決めただろうけど、褒美で使いきれないほどのお金をもらったばかりだし、神域には魔物素材がたくさんあって売ればいくらでもお金は手に入るし、あまり報酬にこだわる必要がないのだ。
武器や防具もいいのをもらったから、買い揃えるお金もいらないしな。自分の体を見下ろすと、見た目でも強そうだと分かる自分に気が引き締まる。
「あっ、リュカさん、レベッカさん、こちらへ来ていただけますか?」
依頼票が貼られた場所に向かっていると、受付の女性に声をかけられた。またギルドマスターのエドモンさんが呼んでるのかな……そう思ったけど違うみたいだ。
「あちらに座っている女性がお二人を探していて、ギルドにいらしたら知らせますとお伝えしたんです。お知り合いですか?」
女性が示したのはギルド内の食堂で、後ろ姿しか見えないけど……あれって、アンじゃないか?
「た、多分知り合いです! ありがとうございます!」
レベッカが慌ててそう告げて、アンらしき女性の下に駆けていく。レベッカに声をかけられて振り返ったのは……確かにアンその人だった。
「こんなところにいていいのか?」
慌てて小声でそう聞くと、アンは大丈夫と笑みを浮かべて頷いた。
「でも今日は早めに帰らないといけないの、お昼前には。だから二時間ぐらいしかいられないわ」
「そうなんだ……色々と話したいけど、ここで話すのも微妙だから場所を移す?」
レベッカのその言葉によって移動することになり、俺が寝泊まりしている宿に向かった。俺が椅子に座ってアンとレベッカがベッドだ。
「まず……アンってアンリエット様、だよな?」
「ええ、そうよ。この前は嘘をついてごめんなさい」
「そんなの気にしないで。言えないのは当たり前だよ。それよりもこんなところに一人でいていいの? というか輿入れって、それも帝国に……あっ、敬語の方がいい?」
レベッカは慌てているようで、次々と質問を重ねる。
「レベッカ、少し落ち着け」
「あっ、ごめん」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。まず敬語は必要ないからそのままで良いわ。そして……どこから話そうかしら。まず私はこっそりと王宮を抜け出しているから、ここにいることがバレたらお父様に叱られるわね。閉じ込められるかも」
アンが笑いながら言ったその言葉に俺たちは全く笑えない。国王を怒らせるとか怖すぎる。
「何でそんなリスクを冒してまで……」
「二人も知っているでしょう? 私の嫁ぎ先を。それがどうしても嫌で逃げ出したくて、帝国で逃げる作戦を密かに立てているの。そこで外でも一人で生きていけるかを確かめるためにこの前は外に出たんだけど……少し失敗したわ」
アンは逃げる意思があるのか……!
俺はそれを聞いて嬉しくてほっと安堵した。レベッカも同じだったようで、嬉しそうに頬を緩めている。
「絶対に逃げた方がいいよ!」
「俺もそう思う」
「私もそう思うわ。嫁ぎ先の王子、加虐嗜好の持ち主らしくて、いい噂がひとつもないの」
マジか……国もかなりやばいのに相手がそれとか、逃げる一択だな。アンが行動力のある王女様で良かった。
「絶対に逃げよう。そんなところに行っちゃダメだよ」
レベッカは瞳から涙をこぼしてアンに抱きついている。アンはそんなレベッカの様子に優しい表情だ。
「ありがとう」
「もうこのまま逃げればいいんじゃない? 私たちと一緒に遠くに行く?」
「一緒に行って良いの……? 実はね、今日は二人にお願いをするために来たの。逃げた後、仲間になっても良いかって。本当は一人で逃げるつもりだったんだけど、二人の活躍を聞いて護衛を頼めると思ったらつい欲が出て……」
「もちろんいいよ! 護衛を頼んでくれてありがとう!」
食い気味に了承したレベッカの様子に、俺は苦笑を浮かべつつ頷いた。
「俺らは全く問題ないよ。アンが俺たちでいいなら」
「二人とも……ありがとう。本当に、ありがとう。嬉しいわ」
アンは瞳を潤ませて心からの笑みを浮かべた。アンの今後が本当に心配だったから良かった。
「じゃあさっそく明日にでも街を出る? 私は家族に話をすれば大丈夫だよ。いずれ街を出るってことは伝えてあるから」
「それなんだけれど……できれば帝国に入ってからが良いの。今回私の輿入れで帝国から色々と軍事援助をしてもらえるらしくて、逆に私が逃げたら帝国が攻めてくる恐れもあって」
そうなのか……やっぱり王族って大変だな。
「だから帝国に入って、向こうの騎士達に護衛が移ってから魔物に襲われて死んだように見せたいの。それならば向こうの騎士の問題になるから、アルバネル王国に損害はないはず」
「――確かに、そこは真剣に考えないといけない部分だね」
「とりあえず普通に輿入れのために国を出て、それからが勝負ってことだな。でも魔物に襲われて死んだように見せかけるのって、意外と難しいよな……」
魔物を連れてくるのも大変だし、死んだように見せかけるっていうのも難しい。魔物はセレミース様に居場所を教えてもらって、俺がこっそり森に入って連れてくれば何とかいけるだろうけど……その魔物にアンがやられないといけないのが大変だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます