第47話 作戦決定

 作戦の内容を考えるにあたって、まず口を開いたのはアンだ。ミローラ様に頼られた嬉しさからか、やる気十分な様子で身を乗り出している。


「先ほど私が話した馬車の転落で死んだように見せかける作戦だけれど、これは私が眷属であるならとても簡単なの」

「そうだよな。転落の前に神域に逃げればいい」

「ええ、神域干渉はあくまでも神域に入った場所に戻るから、馬車が落ちたとしても私が戻る場所は崖の上になるはずよ」

「それなら一気に難易度が下がるね。馬車が落ちる前に扉を開けられないようにすることと、落下現場から騎士達を移動させるのが大切かな」


 レベッカの言葉に皆が頷いて、作戦の方針は決まった。


「一番難しいのが魔物を連れてくることだな」

「魔物を見つけるのは僕がやるよ!」

「私も協力できるわ。馬車を突き落とすような魔物を見つければ良いのよね」

「ありがとうございます。じゃあ魔物の発見はミローラ様とセレミース様にお任せして、その魔物を誘導するのは俺かな」


 レベッカだと女神様たちと意思疎通ができないから、出来るのは俺しかいないだろう。何とか隊列から外れて森の中に入る口実を作らないと。


「崖の上で馬車を止めることはないだろうし……腹痛とかで森に入るとか?」

「そうだね。馬車は先に進んでもらう?」

「それがいいだろうな。俺はバレないように森の中を駆けて魔物を挑発して、セレミース様に馬車の居場所を聞いてそこに魔物を誘導するよ」


 俺のその言葉を聞いたレベッカとアンは頷いたけど、しばらくしてレベッカが眉間に皺を寄せた。


「リュカが魔物を誘導したことは、もちろんバレないようにするよね?」

「そうだな」

「ということは、魔物への対処は私が一人でやるってことだよね」


 確かにそうなるな。騎士たちにすぐ討伐されたらダメだから強い魔物にするし、馬車を落とせるほどに大きな魔物になるだろう。それをレベッカが一人で……


「俺が魔物を誘導してから数分後には合流できると思うけど、それまで任せられる?」

「うーん、頑張るけどあんまり自信はないかも。やるべきことは魔物を馬車に誘導することと、馬車が落ちた後に魔物を討伐することだよね? 特に魔物の誘導に自信がないよ」


 レベッカが眉を下げて告げたその言葉に、アンが申し訳なさそうに付け加えた。


「一つわがままを言っても良いのならば、馬も助けてあげたいわ」


 アンのその言葉にレベッカはさらに仕事が増えたと微妙な表情だけど、ミローラ様は嬉しそうに頬を緩めた。


「とても素敵な意見だね。アンはこうして生あるものが無駄に命を失わないようにって考えてくれるんだ。僕の眷属にぴったりだよ」

「……ありがとうございます」


 照れたように頬を赤く染めてミローラ様に笑いかけているアンと、そんなアンのことを満面の笑みで見つめ返すミローラ様。この二人も絵になるな。


 しかしアンはすぐに嬉しそうな表情を引っ込めて、思案げな顔をした。


「ただレベッカの負担が増えてしまうので、何か負担を減らす方法を考えたいです」

「そうだね……それなら、魔物が好む植物をアンリエットが持てばいいんじゃないのかな! アンリエットなら植物を神域に置いておけば、そのタイミングだけ取り出すこともできるでしょう? これでレベッカは魔物の誘導に関して考える必要は無くなるよ」


 ミローラ様は顎に手を当てて真剣な表情で悩んでから、パァッと顔を明るくしてそう言った。


「ミローラ様、その作戦素晴らしいです」

「それなら私は魔物が来たら、馬と繋がる縄だけ切ればいいってことだよね?」

「それだけならできそう?」

「うん! 魔物を攻撃するふりをしてなんとか頑張ってみるよ。それで上手く馬車が落ちれば、魔物の討伐はリュカを待ってもいいし、他の騎士たちも戦ってくれるだろうから。それに馬車と一緒に魔物が落ちる可能性もあるよね」


 確かにそうだな、それが一番の理想だ。できればボア系の魔物で、突進したらしばらく止まれないような魔物を誘導できるといいな。


 そこで作戦の根幹となるアンの死亡を偽装する方法が決まり、俺たちは体の力を抜いた。


「そこまで成功すれば、後は臨機応変に動くしかないな」

「私たちは騎士たちを別の場所に誘導させればいいんだよね。帝都に報告に行こうって感じかな?」

「そうだな。アンはどうする? どこで合流するかは決めておいた方がいいと思うけど」


 俺のその言葉にアンが口を開きかけたところで、セレミース様が控えめに手を挙げて口を開いた。


「アンリエットを助けた後のことで、私からお願いがあるのだけど良いかしら。実は帝国は……周辺国に次々と戦争を仕掛けて領土を広げることを目論んでいるみたいで、このままだとこの大陸に戦禍が広がるわ。そこで――帝国を正常に戻して欲しいの」


 セレミース様のその言葉に、全員の眉間に皺が寄る。

 帝国がそんなことを目論んでるなんてな……それは絶対に防がないとだけど、帝国を正常に戻すなんて俺にできるだろうか。

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