第35話 神像の回収と侵入
俺とレベッカは素早く出発準備を整えると、明るさがほとんどなくなった頃に街を出た。そして途中でご飯を食べながらも歩みは止めず、五時間ほどひたすら歩き続け……さすがに疲れが出てきたところで今夜は休むことにした。
二人で一緒に神域に入ると、ソファーにゆったりと腰掛けるセレミース様が俺たちを迎えてくれる。
「いらっしゃい」
「セレミース様、お邪魔します」
「良いのよ。私の頼みでこんな夜に街の外を歩いてくれているのだもの。二人とも本当にありがとう。それからスタンピードの消滅も凄く助かったわ。ありがとう」
セレミース様のふわりと心地よい風が吹くような笑みを見ていると、心が綺麗に洗い流される気分になる。
「お役に立てて良かったです」
「これからも大変なことを頼むことは多いと思うけれど、よろしくね。頼りにしているわ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
それから数十分ほどセレミース様との会話を楽しんだ俺たちは、明日も早いので早々にベッドに入って眠りについた。
そして次の日も昨日と同じように歩き続けた俺たちは、予定よりも少し早くに村へと到着し、神像を回収してからまた王都に向かって出発した。
途中で何度か休憩を挟みながらも足を動かし続けた結果……なんとか日付が変わる時間ギリギリに、王都に戻ることができる。
遅い時間に街に入るにはいつもより複雑な手続きが必要で、門で数分時間を取られたけど無事に二人で街の中だ。
「さすがに疲れたな……」
「本当だね。でも侵入するぐらいなら大丈夫かな。リュカは?」
「俺もそのぐらいならいける。さすがにこれから強い魔物と戦ってくださいとか言われたら厳しいけど」
「それは私も無理かな」
レベッカとそんな話をしながら大通りをゆっくりと進み、教会がある方向に向かって何度か角を曲がった。そして十分ほどで……目の前には暗闇に佇む教会だ。
「夜の教会ってちょっと怖いな」
「……分かる。お化けとか出そうな雰囲気あるよね」
「この世に未練がありながら死んだ人とか、教会に居付きそうだしな」
「ちょっとリュカ、そういうこと言わないで!」
「ははっ、ごめんごめん」
小声でそんな軽口を言い合いながら、教会の横にある路地に入る。
『セレミース様、中の様子はどうですか? どこからなら入れるでしょうか』
『もう少し先に教会を囲う塀が途切れる場所があるから、そこから敷地内に入ると良いわ。裏口として使われてるみたいだけど、扉が壊れてそのままのようね。そこから入って……すぐ近くにある窓が少し開いてるわ』
『分かりました』
不用心だな……まあ教会には盗まれるようなものがないから、警戒は薄いのだろう。
「レベッカ、静かに付いてきて」
「了解」
セレミース様の指示通り敷地内に入ることに成功し、侵入経路である窓の近くにしゃがみ込んだ。時間的にもう起きている人はいないのか、教会はシンッと静まり返っている。
『この窓の中はどんな部屋ですか?』
『若い女性の私室みたいね』
『え!? そこに侵入するんですか!?』
『そこしか鍵が空いている窓がないのよ』
いくら女神様の頼みとはいえ罪悪感が……。それにもし女性が目を覚ましたら、最悪のトラウマを植え付けることになる。
「リュカ、どうしたの?」
「……ここしか窓が開いてないけど、中は女性の私室なんだって」
俺のその言葉を聞いたレベッカは、胡乱げな瞳を俺に向けた。
「ちょっと待って、俺がここを選んだわけじゃないから」
大きな声を出せないので焦りながら反論すると、レベッカは苦笑を浮かべながら頷いてくれた。
「分かってるよ。でも女性の部屋に入るのはちょっと躊躇うね……」
『セレミース様、倉庫とかはないんですか? そこの鍵が開けられないか挑戦してみたいです』
『倉庫は……女性の部屋の廊下を挟んだ向かいよ。裏から回れるわ』
『分かりました。一度そっちに行ってみます』
足音を立てないように移動して倉庫の前に辿り着くと、倉庫の窓は上げ下げ式だった。最近はスライド式の窓が流行ってるのに、ここだけ古いままみたいだ。
古い上げ下げ式の窓なら、ストッパーが緩んでて簡単に動くかもしれない。
そっと覗いてみると……ストッパーもかなり古いタイプのもので、少しだけ窓を動かそうと力を入れると左右に動いた。
これなら証拠が残らないことを考えて、風魔法か氷魔法でいけるかも。
「レベッカ、試してみる。もし大きな音が出て誰かに見つかりそうになったら、神域に逃げるから手を繋いでてもいい?」
「もちろん」
緊張と好奇心が混ざったような表情で頷いたレベッカを見てから、俺は窓に視線を戻した。鍵を動かすほどに強い風は倉庫の中のものを動かしてしまう可能性があるので、まずは氷魔法だ。
窓の向こう側に小さなアイスボールを作り出して、それをストッパーにぶつける。
それを何度か繰り返すと……無事、ストッパーは動いて窓が上に動くようになった。
「リュカ、凄い……!」
「この窓の防犯性能がかなり悪かっただけだけどな」
開いた窓から倉庫に身を滑り込ませ、小さなライトで辺りを照らす。この倉庫はあまり使われないものが置かれているのか、そこかしこに埃が溜まっているようだ。
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