第33話 束の間の休息
宿に戻った俺は思っていた以上に疲れていたのかすぐ眠りに落ちて、目が覚めると次の日の朝だった。宿に戻ってきたのが昨日の昼頃だったことを考えると、十六時間も寝続けたみたいだ。
「ふわぁ……さすがにもう寝れないな」
昨日の今日じゃ報告も終わってないだろうし、今日は何をするかな。さすがに依頼を受けようという気分にもなれない。
「とりあえず、レベッカの家に行ってみるか」
服を着替えて朝食を食べて宿から出ると、街の中はいつもよりも賑やかで、どこか浮き足立っている様子だった。
あんなに街の近くで起きたスタンピードだし、街中にも情報が広がったんだろう。絶望から助かったとなれば、浮き足立つのも当然か。
「兄ちゃん、今日は祝いで串焼きが半額だぞ」
「うちはパンが一個まで無料だよ」
「うちは銅貨一枚でスープ飲み放題だ!」
そこかしこの屋台や店で、祭りのような呼び込みがされている。レベッカに予定がなければ、今日は屋台巡りも楽しいかもしれないな。
それからも賑やかな街の様子に楽しい気分になりながら歩みを進めると、特に問題なくレベッカの家に辿り着くことができた。
ここが王都という大都市で良かったよな……これが街に住む人全員の顔がなんとなく分かります、みたいな田舎だったら街中を碌に歩けなかっただろう。
「レベッカさんいますか?」
ドアをノックして声を掛けると、部屋の中からバタバタっと慌てたような足音がしてドアが開かれた。開いたドアから顔を出したのは……レベッカのお母さんだ。
「リュカ君だよね? レベッカからいつも話は聞いてるよ。さあ入って入って」
「あ、ありがとうございます」
お母さんとはほとんど話したことがなくて緊張しながら部屋に上がると、中にはレベッカも妹さんもいないみたいだ。
「あの子たちは買い物に行ってくれてるんだ。もう少しで帰ってくるから待っててね」
「そうなのですね。そんな時にお邪魔してしまってすみません」
「気にしないで。それよりも私から礼を言わせてほしい。昨日レベッカから聞いたよ、君が街を救ってくれたんだって。本当にありがとう……! それからレベッカとパーティーを組んでくれたことにも感謝してる。レベッカは毎日楽しそうで君のおかげだよ」
レベッカのお母さんはカラッと気持ちのいい笑みを浮かべて、感謝の気持ちを伝えてくれた。俺はその言葉がくすぐったくて嬉しくて、頬が緩んでしまう。
「自分にできることをしただけですから。それにレベッカさんにはいつも助けてもらっているのでお互い様です」
「あの子も役に立ってるのなら良かった」
それからお母さんと緊張しながらも楽しく話をしていると、部屋のドアが開いてレベッカと妹さんが帰ってきた。レベッカは俺を見て瞳を丸く見開く。
「リュカ、来てたんだ。びっくりしたよ〜」
「お母さんの話し相手になってもらってたの。買い物はできた?」
「もちろん。今日は色んなところで割引をしてたから、凄く安く買えたよ。いつもよりたくさん買ってきちゃった」
レベッカは籠をお母さんに手渡すと、俺が座っていた椅子の隣に腰掛けた。
「今日はどうしたの?」
「いや、特に予定があるわけじゃないんだけど、目が覚めたからとりあえずレベッカのところに行こうかと思って。これからの予定も決めたかったし」
「確かにそうだね。数日後にギルドに来てくれって言われたけど、それまではどうする?」
「俺はとりあえず、依頼を受けるのは休みでもいいかなと思ってるんだけど」
俺がその言葉を口にすると、レベッカはすぐに頷いてから楽しそうに顔を輝かせた。
「私も賛成! じゃあ今日は暇だよね?」
「うん。特に何もないけど……」
「それなら屋台巡りしない? 色々あって見て回りたいなって思ってたの」
「ははっ、俺もさっき同じこと思ってた」
「じゃあ決定ね!」
それからお母さんと妹さんに挨拶をした俺は、レベッカと一緒に家を出た。そして屋台がたくさん並んでいた大通りに向かう。
「昨日までは必死であんまり実感が湧いてなかったけど、私たちってこの街を救ったんだよね」
「そうだよな……俺も実感は湧かないかも。でも本当に良かった。この街にあの量の魔物が襲ってたらと思うと、想像するだけで怖いよ」
「本当だね」
レベッカと賑やかな通りを見回しながらそんな話をする。
「セレミース様にも感謝しないと」
「そうだよ。そういえばセレミース様のところに直接報告に行った?」
「……いや、昨日寝る前に少し話しただけで、神域には行ってない」
「もう、行かなきゃダメだよ。このあと一緒に行こうか」
「そうだな。ありがとう」
それから俺たちは屋台をいくつも見て回って、久しぶりの休日を楽しんだ。
美味しそうな串焼きやパンを買って食べ歩きをして、レベッカが綺麗なアクセサリーや髪飾りを試着して、武器や防具、鞄、ナイフなど実用性の高いものもいくつか購入した。
そしてそろそろ夕方なので帰ろうか……そんな話を始めたその時、視界の端に長い行列が映った。
数十人以上は並んでいるその列が気になって先頭に向かってみると、そこは教会だ。しかも平和の女神様、セレミース様を祀る教会だった。
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