第32話 救国の英雄
洞窟から外に出るとアント系魔物の死骸がそこかしこに散乱し、その先に冒険者や騎士がいたので俺たちはそこに向かって歩みを進めた。
「なんかもう、アント系の魔物は見飽きたな」
「本当だね。たまに素材を回収してたけど、これほどの数があったら売れないから無駄だったかも」
「確かに。アントの外殻なんて捨てるほどありそうだな」
レベッカとそんな話をしながら死骸を避けて先に進むと……冒険者たちの先頭に見知った顔を見つけた。ギルドマスターであるエドモンさんだ。
知り合いがいなかったらどうしようと思ってたから、エドモンさんがいてくれて良かったな。
「……お前たち、どこから来たんだ?」
現状が理解できないからか警戒している様子で問いかけられた言葉に、俺はエドモンさんと少しだけ距離を取って歩みを止め、ゆっくりと口を開く。
「ダンジョンの中です。……エドモンさん、ダンジョンコアは破壊したのでスタンピードは止まりました。残りの魔物が出てくるということもないので安心してください」
とりあえず一番重要な情報を伝えると、エドモンさんは上手く処理できなかったのかしばらく固まり……やっと口を開いたと思ったら、素っ頓狂な声を上げた。
「なっ……どっ、どういうことだよ!?」
やっぱり驚かれるよなぁ。普通はスタンピード中のダンジョンに入ってスタンピードを止めようなんて考えもしないし、理解できないのが普通だろう。
「そのままの意味です。もうご存知かもしれませんが俺には呪いがかけられていて、偶然にもその呪いが解けたんです。それによって強い力を手に入れて、スタンピード中のダンジョンへの潜入とダンジョンコアの破壊までできるようになりました」
ここは呪いが解けたことによる才能の開花で押し切るしかないのでそう伝えると、エドモンさんは何度も首を横に振った。
「いやいやいや、あり得ねぇだろ! スタンピード中のダンジョンに入って、ダンジョンコアがある最奥まで辿り着いたっていうのか!?」
「俺も自分に驚いていますが、事実なんです」
「エドモンさん、私も一緒に行ったので本当です。リュカはとても強くなりました。私なんて少し補助ができたぐらいで、ほぼリュカ一人の実力で奥まで辿り着いてます」
レベッカからの援護射撃もあったことで、エドモンさんは半信半疑ながらも俺たちがダンジョンコアを破壊したということは理解してくれたのか、曖昧に頷き口を開く。
「……百歩譲ってそんな力がお前に備わってたとして、呪いが解けたのなんて最近だよな? そんな状態で突然スタンピード中のダンジョンに飛び込むとか、馬鹿にも程があるだろ」
確かに……それは否定できないな。普通はそんな怖いことなんてできないし、活躍するとしてもダンジョンの外でスタンピードへの対処をするだろう。
「――スタンピードでこの街が危ないと思ったら、居ても立ってもいられなくて。エドモンさんに伝えたら止められると思ったので、何も言わずに消えてすみませんでした」
「はぁ……お前が逃げたと思ってた俺を殴りてぇよ。リュカを馬鹿にしてたやつら、あとで全員謝れよ! リュカとレベッカがダンジョンに入ってスタンピードを止めてくれたぞ!」
エドモンさんはため息を吐くと、周囲にいる全員に聞こえるような大声で叫んだ。するとその声を聞いた冒険者や騎士たちは、だんだんとスタンピードという脅威が去ったことを実感したのか、喜びを爆発させ始める。
「マジかよ! リュカ、お前どんだけ強くなったんだよ!」
「この街を救ってくれてありがとな……! お前、マジで命の恩人だ!」
「レベッカもありがとな!」
冒険者からは俺たちが成し遂げたことへの驚愕と賞賛が、騎士たちからは勇敢な行動への感謝が贈られて、俺とレベッカは一瞬のうちに大勢の人間に囲われてぎゅうぎゅうに押しつぶされる。
「おい、お前ら! 英雄を潰してどうすんだ!」
エドモンさんと数人の冒険者がなんとか俺たちを助け出してくれて、とりあえず少しだけ騒ぎは収まった。しかしまだ興奮冷めやらない様子だ。
「リュカ、レベッカ、お前ら二人はこの街を救った英雄だ。冒険者ギルドを、そしてこの街に住む者を代表して礼を言わせてほしい。本当にありがとう……!」
エドモンさんのその言葉を皮切りに、今度は俺たちへの感謝で騒ぎが大きくなる。いろんな人に泣きながら感謝され、笑顔で背中を叩かれ肩を叩かれ、ちょっと痛いやつもあるけど嬉しいことに変わりはない。
それからしばらくは皆で喜びを分かち合い、やっと落ち着いたところで今後の話をすることになった。
まずは現状の確認ということで、エドモンさんと騎士団の上層部数人がダンジョンの入り口があった場所に向かい、本当に狭い洞窟しか残っていないことを確認して戻ってくる。
「あの洞窟にはしばらく監視をおくことにしよう。この前線は解体だ。皆には後で報酬を渡す。それからリュカとレベッカのことだが、もちろん上に報告することになる」
「私の方からも報告させていただく」
エドモンさんの声に被せたのは、この場で騎士団側の指揮を取っていた壮年の男性だ。眷属ということはバレてなさそうだし、報告されても問題はないよな。
「分かりました。今後はどうなることが予想されるでしょうか?」
「そうだな……正確なところは分からないが、冒険者ギルドとしてはリュカとレベッカの等級を上げることになる。国からは褒美でももらえるんじゃないか?」
おおっ、それは嬉しいな。国からの褒美なんて楽しみだ。
「それから騎士にスカウトされると予想される。スタンピードを単独で解決できるような者を放っておくとは考えづらい。騎士になりたいのならば良いが、断りたいのであれば断り文句を考えておいた方が良い」
エドモンさんの褒美という言葉に浮き立っていた俺の心は、騎士団側の男性が発した騎士へのスカウトという言葉で一気に落ち着いた。
凄く名誉なことだけど、一国の騎士になったら行動が制限されて、平和の女神様の眷属として役割を果たせないよな。
断り文句を考えておかないと……ちょっと憂鬱だ。
「教えてくださってありがとうございます」
「じゃあこれから俺たちは報告に行くから、二人はゆっくり休んでくれ。そうだな……数日後にはギルドに来て欲しい。必ずだぞ」
「分かりました。報告よろしくお願いします」
それから俺とレベッカは皆の注目を受けながら街に戻り、かなり疲れていたのでそのまま宿に戻って眠りに落ちた。
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