第29話 大地の神の眷属
広場には多くの魔物がひしめき合っていて、俺たちが姿を現すと大半の魔物が一斉に襲いかかってきた。俺は魔法で魔物を蹴散らして、作り出した一本道を階段に向かってひた走る。
途中でまた魔物が襲ってくるけど、その度に蹴散らして道を作り直す。そうして走ること数十秒、階段に辿り着いた俺とレベッカは、そこを埋め尽くす魔物に一瞬足を止めた。
「凄いな……」
「でも行くしかないよ」
「そうだな。……レベッカ、ちょっと肌が痛かったらごめん」
ここまでひしめき合っているなら雷魔法で互いに感電させるのが一番早いと判断して、俺は巨大なサンダーボールを放った。
すると攻撃を直接受けた魔物だけでなく、その周りにいた魔物も気絶しているのか麻痺しているのか、バタバタとその場に倒れ込んでいく。
「今のうちに!」
「うん!」
階段を駆け降りて三十層に足を踏み入れると……たくさんの魔物がいる奥に、キラキラと輝くダンジョンコアがあった。あとはあれを壊すだけだ。
人生で一番本気で足を動かしていると断言できるほどの速度でダンジョンコアに近づいていき――魔法の射程圏内に入った瞬間、俺は今までで一番力を込めたアイススピアを放った。
それと同時にレベッカも渾身の力で弓を放ったようで、二つはほぼ同じ速度でダンジョンコア目掛けて飛んでいき……そのままダンジョンコアを破壊する! そう思った瞬間、激しい炎で二つの攻撃は一瞬にして消え去った。
そして姿を現したのは、背が高く褐色の肌をした目付きの鋭い男だ。異国の旅装に身を包んだ男は、腰に細身の剣を差している。
こいつが大地の神の眷属か。
「お前たち……何者だ」
男はこの大陸の共通語を発したけれど、それにはかなりの訛りがあった。この容姿だと大陸の東寄り出身か、それとも別の大陸か。
「お前こそ、なぜ邪魔をした? ダンジョンコアを破壊すればスタンピードが消滅する。俺たちは街を救うためにダンジョンコアを破壊しに来たんだ」
「……それは許さん。ダンジョンコアは大地を構成する大切な要素だ。特にこれほどまで大きく育ったものはな」
「でもこのままだと街に住む大勢の人間が死ぬんだぞ。お前はそれでもいいのか?」
俺が男の瞳を真剣に見つめながらそう問いかけると、男は躊躇うことなく頷いた。これは……説得は無理かもしれないな。話し合いで解決できたらそれが一番なんだけど。
「必要な犠牲だ」
「……俺はそうは思わない。ダンジョンコアなんて、壊したってなんの影響もないじゃないか。日頃から世界中でたくさん壊されている」
男を説得しようと思って告げたその言葉は、逆に男の逆鱗に触れたらしい。男は俺のその言葉を聞いた瞬間に、目付きを鋭くして声を荒げた。
「貴様は我々が繁栄できた礎を諭すのか!?」
――これは、意見の一致は無理そうだな。
「そもそもなぜお前は、今この瞬間ここにいるんだ? ダンジョンコアを守っているのだとしても、育ちすぎたダンジョンコアなんて世界中にあるはずだ。ここでスタンピードが起きていることと関係があるのか?」
話の方向性を説得から揺さぶりに変えてみると、男は鋭い目つきのまま押し黙った。大地の神と話をしてるのかもしれないな。
セレミース様はスタンピードが起きたことで大地の神の眷属がいるってことに気づいたけど、向こうは俺が平和の女神様の眷属だということに気づく要素はないはずだ。
話をしている間も絶え間なく生み出される魔物をいなして、しつこいやつは倒してと男の言葉を待っていると、しばらくして男は腰に差してある剣を抜いた。
「お前たち、このまま地上に戻れば見逃そう。ここに到達できるほどの実力があれば、スタンピードの被害を減らすことはできるだろう。……まだダンジョンコアの破壊を企むというのならば、その時は容赦なく切り捨てる」
男の威圧感に生唾を飲み込んだ俺は、剣を握る手に力を入れた。そしてしっかりと構え直す。レベッカも隣で緊張しながらも、弓を構え直すのが分かった。
「……馬鹿なやつらだ」
男はポツリとそう呟くと地面を踏み込み……信じられない速度で一気に俺たちとの距離を詰めてきた。俺は男の重くて鋭い一撃をなんとか受け止めたけど、純粋な力比べでは勝てる気がしない。
「うっ……」
ギリギリのところで男の剣をなんとか受け流し、アイスボールで追撃しようとするも……ファイヤーボールで相殺されてしまう。
男がファイヤーボールを放った瞬間にレベッカが放っていた矢も、炎で塵と化した。
これは、ヤバいかもしれない。相手の方が身体能力は上だ。魔法に関しては互角に戦えるだろうけど、互角に戦えたところで勝てるわけじゃない。
俺が有利なのはレベッカがいること、仮初の平和を使えること、そして平和の女神様の眷属だというのがバレていないこと、この三つだ。
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