第23話 明日からの動きと他の神
セレミース様は俺の返答を聞いて満足そうに微笑んでくれたけど、すぐに笑みを薄れさせて難しい表情で顎に手を添える。
「問題は魔物が溢れ出すまでの日数ね。蟻地獄はかなり広いダンジョンで、全部で三十層もあるの。一層の広さは数キロに及ぶわ。さすがのリュカでも二日で奥までは辿り着けない。私が道案内をするとしても三日はかかるわね」
蟻地獄ってそんなに広かったのか。俺は前に一層だけ入ったことがあるけど、一層目から相当広くて驚いた記憶がある。あれが三十層もあるのはヤバいな。
「どうすればいいでしょうか。……約一日は魔物が溢れ出すってことですよね」
「そうね……ここは周りの力を借りた方が良いかもしれないわ。例えば明日の朝一にリュカは蟻地獄へ行って、スタンピードの兆候があるということをギルドに知らせるの。それによってスタンピードへの準備を行わせてから、ダンジョンに潜るのよ。リュカがダンジョンに潜り始めるのが遅れただけ魔物が溢れ出る時間が増えるけれど、事前準備なしにスタンピードが始まるよりはマシじゃないかしら?」
確かに……事前準備なしだと最悪は数時間で街が魔物で溢れかえる未来もあり得る。それなら少しだけ魔物の放出時間が長くなったとしても、事前にスタンピードの兆候を知らせるべきだろう。
「セレミース様の意見に賛成です。では予定としては明日の午前中にスタンピードのことをギルドに伝え、午後から準備をしてもらって、俺は夕方にはダンジョンに潜るといういう流れですね」
「それが一番の理想ね」
「分かりました。……ただダンジョンコアを破壊することができたら、ダンジョンの入り口が消えてそこには俺が姿を現すんですよね? それって、めちゃくちゃ目立ちませんか?」
スタンピードが起きているダンジョンに入ってダンジョンコアを破壊してきたとか、どんな超人だって大騒ぎになりそうだ。
「そこは仕方がないわね。……リュカは冒険者の等級を上げたかったんでしょう? ちょうど良い功績になるじゃない」
「確かに功績にはなると思いますが……眷属だってことがバレませんか?」
「そうね……眷属だということはそうバレるものではないわよ。普通の人は候補にも入れない選択肢でしょう? リュカはちょうど呪いが解けて強くなったと認識されているのだから、その程度が予想以上だったと驚かれるぐらいじゃないかしら」
確かに……俺もセレミース様と出会う前にスタンピードを解決した人がいたら、凄く強いんだなと憧れはしても眷属なんじゃ? と疑うことはしなかった。
「他の神様にはバレないのですか?」
「……まず大地の神には確実にバレるわね。ただ大地の神の眷属とはダンジョンコアを破壊する時に戦うことになるのだから、ここを気にする必要はないわ。他の神には……まずバレないでしょう。今この街にいて騒動を間近で見ていたなら別かもしれないけれど」
それなら……そこまで心配はいらないか。
この世界には創造神様の下に神が十柱いて、世界中で眷属は最大で十人しかいない。そんな眷属がいくら王都とはいえ、この街に何人もいるとは考えづらいだろう。
それに十人の眷属だって全員が俺にとって危険だというわけではないと思う。……誰を特に警戒すべきか、知っておいた方がいいかな。
「セレミース様、破壊の神の眷属を警戒しなければいけないことは分かっていますが、他に警戒するべき神の眷属は何人ほどいるのでしょうか」
俺のその質問にセレミース様は少しだけ考え込み、ゆっくりと口を開いた。
「やはり一番は死の神ね。それから愛の女神も平和の女神としては敵になることもあるわ。空、海、太陽、月、この辺はあまり関わりがないわね。生の女神の眷属は比較的仲良くなれるのではないかしら」
愛の女神様が敵になることがあるのか……かなりの衝撃だ。愛の女神様はこの国でもかなりの信者がいて、教会だっていくつもあるのに。
「ただこれは絶対ではないわ。あまり気にせず、目の前にいる者が敵か味方かはリュカが判断しなさい」
「確かにそうですね……分かりました。教えてくださってありがとうございます」
「良いのよ。では話を戻すけれど、スタンピードの消滅を頼んだわね」
「はい。とにかく全力で頑張ります。とりあえず今日は明日からのためにもう休みます」
俺は手に持った剣をギュッと握りしめ、絶対にこの街を救うと決意を固めて宿に戻った。そしてこれから起こる事態への緊張で全く眠くならないけれど、無理矢理にでも休もうとベッドに入った。
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