第22話 スタンピードの止め方
首を縦に振ったってことは……あるのか、スタンピードを止める方法が。
「方法を教えてください!」
「それはもちろん教えるわ。というよりも、あなたにスタンピードの消滅を依頼しようと思っていたのよ。ただかなり難易度が高いわ。――まず、リュカはダンジョンについてどの程度の知識があるのかしら」
「ダンジョンは……空気中の魔素が固まってダンジョンコアが生まれ、そのダンジョンコアが地殻を動かしてダンジョンを作り魔物も生み出す、と何かの本で読みました。ダンジョンとは一つの生き物のようだと」
俺の回答はそこまで悪いものではなかったのか、セレミース様は頷いてくれた。
「そうね。基本的な部分は合ってるわ。そしてダンジョンは、ダンジョンコアを破壊されると消え去るということも知っているわよね?」
「はい、知っています。よほど有益な素材が取れるダンジョンでない限り、基本的には踏破してダンジョンコアの破壊を目指しますから。……ただ大きく成長し過ぎたものは奥まで辿り着けず、破壊はかなり難易度が高いと」
蟻地獄もそんなダンジョンの一つだったはずだ。確か王都に近いんだけどあまり人が行かない場所にあり、ダンジョンが発生したことに気付くのが遅れて、気付いた時には踏破が難しい段階まで成長していたギルドで聞いた。
「よく知ってるわね。それならスタンピードの解決方法は分かるでしょう? ダンジョンが消滅したら中にいる魔物も消滅する」
「……もしかして、今から蟻地獄のダンジョンコアを破壊しに行くってことですか?」
「そういうことね」
……予想以上に無謀な方法だった。そんなことができるのだろうか。いくら眷属の力があるとは言っても、できることには限度がある。
「――難しいですね」
「いえ、これだけならリュカの力で問題なく達成できるはずよ」
「これだけって、他にも問題があるってことですか?」
「ええ、リュカはそもそもスタンピードがなぜ起こるのか知っているかしら」
スタンピードがなぜ起こるのか。それは度々研究されては結論が出ない謎の一つだ。もしかして……セレミース様は答えを知っているのだろうか。
俺は緊張で震える手をギュッと握り締め、乾いた口を開いた。
「知り、ません」
「そう。スタンピードはね……大地の神の眷属が起こしているのよ。大地の神によって眷属に与えられる特殊能力でね」
え……ということは、スタンピードは人の手によって意図的に起こされてたってことか!?
な、なんでそんなことを……今までの長い歴史の中でスタンピードで亡くなった人の数を数えたら、数百万は優に超えるはずだ。
「理解できないって顔ね。大丈夫、私も理解できないわ。でも大地の神にとって一番大切なのは大地そのものなのよ。その上に住んでる生物なんて死んでも生きてもどっちでも良いの。そしてダンジョンコアは力を放出させずに放っておくと、いずれ大きな魔素爆発を起こして大規模な地震となる。それを避けるために大地の神はスタンピードという形で、ダンジョンコアに溜まったエネルギーを発散させているのよ」
――神様にも、いろんな考えがあるんだな。
とりあえず俺は平和の女神様の眷属で良かった。大地の神様は俺なんて眷属に選ばないだろうけど、もし選ばれたとしてもスタンピードを起こすなんてできなかっただろう。
でもスタンピードを起こさないと大地震が起きるとか、どっちを取るかなんて選べる気がしない。
約百年前に大地震が起きてかなりの死者が出たっていう事実は前に本で読んだけど、もしかしたらあの地震は大地の神の眷属が間に合わなかったことによって起きたのかもしれないな……。
「大地の神の眷属が地震を起こしているということは、蟻地獄の中にいるということですか?」
「ええ、ダンジョンコアがある最奥にね。まあ神域に避難しているでしょうけど」
「でも神域って、最長で一日しかいられませんよね?」
「そうね。ただ一瞬でも戻れば良いのだから、水鏡で様子を見て隙を見つけて戻ればそこまで危険はないわ」
確かにそうか……じゃあ基本的にダンジョンコアがある場所は、大地の神に監視されてるってことだな。
「俺がダンジョンコアを破壊しに向かったとして、それを大地の神の眷属が阻んでくるということですね。――あれ、でも阻む意味ってありますか? ダンジョンコアを破壊してしまえばスタンピードも地震も起きないんじゃ……なぜ大地の神の眷属はダンジョンコアを破壊しないんでしょうか」
よく考えたら地震かスタンピードかの二択なんかじゃなかった。ダンジョンコアの破壊っていう一番平和な解決策があるじゃないか。
「そこが一番理解できないところなのよ。大地の神にとってダンジョンコアは大地の一部なの。それを破壊するよりも、スタンピードを起こす方を選ぶのよ。大地への被害という一点のみで考えたら、スタンピードの方がマシらしいわ」
マジか……それは全く理解できない考えだ。というか、それに賛同して眷属をやってる人間がいるんだよな。その事実が信じられない。
「納得はできませんが、大地の神の眷属が俺の敵になるということは理解できました」
「分かってもらえたなら良かったわ。というわけでリュカ、かなり難しいと思うけれど……スタンピードを消滅させて欲しいの。平和の女神からの初依頼よ」
俺はセレミース様のその言葉に居住まいを正し、しっかりと頷いて返事をした。
「全力を尽くします」
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