第19話 襲撃と知らせ
ある日の夕方。リュカとレベッカはいつものように街の外で依頼をこなし、街中に戻ってきた。二人が依頼達成報告を済ませてギルドを出たのは、日が沈み始める頃だ。
「レベッカ、また明日」
「うん! 明日はそろそろダンジョンの依頼でも受ける? 私たちの連携も問題ないし行ってもいいんじゃないかな」
レベッカのその提案に、リュカは少しだけ悩むそぶりを見せたがすぐに頷いた。
「分かった。でもレベッカはダンジョン初めてなんだよな? 慎重に行こう」
「それはもちろん。ふふっ、明日が楽しみだね」
「明日のために今日は早く休むか」
「私もそうする。じゃあまた明日ね」
二人は予定を軽く決めると途中で分かれ、レベッカは自宅に向かうために狭い路地へ入った。人通りはほとんどなく街灯もないその路地は、この時間帯では少し不気味な雰囲気が漂う。
「明日はリュカの足手纏いにならないように頑張らないと」
しかしレベッカは慣れているからか気にしていないようで、後ろに背負う弓と腰に差してあるナイフに手を添えて頬を緩めた。
「今日もリュカに褒められちゃったよ。ふふっ、今まで頑張って練習してて良かった」
それからもレベッカはご機嫌に路地を進んでいき、そろそろ自宅があるアパートに着くから足を早めようとしたその瞬間、レベッカの耳が何かの音を察知した。
足を止めたレベッカは誰かが物でも落としたのかと思って辺りを見回し、しかし誰もいなかったので後ろを振り返ると――
――そこには、ローブ姿の男がいた。しかも今にもおでこ同士がくっつきそうというほどの至近距離に。
レベッカはあまりの衝撃に固まってその男と二秒ほど視線を合わせると、思いっきり叫んでその場を離れようとしたが……その男に阻まれた。
男はレベッカの口を無理やり手で塞ぎ、手加減なしにレベッカの腹を膝で蹴る。
「ガハッ……ゴホッゴホッ……っ」
腹を抱えて地面に蹲ったレベッカの首筋に手刀を落としたその男は、口元に嫌な笑みを浮かべてレベッカを抱えた。そして既に遠くの様子は見えないほどに暗くなった路地裏に、ずるずると何かを引きずるような僅かな音を響かせ消えていった。
〜〜〜〜〜
「お手紙届いてますよ〜。すぐに渡して欲しいってことだったので届けにきたんですけど、まだ寝てますかね?」
ん……うぅ。ドアを叩く音と人の声によって起こされた俺は、眠い目を擦ってベッドから起き上がった。窓の外を見るとまだ明るくなり始めた時間だ。
なんでこんな時間に手紙なんか……そう思いながらドアを開けると、宿で働く若い男性が困惑顔で立っていた。
「……手紙ですか?」
「はい。ついさっき男性がリュカに今すぐ渡せって置いて行かれて。多分リュカさんのことだと思うんですけど」
「そうですか……ありがとうございます。すぐ読んでみます」
男性に礼を告げてドアを閉め、ベッドに腰掛けてから手紙を開けてみると……そこには衝撃の内容が書かれていた。
――リュカ、今すぐ俺の宿に来い。武器は持ってくるんじゃねぇぞ。来なかったら仲間の女がどうなっても知らねぇからな――
「あいつ……っ!」
差出人の名前は書かれてないけど、この筆跡は間違いなくアドルフだ。そして仲間の女っていうのはレベッカだろう。俺に逆恨みして、レベッカを攫った……?
俺はレベッカの現状に嫌な想像が頭の中を駆け巡り、拳を握って爪を思いっきり手のひらに食い込ませた。
マジで、レベッカに手を出してたら……あいつ殺す。早く、早く助けに行かないと。
『セレミース様! レベッカがアドルフに、俺の元パーティーメンバーに攫われてしまって……!』
『リュカ、状況が分からないわ。落ち着きなさい』
『とりあえず……レベッカが危ないんです! 武器を持ってくるなって言われたので、神域に武器を置かせてください!』
俺はとにかく急がないとレベッカがまた何かされるかもしれないと焦り、ベッド脇に置かれていた剣を持つとすぐ神域に向かった。
いつもの定位置に降り立つと……目の前にセレミース様がいる。
「リュカ、大丈夫なの?」
「はい、いや、分からないです。これから助けに行くんですけど……既に何かされてるかも」
その言葉を聞いて眉間に皺を寄せたセレミース様は、俺の肩に手を置いて真剣な表情で口を開いた。
「レベッカが何かされていたら仮初の平和を使いなさい。ダメージをそいつに移してやるのよ。それならどんなに酷い怪我をしていても、レベッカは一瞬で治るから。光魔法なんかよりよほど早いわ」
そうか……俺にはセレミース様からもらった特別な能力があるんだった。
「仮初の平和って、どうやって発動するんですか?」
「ダメージを受けた対象者に近づいて、ダメージだけを体から抜き出すようにするの。紫色のモヤが出てくるから、それを固めて相手にぶつけなさい。固めたダメージは自由に動かせるわ。ただ気をつけないといけないのは、誰にも移さずに五分経つと自動で爆発することね。爆発の規模はダメージ量によるけれど……レベッカが耐えられる量ならば建物が壊れたりすることはないはずよ」
紫色のモヤとしてダメージを抽出して、それをアドルフにぶつければいいんだな。
「分かりました。レベッカが怪我をさせられていたら、アドルフに移します」
「ええ、頑張りなさい」
俺はセレミース様の少し黒い笑顔に背中を押され、拳を握りしめて下界に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます