第18話 別れと悪意

 大通りにずらっと屋台が並んでいて、広場にもたくさんの屋台がひしめき合っている。


「わぁ、凄い数ね」

「ここがこの辺で一番賑わってるんだ。あっ、あそこにアクセサリーが売ってるお店があるよ」

「本当ね」


 三人でその店に向かうと、店員の若い女性がにこやかに対応してくれる。


「いらっしゃいませ。どのようなアクセサリーをお探しですか?」

「鞄につけられるものを探してるの。三人でお揃いがいいんだけど」

「そうですね……三つ在庫があるものとなると、こちらのデザインのものしか今はございません」


 少し申し訳なさそうに差し出してくれたアクセサリーは、葉の形を模った大きな飾りが一つだけ付いたものだった。


「うーん、もう少し可愛さがあるものがいいかな」

「私もそう思うわ」

「あの……お二人さん? 俺はあんまり可愛いものは避けたいんだけど」


 俺のその言葉は軽く流された。まあ、いいんだけどさ。別に俺のアクセサリーを気にする人なんていないだろうし。


「他のお店に行きましょうか」

「そうだね。じゃあ次は広場のお店に行かない? 私のおすすめがあるの」

「そうなのね。ではそこに行きましょう」


 次のお店は広場に布を敷いてひっそりと展開されたお店だった。開いているのは髪が長くて暗い雰囲気の男性だ。でも並べられているアクセサリーは店主とは真逆の印象を受けるもので、とても綺麗で繊細で可愛らしい。

 こういうの、ジャンヌとロラがよくアドルフに買ってもらってたな……。


「レベッカ、これとても綺麗じゃないかしら」

「どれどれ……あっ、本当だ! 石の色が違うものもあるんだね」


 二人が手に取っているのは、小さな花がいくつも連なるシルバーアクセサリーだ。その真ん中の花にだけ小さな色付きのガラスが嵌め込まれている。


「それなら俺もいいかも。青だと可愛さはそんなに強調されないし」

「確かにリュカにも合うかもね。私は……黄色かな」

「私はピンクが良いわ」


 それぞれ好きな色を言ったところで顔を見合わせて、反対意見はなくこのアクセサリーを買うことで決まりになった。

 一つ銀貨一枚なので、少し高い夜ご飯ぐらいの値段だ。


「いいのが見つかって良かったね」

「ええ、本当に楽しかったわ。……レベッカ、リュカ、今日はありがとう」

「え、もう帰っちゃうの!?」

「夕方には予定があって、そろそろ帰らないとなの」


 アクセサリーを大切そうに胸に抱えながらそう言ったアンは、寂しそうな笑顔だ。


「そっか……予定があるならしょうがないね。また、空いてる日があったらぜひギルドに来て。一緒に遊ぼう?」

「本当にありがとう。もしまた遊べる日があれば、ギルドに行くわ」

「楽しみにしてるね」

「アン――アクセサリー、大切にする」


 アンの態度からなんとなくもう会えないんじゃないかと思ってそう伝えると、アンは嬉しそうに微笑んでくれた。


 雑踏に消えていくアンを見送った俺たちは、なんとなく楽しい気分にもなれなくて指先でアクセサリーをいじりながら、宿とレベッカの家に向かって歩みを進める。


「リュカ、また会えるかな」

「どうだろうな……なんか訳ありっぽかったし」

「やっぱりそう思った? 凄くお上品だったし、どこかの大きな商会のお嬢様とかなのかな」

「俺もそう思った。あの歳で魔法が使えるのに、実戦は初めてって言ってたし」


 お嬢様だと自由に外に出られないとかあるんだろうな。今までは恵まれた家に生まれた人を羨んだりしてたけど、よく考えたらいいことばかりじゃないよな。


「今日みたいにじゃなくても、私たちが依頼を受ける形とか、何かしら出会えるといいね」

「そうだな」


 それから俺たちは明日からの依頼について話をして、今日は早めにそれぞれの家に戻った。




ーアドルフ視点ー


 リュカのやつ……あいつのせいで、俺が恥をかくことになったんだ。絶対に、絶対に許さねぇ。

 パーティーから追放した途端に呪いが解けて強くなったとか、俺らを陥れるためにやったに決まってる……!


「アドルフ、これからどうするのよ。私はもう嫌よ、ギルドに行くたびに笑われる毎日なんて」

「ギルドでは私たちがリュカに捨てられたってことになってる。どうにかして」


 ジャンヌとロラは不機嫌さを隠そうともせず俺に文句をぶつけてくる。


「今考えてるんだから静かにしてろ」

「何よそれ、私たちの話も聞いてくれたっていいじゃない。アドルフはいつもそうよね。リュカを追放する時だって全部一人で決めたわ」

「……リュカを追放したのは間違いだった」


 俺は二人のその言葉にイラッとして、乱暴に椅子から立ち上がった。いつもいつも俺に責任をなすりつけようとしやがって……自分じゃ何も決められねぇくせに!


「俺に文句があるなら出ていけよ!」

「なんでそうすぐ感情的になるのよ! 私たちとの縁はそんな簡単に切れるものなの!?」

「そうだよ! お前らみたいな弱いやつら、俺がパーティー組んでやってるのも今だけだ!」


 感情に任せてジャンヌに怒鳴り返すと、ジャンヌとロラは俺を睨みつけてくる。そして何も言わずに部屋を出ていき……俺は一人になった。


 ――こうなったのも、全部あいつのせいだ。


 俺はギリっと奥歯を噛み締めて、リュカへの怒りを拳に乗せてテーブルを殴った。絶対に、あいつも同じところまで落としてやる。

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