第17話 街の案内

「実戦が初めてってことは、登録したばかりの冒険者?」


 ホーンラビットをとりあえず一カ所にまとめたレベッカが女性にそう聞くと、女性は少しだけ悩むそぶりを見せてから首を横に振った。


「……いえ、私は商会で働いていて、この街に滞在してるんです。今日は一日休みだったので、この街を色々と見て回る中で街の外にも少し行ってみようと思いまして……魔法が使えるから大丈夫だと思っていたのですが、考えが甘かったです」


 女性は俺たちから少し目を逸らして早口でそう述べた。この女性、何かを隠してる感じがするな……まあ隠したいことを追求するつもりはないけど。


「いくら魔法が使えるって言っても危ないんだからね」


 レベッカは特に不自然に思っていないのか、立ち上がって申し訳なさそうにしている女性を説教する姿勢だ。こういう初めて会った他人のことを真剣に考えられるところも、レベッカのいいところだよな。


「レベッカ、その辺にしよう。まだ名前すら名乗ってないし」

「あっ、そうだった。私はレベッカ。こっちはリュカで、二人でパーティーを組んでる冒険者なの。あなたは?」

「私は……アン、です。レベッカさん、リュカさん、ありがとうございました」


 アンと名乗った女性は綺麗な仕草で頭を下げると、口元に微笑みを乗せる。


「アンっていうんだ。これからの予定は決まってるの?」

「そうですね……とりあえずもう街の外は懲り懲りなので、街の中に戻ってお昼ご飯でも食べようかと思います」

「そっか。じゃあ私たちが街まで送るよ。もしよければ一緒にお昼も食べない? 一人より複数人の方が楽しいでしょ?」


 レベッカがアンにそんな提案をしてから俺に視線を向けたので、俺は了承を示すために頷いた。するとレベッカはアンに視線を戻し、アンは躊躇いながらもゆっくりと口を開く。


「……ご迷惑ではないでしょうか?」

「もちろん!」

「俺らの依頼はついさっき達成したところだから、ちょうど帰るところだったんだ」

「そうだったのですね。……では、よろしくお願いします」

「了解! これから一緒に行動するなら、そんなに堅苦しい話し方じゃなくていいよ」


 にこりと人懐っこい笑みを浮かべながらレベッカが発したその言葉にアンは緊張が解けたのか、体の力を抜いて頷いた。


「ありがとう。よろしくね」


 それから三人で街に戻った俺たちは、アンの二人がいつもご飯を食べているところに行ってみたいという言葉によって、冒険者ギルド内にある食堂に向かうことになった。


 食堂でそれぞれ好きな料理を注文すると、レベッカがテーブルに身を乗り出してアンの顔を覗き込む。


「それでそれで、ご飯を食べたらどこに行く?」

「おい、午後も一緒に行く前提なのか? アンにも予定があるんじゃ……」

「あっ、そっか。午後は何かある? もしなければ一緒に街を回らない? 私はこの街で生まれ育ったし、リュカも何年も住んでるから詳しいよ」


 レベッカはギルドに戻ってくるまでの道中でアンのことを気に入ったようで、かなり前のめりだ。そんなレベッカの様子にアンは嬉しそうに微笑んでいる。


「午後の予定は何もないわ。案内をお願いしても良いかしら?」

「もちろん! どこに行こうか。私のおすすめはたくさんの綺麗な花が咲いてる広場かな。後は舞台を見るのもあり? それから、ありきたりだけど市場で買い物とか」

「そうね……私はお買い物がしたいわ。何か今日の思い出になるものを」

「それいいね! 例えば鞄につけるアクセサリーとか?」


 レベッカのその提案にアンが嬉しそうに笑い、午後の予定はアクセサリー選びに決まった。

 レベッカは今までお金がなくてアクセサリーを買うことはできなかったけど、綺麗なアクセサリーを見て回るのは好きで、どこにどういう商品が売っているのかとても詳しいみたいだ。


「レベッカって街を見て回る時間もあったんだな。良かったよ」

「……どういうこと?」

「いや、もっと時間に追われて大変な毎日だったのかと思ってたから、今までも楽しい時間があって良かったなって」

「――リュカって、そういうことをサラッというよね」


 レベッカはボソッと何かを呟くと、少しだけ唇を尖らせてから俺に視線を向けた。


「これからはもっとたくさん楽しいことをしようね。私たちならお金がなくて依頼に追われてってことにはならないでしょ?」

「まあ、そうだな。余裕はできると思う」

「じゃあおしゃれな服をたくさん買ったりしたいな! リュカも欲しいものとかたくさん買おうね」


 俺はレベッカのその言葉が嬉しくて自然と笑顔になり、素直に頷いた。


「二人は仲が良いのね。羨ましいわ」

「アンは仲がいい人はいないの? 商会の同僚とか」

「そうね……声を掛けてくれる人はいるけど、仲が良いかと言われると首を振るしかないわね」

「そうなのね。じゃあ、私たちと友達になろうよ。この街にいる期間だけになっちゃうかもしれないけど……」


 近いうちに来る別れを実感したのか段々と勢いがなくなっていったレベッカの言葉だったけど、アンはとても嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。レベッカ、リュカ。あなたたちと会えて良かったわ」

「大袈裟だよ。じゃあ早く食べてアクセサリーを選びに行こ!」


 それから可もなく不可もないギルドの安い昼食を食べてから、俺たちはこの街の中で特に賑わう市場に向かった。

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