第16話 人助け

 レベッカが張り切ったことでホーンラビットを十匹も討伐した俺たちは、そろそろルーカの実を採取して帰ろうということで森の奥に進んでいた。

 ルーカの木は森の浅い部分にもたまにあるんだけど、奥の方がたくさんあるのでそこに向かった方が早いのだ。


「ホーンラビットは俺たちなら問題なく倒せるな」

「そうだね。ホーンラビットって魔物の中では弱い方だよね?」

「うーん、まあ強い方じゃないことは確かだな。でも風魔法を使った突進はかなりの速度だし、小さいから攻撃を当てるのが大変で苦戦する人もいると思う。アドルフはビッグボアの方が弱いって言ってたし」


 アドルフみたいに力はそこそこあるけど技術と素早さがないタイプは、攻撃が当たる的がデカいほどいいのだ。


「そういう人もいるんだね」

「うん。……あっ、あれじゃない? ルーカの実」

「本当だ!」


 ルーカの実はとても綺麗な青色で拳大のサイズだ。木の高い部分に生っているから、木登りをして採るか魔法を駆使して採るかの二択なんだけど、今までの俺は必然的に木登りをするしかなかった。

 でもこれからは魔法で簡単に採れる。ウィンドカッターで実を傷つけないように枝を切って、ウォーターボールで受け止めるのが一番かな。


 ――おおっ、予想以上に上手くいった。


「凄い! やっぱり魔法って便利だね。私も使えたらいいのにな」

「レベッカは魔力量が少ないんだっけ?」

「うん。土属性なんだけど、指先に乗るぐらいの砂粒しか作り出せないの」

「それだと……鍛錬したとしても難しいか」


 魔力量は鍛錬で少しは増やせるんだけど、増やせると言っても限度がある。やっぱり元々の魔力量に左右されるのだ。


「もう諦めてるからいいんだけどね。私は弓で頑張るよ」

「確かに魔法に時間かけてるなら弓を練習した方がいいな」

「うん……ん?」


 レベッカが突然遠くに視線を向けて黙ったのを見て、俺は魔物でも現れたのかと辺りを見回した。

 しかし慎重に見回しても何も視界に入らず、俺は首を傾げてレベッカに視線を戻した。


「どうした……」

「しっ! 静かにっ」


 俺の声を遮ったレベッカは、耳に手を当てて遠くの音を聴こうと眉間に皺を寄せている。

 何か聞こえるのか……?


「…………けて……だ、か……たすけて!」


 最後の言葉は俺にもはっきりと聞こえ、ハッと顔を上げるとレベッカも聞こえたのか、声の方向に視線を向けていた。


「向こうだな」

「うん。もしかしたら強い魔物に襲われてるのかも。慎重に行こう」

「分かった」


 弓と剣を構えてできる限り足音を殺して森を進むと……数分後に視界に飛び込んできたのは、ホーンラビットの群れに襲われる一人の女性だった。

 他には魔物がいないことを確認して、俺とレベッカは助けに入ることを決める。


「私はここから弓でホーンラビットを倒すから、リュカは女性の救出をお願い」

「分かった。俺もできる限り剣で倒す」


 身を潜めていた藪から剣を構えて飛び出した俺は、女性に群がるホーンラビットを蹴散らすため大振りに剣を振った。すると狙い通りにホーンラビットはその場から飛び退き、何ヶ所も怪我をした女性だけが地面に残される。


「大丈夫ですか!?」

「……は、はい、助けに来て、くださったのですか?」

「そうです。もう大丈夫なので安心してください」


 俺と女性がそんな会話をしている間に矢が放たれる音が三回聞こえ、その直後にホーンラビットが地面に倒れる音も同じ回数だけ聞こえてきた。

 さすがレベッカだ。しかしホーンラビットは全部で八匹いた、まだ五匹も残っている。


「二匹そっちに行った!」

「了解! ……はっ!」


 女性はたくさん怪我をしているけど擦り傷がほとんどで命の危険はなさそうだったので、とりあえずその場から動かないようにだけ伝えて俺はホーンラビット討伐に加わった。

 ホーンラビットは獲物を横取りされたからか怒っているようで、さっきまで倒していたやつらよりも動きが素早く凶暴だ。


 五匹のうち三匹が一斉に俺に向かって飛びかかってきたので、二匹をウォーターボールで吹き飛ばして最後の一匹は剣で切り伏せる。

 残りの二匹は仲間が次々とやられて躊躇ったのか、少し動きが鈍くなったところをレベッカの矢が貫いた。


「ふぅ、これで全部だな」

「うん、他にはいないみたい。たくさんいたけど怪我せずに倒せて良かったね」


 レベッカと健闘を讃えあい、周囲に他の魔物がいないかをもう一度確認したところで女性を振り返ると……そこには、自分でヒールをかけている女性がいた。しかも泥汚れも水魔法を使って落としている。


「……魔法、使えたんですか?」

「はい、あの、本当にすみません。攻撃魔法も使えたのですが実戦で使ったのは初めてで、あまりにも魔物の数が多くて混乱してしまって……本当に助かりました。ありがとうございます」


 そういうことだったのか。確かに魔法って焦ると上手く発動しないんだよな。色んな本にまずは落ち着いてイメージを固めることが大切だって書かれていた。

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