第15話 レベッカの能力
ホーンラビットが多数目撃されていたのは王都近くの森の中だったので、レベッカと周囲を警戒しつつ目的地に向かった。
街道を少し進んで草原を抜けて森に入る。
「やっぱり森の中は視界が悪くて緊張するね……」
「うん。木の上も警戒しないとだし、かなり疲れる。レベッカって今までは薬草採取の依頼しか基本的には受けてなかったけど、魔物討伐の経験もあるんだよな?」
俺がレベッカの弓とナイフの実力を知っていたのは、ギルドの訓練場で何度か遭遇したことがあるからだ。早朝の他の冒険者がほとんどいない時間に、レベッカはいつも熱心に練習していた。
ただ実戦を見たことはないので、レベッカの訓練じゃない戦い方と実力はまだ分からない。
「もちろんあるよ。依頼って形で魔物を討伐したことはないけど、うちの食卓にお肉を増やすためと残りの素材を売ってお金にするために、薬草採取の後で時間が余ったら魔物を見つけてたから」
「そうだったんだ。じゃあ安心だな」
「うん、任せて。私も役に立つよ!」
拳を握ってそう宣言したレベッカは、自信ありげな笑みを浮かべた。
それからまた魔物の探索を再開して、俺たちはついに一匹目のホーンラビットを見つけていた。数本先の木の根元で、食事中なのか立ち止まっているようだ。
レベッカはホーンラビットの様子を確認すると俺に視線を向けて頷いて見せ、素早く弓を構えた。そして弓を引く僅かな音にホーンラビットが反応して耳を立てた瞬間、レベッカの弓から矢が放たれる。
その矢はまるでホーンラビット側から引き寄せられているかのように、真っ直ぐとホーンラビットに向かって飛んでいき……眉間に突き刺さった。
「これで一匹だね」
「……ちょ、ちょっと待って!?」
あまりの衝撃に発した声が裏返ってしまう。
「どうしたの?」
「レベッカってこんなに弓が上手かったのか……あの、本当に、心から驚いてる」
普通は鍛錬で上手く出来てるからって、実戦は全く違うものだ。訓練場とは違って距離感を測れないし、風は吹いてるし、森の中は薄暗いし、それを一発で命中させるとか……
「今のって、まぐれ?」
「え? いつも通りだけど」
「レベッカって、もしかして天才……?」
弓に相当の才能があるのかもしれない。前にアドルフたちが別のパーティーと合同で依頼を受けるって連れてきた冒険者に弓士がいたけど、こんなに精度は高くなかった。
小さな魔物になんて当たればラッキーって感じだったはずだ。
「そんなことないよ〜。このぐらい普通じゃないの?」
「お……れも詳しいことは分からないけど、とにかく凄いと思う。弓って精度が高ければ高いほど強いから、レベッカは強い魔物にも通用するかも」
どんなに強い魔物にだって弱点はあるものだ。それを遠くから狙えるとか仲間としてとても心強い。
レベッカとパーティーを組もうと決めた時は、俺がレベッカを守ればいいし助ければいいと思っていた。それは傲慢だったかもしれないな……俺もレベッカに、たくさん助けてもらうことになりそうだ。
「レベッカ、お金を貯めたらいい弓を買おう。本で読んだけど、弓の性能によって矢の威力が何倍にも跳ね上がるらしいよ」
「そうなんだ。じゃあ私の直近の目標は弓の購入にしようかな」
「うん。魔法が付与されたやつにしようか。魔道具の武器が最近は作られてるらしいから」
魔物から取れる魔石をエネルギー源にして動く魔道具という便利なものがあるけど、最近は魔道具の武器まで開発されているのだ。
炎が出る剣とか色々と作られたけど、弓が一番魔道具との相性が良いらしい。
「私もそれ知ってる! 憧れだったんだけど、絶対に買えるような値段じゃないなって思ってたの」
「確かにかなり高いと思うけど、頑張って依頼を受ければそのうち買えるはず」
「本当!? じゃあ私、頑張るね。リュカの剣も買おうね」
「うん。俺の剣は……魔道具である必要はないから普通のやつかな」
俺は自分で全部の属性魔法が使えるし、剣から火が出てもあまり使い道はない。それよりも振りやすさや切れ味の良さの方が大切だ。
「リュカには細身な剣が合いそうだよね。まあまずは、お金を貯めてから考えようか」
「そうだな。じゃあ次の魔物を探そう。……と、その前に倒したホーンラビットだな」
とりあえず討伐証明部位である角だけ切り取って鞄にしまって、他の部位は神域に送ろう。
『セレミース様、後でホーンラビットは片付けに行きます』
『分かったわ。景観が悪くなるから早めにね』
『分かりました。遅くとも今夜には必ず』
「じゃあレベッカ、次の魔物を探しに行こう」
セレミース様との会話を終えてレベッカに視線を向けると、レベッカは感動の面持ちでホーンラビットが消えた場所を見つめていた。
「神域干渉って、本当に凄い能力だよね」
「便利だよな」
「今ちゃんと有用性を認識した気がする。こうして倒した魔物を神域に入れておけば、悪くなることもないんだよね?」
「うん。だからこれから討伐した魔物は全て無駄なく食料にできるよ」
レベッカに一番響くだろう言葉を口にすると、レベッカは瞳を輝かせて拳を握りしめた。
「分かった。じゃあたくさん倒そうか!」
やる気満々なレベッカの表情に、俺は苦笑しつつ頷いた。
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