第14話 依頼受注と街の外へ

「リュカ、これからどうする?」


 パーティー申請をして素材の売却を済ませたところで、俺はレベッカと顔を見合わせた。さすがにこれから依頼を受けるには時間が遅すぎる。


「依頼を吟味して受注だけして、実際に受けるのは明日以降にするとか?」

「それいいね!」

「……そういえば今更だけど、レベッカは毎日冒険者として働けるのか? お母さんは本調子に戻ってるわけじゃないと思うけど」


 俺のその問いかけに少しだけ考え込んでから、レベッカはにっこりと笑みを浮かべて頷いた。


「大丈夫だと思う。家の中でなら動けてたから、私は外で働いてお金を稼いだ方が家のためになるかな」

「そっか、じゃあ頑張って稼ごう」


 五級の依頼が貼られた掲示板に向かうと、そこには十枚ほどの依頼が受注されずに残っていた。その中には何週間も残っている依頼もある。


「魔物の討伐依頼が良いかなと思ってるんだけど、レベッカはどう思う?」

「二人で受けるんだし私もそれで良いと思う。あとは同じ場所で採取できそうな植物の採取依頼とか、どこででも採取できる薬草採取依頼とか、その辺を一緒に受けたらいいんじゃないかな」

「確かにその方が効率的だな。……じゃあ、これとこれはどう?」


 俺が選んだのは繁殖して数が増えているらしいホーンラビットの討伐依頼と、ホーンラビットの目撃数が多い場所で採取できるだろうルーカの実の採取依頼だ。


「いいと思う」

「じゃあこの二つにするか」


 それから依頼の受注受付を済ませた俺たちは、ギルドを出て大通りをゆっくりと歩いている。


「俺たちの戦い方だけど、基本的には俺が剣を持って前衛でレベッカが弓で後衛でいいか?」

「うん、それでいいよ。私は基本的には弓で、近づかれた時だけナイフを使う戦い方だから」

「分かった。俺は剣と魔法を組み合わせる感じになるかな」


 俺のその言葉を聞いたレベッカは周囲を気にするそぶりを見せたあと、俺の耳元に口を寄せて小声で質問した。


「リュカは神力行使で全部の属性魔法が使えると思うけど、公にするのはどの属性にするの?」


 それも考えないとだよな……基本的に魔法属性は三つあればかなり稀だから、そのぐらいの数に留めておかないといけない。


「今のところは火魔法、水魔法、光魔法かなと思ってる」

「確かに……一番いい選択かもね」


 光魔法はヒールとライトがあるから絶対に必要だし、火魔法と水魔法は攻撃力としてもいいけど、街の外ですぐに火と水が作れるのは凄く便利なのだ。


「その三つで覚えておくね」

「よろしくな。じゃあ俺はこっちだから、また明日」

「うん。リュカ、また明日ね」


 レベッカとまた明日と言い合えることが嬉しくて、俺は遠ざかっていくレベッカの後ろ姿を見つめながら幸せを噛み締めた。アドルフたちのパーティーでなんとか耐えてた時には、こんな未来が来るなんて予想できなかったな。


『セレミース様、ありがとうございます』

『ふふっ、突然どうしたの?』

『なんだかお礼を言いたい気分になりました』

『そう。では素直に受け取っておくわ』


 それから俺はセレミース様と話をしながら宿に戻り、明日のために軽くストレッチをしてから早めにベッドに入った。明日が楽しみだな……そんなふうに思ったのは数年ぶりのことだった。



 次の日の朝。朝早くに宿を出て、レベッカとの待ち合わせ場所である門前広場に向かった。外壁に囲まれた王都には何ヶ所か外に続く外門があり、その前には広場が広がっているのだ。


「あっ、リュカ! おはよー!」

「レベッカ、おはよ」


 朝から元気いっぱいなレベッカが駆けてくるのが遠くに見えて、俺は片手をあげてレベッカを迎えた。


「待った?」

「ううん、ちょうど今来たところだから大丈夫。この時間で家のことは大丈夫だった?」

「うん。お母さんが凄い勢いで元気になってて、今日は朝ご飯作りも一緒にやったから」

「おおっ、それは良かった。じゃあ心配なく依頼に集中できるな」

「頑張るよ!」


 やる気十分なレベッカと一緒に街の外に出ると、今までと同じ場所なはずなのに、目の前に広がる光景がいつもとは違うものに感じて思わず足が止まった。


 気持ちが前向きかどうかで、ここまで違って見えるんだな……今まではこの場所に来るとこれからの苦行に憂鬱になってたけど、今胸に広がるのは期待感だ。


 もう皆の重い荷物を吐きそうになりながら運ぶ必要はないし、気まぐれのように魔物と戦わされて死にかけることもないのか。


「こんなに綺麗だったんだな……」

「ん? リュカ、どうしたの?」


 少しだけ先に進んでいたレベッカが、足を止めていた俺に気づいて振り返った。青空をバックにこちらを向くレベッカがとても眩しく見えて、少しだけ目を細めてから……俺は一歩を踏み出した。


 その一歩はとても軽い足取りで、俺の楽しい心のうちを表しているかのようだった。

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