第13話 パーティー結成
レベッカの家を出てなんとか宿に帰った俺は、宿のベッドでそのまま泥のように眠った。そして全く目が覚めずに……部屋のドアがノックされる音で意識が浮上する。
「リュカ、まだ寝てるの?」
「ん……ちょっと待って、今起きた」
レベッカの声に返答してドアを開けると、かなり泣いたのか瞳が赤くて瞼が腫れぼったいレベッカがいた。でも晴れやかな表情なので、お母さんが治ってなかったとかそういうことじゃなさそうだ。
「リュカ……本当にありがとう!」
「うわっ」
レベッカに突然抱きつかれた俺は、その勢いを受け止めきれなくて床に座り込んでしまった。しかしそんなことも気にせず、レベッカは俺を抱きしめる腕に力を入れる。
「お母さん、リュカが帰ってしばらくしてから起きたの。そしたら凄く体が楽で咳も出ないって。今日の朝ご飯も作れたの……!」
「――そっか。良かったな」
レベッカの声が少し震えているのを感じ、俺はレベッカの背中にそっと手を回した。
「これからは家族皆で楽しく暮らせるな」
「うん、うん……!」
それから俺はレベッカが落ち着くまでそのままでいて、落ち着いたところで椅子とベッドに場所を移した。
「取り乱してごめんね」
「大丈夫。それで……話があるんだっけ?」
「うん。あのさ、リュカが眷属になったことを知った後にこんなことを言うのは卑怯かもしれないんだけど、もし良ければ――――私とパーティーを組みませんか!」
手はスカートを握りしめて瞳をギュッと瞑って、緊張している様子でレベッカが告げてくれた言葉はとても嬉しいものだった。
「逆に、俺でいいの?」
「いいに決まってるじゃん! リュカがいい!」
俺の問いかけにガバッと顔を上げて、悩むこともなくレベッカは頷いた。
――村で唯一生き残ってから、初めて心から仲間だと言える存在ができた気がするな。
「ありがと。俺もレベッカとパーティーを組めたら嬉しいよ。これからよろしく」
「本当……? いいの?」
「もちろん」
「……リュカ、これからよろしくね!」
嬉しそうに俺の手を握ってくれたレベッカの手は温かくて、俺の心まで温かくなった。
宿を出た俺たちは、素材を売るためとパーティー申請をするために冒険者ギルドへと向かっている。さっき一度神域に行って、まだたくさんある魔物の素材を少し持ってきたのだ。
昨日売ることができた素材だけだと数日分の生活費にしかならなかったので、もっと稼ぐ必要がある。
神域干渉のことはバレないようにしないとだし、素材を入れる大きなリュックを買わないとだな。前に使ってたやつはアドルフたちの持ち物だったから、今はこの小さな鞄しかない。
「ギルドに行ったらどんな反応されるかな」
「どうだろうね。等級が上の冒険者は今まで通りじゃないかな。リュカをいじめてたような人たちは……急に擦り寄ってくるか、気まずさから遠巻きにするかのどちらかかな」
「そのぐらいなら害はないから問題ないな。あとはアドルフたちがどうなるかだな……」
恥をかかされたと俺を恨んで何かをしてくるか、もう関わってこないのか。
「昨日はどうだったの? リュカはギルドに戻ったでしょ?」
「その時はもういなかったんだ」
「そっか。それもまた怖いね」
レベッカとそんな話をしていると冒険者ギルドが見えてきて、俺たちは二人でギルド内に入った。昼過ぎの微妙な時間ということもありギルド内は閑散としていたけど……それでも数人いた冒険者にはジロジロと視線を向けられる。
「居心地悪いな」
「これもそのうちなくなると思うけどね。今は話題の人物だから」
悪戯な笑みを浮かべて俺の顔を覗き込みながらそう言ったレベッカに、俺は苦笑を浮かべるしかない。悪目立ちしてるのか、突然発揮した実力に注目されてるのか微妙なところだ。
「あの人たちはリュカに何かしてきてた人だっけ?」
「うーん、あんまり記憶にないからほとんど関わりはなかったと思う。直接何かをされたりはしてないんじゃないかな」
「じゃあ見て見ぬ振りをしてたってことか」
「まあそこは、冒険者として仕方ないよ。基本的に自己責任だから」
二人で受付に向かうと、もう何年もこのギルドで受付をしているベテランの女性がにっこりと笑みを浮かべて声をかけてくれた。
この女性は淡々と仕事をこなす人で、どの冒険者も贔屓しないので俺はかなり好きな人だ。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日はパーティー申請に来ました。俺とレベッカでパーティーを作りたいです」
「かしこまりました。ではこちらの申請書に記入をお願いいたします」
俺はペンと紙を受け取って、初めて書くパーティー申請書に上から目を通した。冒険者ギルドのパーティーというのは依頼を受けた際の報酬について揉めないようにするためとか、複数人で依頼を受ける際の手続きを簡略化するためとか、そういう理由で元々は作られたものだけど今はもっと別の意味を持つ。
有名になったパーティーには名前が付けられ、それがそのまま信頼になるのだ。名前は貴族や国に与えられることもあれば、ギルドから与えられることもある。強大な魔物を討伐した時には、その事実がパーティー名となることもある。
ちなみにそれは他国にも通じる名前だ。そもそも冒険者ギルドというのは各国のトップが集まる世界会議が運営主体……らしい。曖昧なのは俺も詳しくは知らないからだ。そう何かの本に書いてあった。
そんな組織だからこそ、パーティー名というのはとても大きな意味を持つ。
「これでお願いします」
申請書はそこまでたくさんの記入欄があるのではなく、すぐに書き終えることができた。受付に手渡すとそのまま受理してもらえる。
「こちらがパーティーカードでございます。パーティーで依頼を受ける際にはご提示ください。また依頼は皆様の各等級と同じ等級以下に分けられた依頼しか受けていただくことはできませんが、パーティーの場合は皆様の等級を足して人数で割った等級が適応されますので、よろしくお願いいたします。小数点以下は四捨五入ですのでご了承ください」
「分かりました。ありがとうございます」
今は俺もレベッカも五級だし全く関係ない話だけど、早めに冒険者ギルドの等級は上げたいよな……低級だと街中の依頼や弱い魔物の討伐依頼、薬草の採取など、大切なんだけど物足りない依頼しかない。
呪いに関して調べるためにも、強い力によって悲しい過去を背負う人を減らしたいという俺の願いのためにも、最低でも三級には上がりたい。
セレミース様にとりあえずは自由にしていいって言われてるし、これからは昇級目指して頑張ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます