第8話 リュカの実力
俺は鞘から剣を引き抜くと、俺らをバカにしていた冒険者全員に鋭い剣先を向けた。光が反射して鋭利な切先がきらりと光る。
「今までの俺は弱かったから言い返さなかったけど、ずっと言いたかったことがあるんだ。お前らって、マジでカッコ悪いよな。自分よりも弱いものを探して虐めて、本当は自分が弱いって分かってるから、より弱いものを見つけて虐めないと安心できないんだろ? 可哀想だよな。アドルフもそうだろ? 自分の弱さが露呈しないように、より弱い俺を仲間にしてたんだろ?」
今までずっと思ってたけど言えなかったことを口にすると、アドルフは顔を真っ赤にして怒りの形相で剣を抜いた。さらに俺のことを馬鹿にしていた冒険者も一斉に剣を抜き、ほぼ同じタイミングで襲いかかってくる。
俺はそいつら全員の攻撃を見極めて剣で受け流し、体勢を崩した男たちを次々と蹴り飛ばした。こいつらってこんなに弱かったんだな……
俺対総勢十数名の男たちの戦いは、一分にも満たない時間で幕を下ろした。
「リュカ……凄い! 凄く強くなってない!? どうしたの?」
ギルドの床に転がっているアドルフたちと俺を見比べて、レベッカは大興奮だ。
「実は、俺が今まで強くなれなかった理由が分かったんだ。結構強力な呪いだったんだって。それが色々あって解けたから、今までの努力の成果が一気に現れてるって」
「そっか……そうだったんだ。リュカ、良かったね!」
レベッカは心からの笑みを浮かべて、俺に起こった奇跡を一緒に喜んでくれる。
「うん。本当に良かった」
「今までずっとリュカが頑張ってきたことは知ってるから、その成果が呪いが解けたことによって解放されたならこんなに強くなってることも納得だよ」
俺とレベッカが呪いからの解放に関して話をしていると、さっきの戦闘には参加していなかったジャンヌとロラが俺を鋭い視線で睨みつけてきた。
「リュカ! なんで私たちのパーティーにいる時にその力を発揮しないのよ! まさか、私たちのパーティーを陥れようとわざと弱く見せてたんじゃないでしょうね!?」
「はぁ、そんなことするわけないだろ」
ジャンヌの言い掛かりに反論する気力も起きず、思わずため息が溢れてしまう。
「リュカ、その実力ならまたパーティーに入れてやってもいい」
「はぁ? 俺の無能さを笑うためにパーティーに入れたとか言うやつらと、また仲間になりたい訳がないだろ?」
その上から目線で、また俺が仲間になると思ってるのが凄いよな。逆に尊敬する。
「こ、こんなの、何かの間違いだ……! リュカ、お前イカサマをしたんだろ!」
床で悶えていたアドルフが腹を押さえながらなんとか立ち上がると、俺を睨みつけてきた。
「まだそんなこと言ってるのか。なら一対一で決闘でもやるか?」
「アドルフ、あなたはもうリュカに勝てないと思うよ。そもそも毎日必死に努力してるリュカより、全く鍛錬しないアドルフの方が強いのはおかしいと思ってたんだよね。呪いなら納得できる」
レベッカのその言葉に、この騒動を周りで見学していた冒険者の一部が頷いてくれているのが見えた。
俺のことを馬鹿にしていたのは基本的に等級が低い冒険者で、等級が上の冒険者たちはそもそも弱いものイジメなんてしないのだ。
俺が訓練場で鍛錬していたら剣の振り方を教えてくれたり、あまりにも酷く馬鹿にされていたらさりげなく止めてくれる人もいた。
でも等級が上になるほど冒険者の数は減るし、長期依頼に行くことも多くてギルドを不在にすることが増えるから、どうしてもギルド内は下の上のやつらが威張る場所になる。
「リュカ、さっきの動きは凄く良かったぞ。なんであんなに努力してるお前が強くなれないのかと思ってたが、呪いだったんだな。さっきのお前の動きを見てる限り、二級も狙えるんじゃないか?」
ちょうどこの場にいた、高等級の冒険者が声を掛けてくれた。俺はその言葉が嬉しすぎて舞い上がる。
眷属の能力を全く使っていない、剣の実力だけで二級も狙えるとか……嬉しすぎる。
冒険者ギルドは各国共通の評価基準があって、五級から一級に分かれている。一級は国を救うレベルの活躍をした冒険者に贈られるものなので、実質的には二級が一般的に出会える冒険者の頂点なのだ。
その二級も狙えるとか……今まで必死に努力してきて良かった。
「ありがとうございます!」
「これからお前は上に行きそうだな。俺も抜かれないように頑張らねぇと」
現在三級冒険者の男性が発したその言葉に、さっきまで俺を馬鹿にしていた冒険者たちの顔色が変わる。
「おいアドルフ、ずっと思ってたんだけどよ、お前は弱いし小せぇ男だな。リュカの方が余程かっこいいぜ? そんなんだからずっと四級止まりなんだ」
アドルフはその言葉に何も反論できないようで、その場で項垂れた。それを見て騒動の終わりを悟った冒険者たちは、各々受付に向かったりギルドを後にしたりと行動を再開する。
「レベッカ、庇ってくれて本当にありがと。嬉しかった」
「何の役にも立てなかったけどね。リュカが戦ってるのも後ろから呆然と見てることしかできなかったし」
「ううん。味方になってくれて凄く心強かったから」
「……そっか。うん、それなら良かった」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべたレベッカの表情を見て、俺も自然と笑顔になった。
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