第7話 王都に戻る

 王都に戻ることができたのは、ちょうど日が沈み始める時間だ。行きは丸三日かかった村までの道中だけど、帰りは約一日で踏破できた。夜は神域でしっかりと休んだし、コンディションは悪くない。


 冒険者カードを提示して街中に入り、ギルドを目指して歩き慣れた道を進む。この時間のギルドはかなり混んでるから行きたくないんだけど、魔物の素材を売らないとお金が全くないのだ。


 アドルフたちはいるかなぁ。というかあの様子だと、俺をパーティーから追い出した話を面白おかしく風聴してそうだ。絶対ギルドに入ったら注目の的だな。悪い意味で。


 これからどうするか……平和の女神様の眷属となったことは公にしない方がいいらしいから秘密にするとして、強くなったことは広めないとしばらく絡まれ続けることになる。

 それは面倒だから力を見せつけておきたいよな。眷属の能力は使わずに、呪いが解けたことによる努力の成果で。


 そんなことを考えながら歩みを進めていると、すぐに冒険者ギルドが見えてきた。考えはまとまってないけど……まあ、なるようになるだろう。

 

 以前は中に入るたびに蔑みの瞳を向けられていたのでトラウマになっていたギルドだけど、自分でも驚くほど躊躇いなくドアに手をかけた。そして一気に開くと……中にいた顔見知りの冒険者たちが、俺を見て顔を侮蔑に歪める。


「おいおい、無能のリュカが帰ってきたぞ」

「自分の無能さに気づいて、尻尾丸めて田舎に帰ったんじゃねぇのか?」

「いや、もしかしたら依頼主かもしれねぇぞ? 田舎の村に帰るのに獣に殺されちゃうから、護衛が欲しいですぅ〜てな」

「ギャハハハハ、仮にも冒険者が護衛を雇うとか、……っ、け、傑作だなっ」


 はぁ……やっぱり前より酷くなってるし。前みたいに悔しい気持ちは湧かないけど、怒りは湧くな。こいつらどうしてくれようか。

 でもここで怒りに任せて暴力に訴えたら、それこそこいつらと同じレベルに下がることになる。それは絶対にダメだ。


「冒険者がギルドに来て何が悪いんだ」

「あぁん? おいリュカ、お前俺たちに口答えしていいと思ってんのか!?」


 沸点が低い図体だけはデカい男が、服の襟を掴んでガン飛ばしてくる。前は怖さで何も考えられなかったけど、今思えばこいつらって弱い者にしか強く出られない格好悪いやつらだよな。


「お前みたいな無能は、俺ら強者に従ってればいいんだ……!」


 俺が謝らないことが余程気に障ったのか、男は怒りの形相で俺の顔面に拳を振り下ろし……俺はそれを片手で掴んで止めた。


 おおっ、マジで軽い。神の眷属は神力を体に取り込むことで身体機能が上昇はするけど、それは個々人が元々持つ能力に左右されるって話だった。

 ということは、この力は俺本人のものってことなんだよな。本当に嬉しいし、どれほど呪いの影響が大きかったのかが分かる。


「なっ……お前」


 俺に渾身の一撃を止められた男が驚愕に瞳を見開いた瞬間、奥から声をかけてくるやつがいた。


 ――アドルフだ。隣にはジャンヌとロラもいる。


「やっと無能な自分に気づいて王都から出て行ったんだと思ってたら、また戻ってきたのか? お前、正真正銘のバカだな」

「俺は冒険者だからな」

「ブハッ……っ、わ、笑わせるなよっ、も、もしかして、ソロでやっていく気か? それとも俺たちにまたパーティーに入れてくれ〜って頼みに来たのか?」


 蔑みの瞳を隠そうともせずに告げられたその言葉を聞いて、俺はこいつのことを仲間だと思ってた過去の自分に怒りが湧いた。

 人って余裕がないと、視野が狭くなるよな。


「まあ、土下座して俺の靴を舐めたら考えてやらないこともねぇよ?」

「はぁ……そんなのやるわけないだろ。もうお前らのことは仲間だと思ってない。お前らから追放したんだから俺に構うなよ」

「……おいリュカ、なんだよその言葉遣い。敬語を使えよ敬語をなぁ? それにお前じゃねぇだろ! アドルフさんだろうが!」


 ああ、本当にうるさい。やっぱりダメだな。一度実力を示さないとずっとこうやって絡まれそうだ。訓練場で決闘でもすれば……


 そう考えて剣に手を添えたその瞬間、俺の前に小柄な人物が両手を広げて飛び込んできた。


「いい大人が弱いものイジメなんてして、恥ずかしくないの!? リュカは毎日必死に努力してて、あなたたちの何倍もかっこいいんだから!」


 レベッカだ。レベッカは俺と同い年で十六歳の女の子で、前から俺のことを気にかけてくれていた。

 こうして俺の味方をしてくれる人が一人でもいるだけで、本当に心強いし嬉しいよな。俺はこの世界に一人じゃないと思える。


「ぷっ、薬草採取しかできねぇ嬢ちゃんが何か言ってるぞ?」

「おいおい、言ってやるなよ。嬢ちゃんには薬草採取が精一杯なんだからよ」


 冒険者は新たな獲物が来たとばかりに、レベッカに対して嘲笑を浮かべて蔑みの言葉を投げつけた。それを聞いたレベッカが悔しそうに唇を噛み締めたのを見て……俺は無意識に体が動いていた。

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