第6話 魔物との戦闘

「動物じゃなくて最初から魔物とか……!」


 動物は魔法を使わない獣だけど、魔物は魔法を使いこなす獣だ。父さんとこの山で狩りをしてた時は魔物と遭遇するのなんて年に数回だったのに、運が悪い!


 俺は思わずビッグボアに背を向けて、みっともなく逃げ出してしまった。自分が強くなっていることは頭では分かっているのだけど、どうしても魔物に何度も殺されかけたここ数年の記憶が甦る。


『リュカ、貴方はビッグボアになんて負けるわけがないわよ?』

『分かってるんですけど、体が勝手に……!』

『背を向けた方が危ないわ。覚悟を決めなさい』


 セレミース様の強い口調が頭の中に響き、逃げている自分が情けなくなる。

 無能だけど気概だけは無くさないようにとずっと思ってきたのに、成果が出なくても毎日必死に鍛錬してきたのに。


 俺はこの場で逃げたら過去の自分に申し訳が立たないと思い、震える手で剣の柄をぎゅっと握りしめた。そして意を決して後ろを振り向く。


 するとすぐ近くまでビッグボアが迫ってきていて……俺はビッグボアに、何千回も何万回も練習した剣での受け流しを試みた。


 今までは上手く受け流せずモロに攻撃を喰らったり、魔物に剣が変に刺さってしまい引き摺られたりしていた受け流しだが……俺の理想の形で綺麗に決まって、ビッグボアの突進を無傷でやり過ごすことができた。


「凄い……!」

『やればできるじゃない』


 突進の方向を少し変えられたビッグボアは、勢いを止められず近くの木に激突していたので……俺はその隙を逃さずに後ろからビッグボアめがけて剣を振り下ろした。

 すると俺の剣は予想以上に抵抗なくビッグボアを切り裂き、ビッグボアは断末魔の叫び声をあげてその場に崩れ落ちた。


「マジか、一人で倒せたよ……ビッグボアを倒せた!」


 今まではもっと弱い魔物にだって殺されかけてたのに。俺は目の前に倒れるビッグボアと剣が肉を断つ感触を思い出し、トラウマを克服できたことを感じた。


 もう魔物を過剰に恐れる必要はない。俺は、強くなったんだ。


『セレミース様! 俺を眷属にしてくださり、本当にありがとうございます……!』

『感謝なんて良いのよ。あなたを選んで良かったわ』


 それから強くなった自分が楽しくて仕方がなくなった俺は、山の奥に入って魔物をわざわざ探し出して討伐した。そして五体目のビッグボアを倒したところでやっと少し満足する。


「楽しすぎる。森の中を走っても転ばない、こんなに動いたのに疲れから倒れ込まない、剣を持ってる腕が痺れない」


 今思えば眷属になる以前の俺は明らかにおかしかったよな……でも日常生活を送る上で問題があるほどじゃなかったから、呪いの影響かもしれないなんて考えなかった。


『リュカ、せっかく討伐した魔物をそのまま置いていくのは勿体ないわ。解体して持ち帰ればお金になるんじゃないの?』

『そうですが、大きなリュックも持ってないですし、持ち運ぶにしても少ししか……』

『あら、説明しなかったかしら。神域干渉は収納としても使えるのよ? 人間は神域に入った場所にしか出られないけれど、物はその限りではないの。だから荷物は神域に置いておけば、いつでもどこからでも取り出せるわよ。それに神域にあるものは全て劣化しないから、さっきから倒している魔物の肉だって新鮮なままいつまでも保存できるわ』


 俺はセレミース様と出会ってから聞いた話の中で、今の説明が一番衝撃を受けて固まってしまった。だって神域に入れたものは劣化しないって……あり得ないほどに便利すぎる能力だ。


『……肉はすぐ腐りますけど、神域に持っていけば腐らないんですか?』

『ええ、そうよ。温かい料理はいつまでも出来立てのままだし、食品以外にも服とか武器とか、そういうものも劣化しないわ』

『便利すぎて驚きすぎて、逆に冷静になってきました』


 俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、頭の中でセレミース様の言葉を反芻して気になったことを口にした。


『神域にものだけ送るってことはできますか?』

『出来るけれど、その場合はあなたがさっき神域に来た時に立っていた場所に物が積み上がることになるわね。だから繊細なものは手に持って神域に持ち込んだ方が良いし、例えば魔物肉なんかを適当に神域に放り込んだとしても、それを片付けには来て欲しいわ』

『じゃあできれば、一つ一つ俺が持ち込んだ方がいいですね。神域から取り出す時は俺が一度神域に行って、取り出したいものを探さないといけないんですよね?』

『そうなるわ』


 なんとなく使い方が分かったな。この能力があるってことは、これから俺はいくら魔物を倒しても全部持ち帰れるってことだ。

 ダンジョンに何日潜っても全部持ち帰れるとか、いくら稼げるのか見当もつかない。


『とりあえず、倒した魔物を回収して神域に送ってみます』


 それから俺は神域干渉の凄さに感動しながら魔物を神域に持ち運び、能力の試用を終えて王都に向かって村を後にした。




〜あとがき〜

面白い、続きが気になると思ってくださいましたら、ぜひ小説のフォローや☆評価をお願いいたします。とても励みになります!


明日の投稿でリュカは王都に戻ります。追放されたパーティーメンバーとのあれこれや、色々と話が動く展開がありますので楽しみにお待ちください!


蒼井美紗

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る